act.03 スペシャルコーチ
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降谷side
毛利先生にコーチをしてほしいと話があったので、二つ返事でOKを出し朝早くに伊豆高原に着いた。
そして体を慣らしていると知ったメンバーが現地に着いた。
そこで少し話をしていると、予想外の人物の名前があがった。
椿さんだ。
何故彼女がここに?と思ったが、どうやら蘭さんからのお誘いだと言う。
彼女の車でここまで来たそうだ。
何本かサーブやスマッシュを打っていると、髪を一つに括り欠伸をしながらコートに入って来た彼女。
その格好はあまりにもやる気が無さそうで笑ってしまった。
余っていたラケットを彼女に渡せばガットの感覚を確かめていて、その事からテニスはした事があるのだなと窺える。
すると、彼女の視線は自分の顔に向けられていて、何故かじっと見られている。
「僕の顔に何かついてます?」
「ん?いや、寝たんだなと思いまして」
ああ、そう言う事か。
隈がないのかを確かめていたのか。
すると彼女はポケットから携帯を出し、チラリとこちらの様子を窺ってきたのでどうぞと言えば携帯を耳に当てた。
「……え、じゃあ取り敢えず三セット程…うん、有難う……私、人は殺さないからね」
そしてあははと力なく笑った彼女に、電話の相手は組織の誰かだろうと踏んだ。
「ああ、そう言えばカルバドス……一応ね…うん?アイリッシュが?」
アイリッシュと聞いて確信に変わった。
何度か耳にした事はあったが実際に会った事はない。
体格のいい男だとか変装が得意だとは聞いた事があるが、本当にそれだけだ。
「ジンは?なんて言ってた?……そっか」
園子さんの打ったボールがコロコロと彼女の前まで転がって来て、それを取ろうとするよりも早く、彼女はラケットで拾い上げ、一度上に上げてから背を反らして軽くスマッシュを打ち、相手コートにあるボールの入っているワゴンに……お見事。
思わず拍手をしてしまった。
周りも同じようでパチパチと音が響いている。
しかし、見えてしまった。
「はーい、有難う、じゃあね」
彼女は通話を終了してから携帯を少し操作してポケットへと仕舞った。
スポーツは出来なさそうに見えたが、意外や意外。
そもそもスポーツだけではない。
特技がクラッキングである事からパソコンの操作もお手の物だろう。
そして銃を持っていたのでおそらく腕も確かな筈。
全てが出来なさそうに見えるのに、この違和感は今まで感じた事も無い。
さらには煙草に酒。
この二つは関係ないにしろ、カリスマとは彼女の事を言うのだろう。
「誰です?相手は」
「ん?キャンティですよ、前言ってたライフルの話」
ああ、なるほど。
だからカルバドスの名前が出ていたのか。
ふと、視界に入った空中を舞うラケット。
その着地位置を確認するとコナン君の元だった。
危ないと叫んだが彼は避ける事も出来ず、そのまま頭に命中してしまった。
そして意識を無くしたコナン君の元に大学生だと言う四人組が話し掛けて謝罪してくる。
近くだと言う彼女達の別荘へコナン君を抱えて連れて行き、暫くすると目を覚ました彼に駆け付けた医者は脳震盪だと言った。
そして、お昼にしようかと冷やし中華を作ってくれると言った大学生二人と蘭さんと園子さん。
キッチンへと行こうとしていた所に椿さんが声を掛けた。
「私いらないから」
「え、椿さんお腹すいてないんですか?」
「んー、そう言うわけじゃないけど、あんまり食欲なくて」
キッチンへ入った四人を見送ってから彼女は外へと出て行ってしまった。
それを確認してからキッチンへと顔を出す。
「彼女偏食なので気にしないでくださいね」
「え、そうなんですか?安室さんよく知ってますね」
「ええ、よくポアロに食べに来てくださるので覚えてるんですよ」
それではとキッチンを出て、喉が渇いたので近くにあった自販機で飲み物でも買おうかと別荘を出る。
すると、先客がいて、彼女はぼーっとベンチに座りながら煙草を吹かしていた。
その横には煙草と携帯と、そしてコーラが置いてある。
「炭酸でお腹を膨らますのは感心しませんね」
「まだ飲んでません」
俺の姿を確認すると何を思ったのか吸っていた煙草を急いで消した。
視界に入った煙草の箱の上に置かれたジッポ。
そこに彫られたイニシャル。
