act.02 ミステリートレイン
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
降谷side
ピッとスピーカーにして俺の前に差し出して来た。
それを受け取り特に何をするでもなくただ大人しく持っている事にした。
「ぶつかった相手がバーボンで、この電話が終わると尋問されそうなんだけど…大体ジンが声出すの悪いんじゃん!」
『あ?テメェがヘマしなけりゃよかった話だろ、それにオレには関係ねぇ』
「誰がてめぇだ、カス」
『ホー、メールの事は無かった事にしといてやる』
「ウォッカに頼むからいいよ」
『どっちが先に手をまわすかだ、なぁ、ウォッカ』
彼女はちっと舌打ちしてからごめんと一言謝った。
噛み付いてはいるが、上手い具合に飼い慣らされているようだ。
『キャンティに頼んどいてやる』
キャンティとも知り合いなのか。
そう思った所でガサガサと言う音で意識を彼女に向ける。
彼女は買ったばかりの袋に手を入れて酒を見ていた。
「じゃあ…レミントンM24SWS」
『場所は日本にはねぇからヤりたきゃ飛べ』
何の話だ。
レミントンはライフルだろ。
彼女がライフルを?
何の為に。
ライフルを使った任務を彼女がするのだろうか。
だがそう考えるとジンの言った言葉が分からない。
日本にはない場所。
おそらくそれは狙撃場だろう。
射撃場はあるにしろ、狙撃にはそれなりの距離がいる。
施設の整っている所だとまずこの日本にはない。
彼女にふと視線を向けると、袋からスコッチを出して蓋を開けた。
「そんなに睨むなら降りて下さい」
その言葉に何故かジンは声を堪えるようにして笑っていた。
一体何がそんなに可笑しかったのか。
椿さんもその事に対して「笑わないで」と声を荒げている。
そして彼女はスコッチを勢いよく喉に流し込んでいた。
不本意とは言え凄い目で見てしまっただろう。
それは友達にパシらされたモノではなかったんだな。
それにしてもスコッチをそのまま飲むなんて…。
度数は40くらいだったか…。
そんなモノ飲んだら運転なんてとてもじゃないが出来るわけがない。
「追伸読んだ?」
『…やらねぇからな』
「いいじゃん!明日か明後日しようよ」
『しねぇ』
今度は何の話だ。
やるとかやらないとか。
全く検討のつかない会話に隣にいる風見をチラと見たが、風見も分かっていないようだ。
「分かった、じゃあ仕事一つするから」
『ホー、なんでもか?』
「なんでも…は嫌」
『タコは持参しねぇが手があいたら行ってやる』
「やったありがとう!」
ダメだ、分からない事だらけで何が何やら。
今の段階で分かったのは、何か一つ仕事をする事だけだ。
タコ、とは何かの隠語か何かか?
いつの間にか通話が終了していたのでスっと椿さんに携帯を返した。
それを受け取った彼女は助手席へと置いた。
「さて、話も終わったので降りて下さい」
こんな機会を逃がすわけがないだろう。
毛頭降りる気はない。
そしてまだ話は終わっていないと言って、にこりと効果音が付きそうな程の笑みを向ける。
「なんですか?」
「まず初めに、飲酒運転は禁止です」
これは警察として見逃せない所。
少しでも許せないのにあんなにも煽るように飲んでいたんだ。
一応言っておかないと。
そして本題に入る。
「椿さん、あなたは何者ですか?」
「何者でもありません」
飲みかけのスコッチは袋へと仕舞われた。
「では、質問を変えます。組織の一員ですか?」
その質問には、ジンとはただの友達だと答えた。
ただの友達が仕事を一つするとは言わないだろう。
それにレミントンと言っていた。
「一般人が銃を扱うのは禁止されてます」
「そうですね、ライフルは興味本位です」
そこで風見が前に言っていた言葉を思い出した。
ペンを拾って貰った時の事だ。
「…今、拳銃をお持ちで?」
「持ってるけど、なに?」
「見せていただいても?」
やはりか。
内ポケットから銃を取り出し、躊躇う事なく差し出した。
「ホー、ベレッタですか、これはジンに?」
「いいえ」
「とても綺麗に手入れされてる所から見ると、慣れてますね」
「久しく撃ってませんが」
何故こんなにもスっと渡せるんだ。
警戒心がまるでない。
言葉に気をつけているのは分かるが、行動は隙だらけだ。
俺の手を振り解いたあの技を見るに、体術は少なからず出来るようなのに、何故こんなにも態度では警戒しないのか。
銃をあっさりと彼女へと返す。
すると彼女は愛おしそうにその銃を一撫でしてからあろう事かロックを外した。
「この事、他言しないでくれます?」
「さぁ……どうしましょうか」
「警視庁公安部所属、風見裕也三十歳…」
「ホー、人質ですか」
初めから知っていたのか。
しかし何故、風見を調べた。
誰かからの情報か……いや、彼女はきっと俺の事も知っている筈だ。
でなければ警察と二人でいるのは可笑しいと踏んで質問してくる筈。
「ベルモットや組織に私の事を話さなければ何もしません。それとも今ここで私を逮捕しますか?」
じーっと見てくる彼女。
「大丈夫です、あなた達は撃ちません、撃つのは私です」
にこやかに言うものだからぐっと眉間に皺がよる。
おそらく本気だろう。
「逮捕はしない。それに俺の事も知ってるなら他言もしない」
「そうですか、物分りが良くて頭もいいので大好きですよ降谷さん」
やはり、そう言う事か。
風見を調べたんじゃなく、俺を調べたら風見がついてきたのか。
車の扉を開けて風見と二人外へ出た。
すると車のエンジンが掛かる。
しかしこれだけ話を聞いて、得た事は沢山あったのに、無くしたものの方が大きい気がする。
組織と繋がってる彼女に俺の正体がバレた事は痛い。
運転席の隣に立てば、彼女は窓を下ろした。
「また後日ゆっくり話したいのですが…」
苦笑いで遠慮しておきますと言われた。
何故だか分からないがフラれた気分になってしまった。
だが、次の言葉にまた分からない何かが生まれたのは確か。
「私は、降谷さんの味方です」
ふわっと笑ってからバイバイと手を振り車を走らせていった。
黒い車体が見えなくなるまでじーっと見てしまっていたようで、隣からの声ではっとした。
「彼女は一体……」
「さぁな、だが組織と繋がってるのは確かだ。お前の事も知られてるから油断はするなよ」
はい、といつもの聞き慣れた返事が聞こえた。
「また調べますか?」
「いや、何度調べても何も出て来ないだろうな。また彼女と話す機会があればその時に指示を出す」
「はい……本当に他言しないんでしょうか?」
「こちらが行動に移さなければ何もしないと言っていたんだ、今はそれを信じるしかない」
そんな時、携帯が震えた。
短かったのでメールだと分かり、確認すると。
『椿に手を出したら殺す』
なんとも物騒なメールが届いていた。
彼女は飼い慣らされていると思ったが、どうやらそうではないらしい。
手を出すな、とはどう言った意味合いになるんだろうな。