「Gin、ですか…」
「本人に貰ったものですよ」
「本当に、どんな関係なんです?」
溜め息混じりに出た言葉。
前に聞いた時は友達と言っていたが、信じられる訳がない。
あの男は友達と言う言葉から程遠い。
そこまで思ってからふと思う。
ジンはそう思っていなくても、彼女がジンの事を友達だと思っているなら少しは納得出来る。
「あのポアロに掛けた電話覚えてますか?」
「ええ、朝にテイクアウトした?」
「あの時の友達、ジンですよ」
単純に驚いた。
あの時彼女は家に友達がいると言っていた。
友達とわいわいしていたと言っていたので勝手に酒を飲んでオールをしていたので薄化粧だったのかと解釈していたが、もしそうならジンとは泊まりの仲だと言う事になる。
あくまで、彼女の中では友達なのだろうが、それもどこまでが本当か分からない。
だが、嘘は下手だからついていないとは思うものの…仮に本当の事だとすると、ジンが何をしたいのかは分からない。
「バーボンが作ってくれたって言ったら凄く嫌な顔されたんですけど、最終的に美味しかったみたいで完食してましたよ、私の分も食べやがりました」
「ホー、ジンが僕の作ったハムサンド食べたんですか…それはそれで複雑ですね」
苦笑いしか出なかった。
あのジンが俺の作ったモノを口にするとは。
不思議な事ばかりだと缶コーヒーを買ってベンチに腰掛ける。
そしてコンビニで風見がペンを落とした時に買っていた煙草も殆どがジンの物だと彼女は言った。
それは納得がいった。
その時に内ポケットに入っている銃の音を聞いたんだったか。
そこでふと思い出した。
彼女が転がって来たテニスボールをラケットで拾い上げてスマッシュを打った時の事。
「さっき、ボールを打った時に見えたんですけど、あまり背中を逸らしてテニスはしない方が……拳銃の形、映ってましたよ。生地も薄そうですし気をつけてください」
銃はベレッタでジンの愛用しているモノと同じ。
だが、その銃はジンから貰ったものではないと言っていた。
そうなると、入手ルートが分からなくなる。
さっきキャンティと電話をしていた事から彼女なのか?
じっと見てしまっていたようで、隣からはなんですかと困った声が飛んできた。
「…椿さんは本当に組織の人間ではないんですか?」
「そうですよ?コードネームもないですし」
「タコ、とは何の事ですか?」
「タコ……?」
「何かの隠語ですか?やるとかやらないとかタコは持参しないとか言ってましたけど」
すると彼女はキョトンとしてから、ぶはっと噴き出して笑いを堪えるようにしていたが、全く堪えきれていない。
笑ったままの彼女は一言違いますよと言った。
「ただのタコです。ジンとたこ焼きパーティーしようって、だからタコだけでも持参して来いって話です」
ジンがたこ焼き?
何かの間違いだろう。
まだ笑っている彼女を指摘するもいくらなんでも笑い過ぎだ。
ここまで笑われると流石にいたたまれなくなる。
表面上ではよくにこにこしている彼女だが、ここまで笑うのは初めて見た。
本当によく笑っている。
顔を覗かれたので「ん?」と視線を絡ませると彼女は顔を赤くして固まった。
そうしている内に園子さんの呼ぶ声が聞こえた。
「え、どうしたの?二人共…顔赤いけど……あっ!ひょっとしてお邪魔だった?」
ニヤリと笑って踵を返そうとした園子さんの腕を彼女はがっしりと掴んで、何故か必死そうな表情をしている。
「待った待った、何か用があったんじゃ…」
「そうそう!お昼出来たわよ」
「そうでしたか、すみませんお手伝いも出来なくて」
三人で歩いて別荘へと戻り、園子さんと共にダイニングへ入るともう既に毛利先生は食べていて、その隣に腰掛け出来上がった冷やし中華を前にいただきますと言ってから手をつけた。
椿さんの姿がない事に首を傾げたが、園子さんが蘭さんの話をしていたのでそれについて行ったのだろうと脳の片隅で考えていると、今まさに考えていた二人のうち、蘭さんだけが顔を出したので彼女はどうしたのかと聞いた。
「外にある喫煙所に行ってくるって言ってましたよ」
「ああ、そう言えば車の中若干だけど煙草の匂いしたっけ?あれおじ様だと思ってたけど」
「うん、私凄く意外で驚いちゃった」
「だよねー、吸ってなさそうって言うか吸えなさそうって言うか」
皆初めての印象は同じようで、思わずふふっと笑みが漏れた。