act.10 海水浴場にて
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
降谷side
「すみません、椿さんの事は全て知っておきたいので…無理やりあんな事を」
「把握、ではなく?」
「仕事っぽいのでその言い方は嫌ですね」
薬をポケットに仕舞った所を見てから、彼女にそっと手を伸ばす。
もう少しで触れるという所でこの手は叩き落とされた。
「またハニトラですか?」
「いえ、そんなつもりはないですよ……ただ、触れたくなっただけです」
「それがハニトラなんですって!」
バッと両手で顔を隠した彼女に苦笑いが漏れた。
本当にそんなつもりはないんだが……。
ハニートラップは何かを得る為にする事で、それを彼女にしても今は意味がない。
さっきは無意識で囁きながら胸の刺青見たさにファスナーを下ろしてしまったが、今は本当にその頬に触れたかっただけだ。
「ひょっとして僕が告白をしたの、まだ冗談だとでも思ってます?」
「……7割信じてますよ」
「素直で潔良いですね」
そんな所も好きなんだよな。
普段体の線が出てしまう服は着ないのでどんな水着なのかと想像を巡らせていた。
実際にはラッシュガードが邪魔をしていたが、可愛らしい年相応のデザインのものだった。
ビーチバレーをしていてハーフパンツを脱いだ時は少し息を飲んだものの、鍛えられてるとはいえ特に筋肉質でもなく、細くもない足は健康的で本当に女性らしい印象があった。
スパイクを打つ時にチラッと見える腹も決して筋肉で割れている事もなく、言うならばクビレも普通だ。
臍ピアスには少し驚いたが、彼女らしく似合っているのならそれでいい。
「胸の刺青について、聞いても?」
「強制、ですか?」
「いえ、言いたくないのであれば聞かないですよ」
俯いた彼女の頭に今度こそ手を伸ばし、その頭を優しく撫でた。
チラッと上を見た瞳は揺れている。
そして手を下ろすと今度は強い瞳と目が合った。
「詳しくは、言えないですけど……このfは降谷さんの、fです……やっぱりダメです!すみません殴って下さい恥ずかしい!」
ガバアっと両手で顔を隠した彼女。
やっぱり俺か。
それはとても気分のいい事だが、いつ彫ったものなのか。
「こっちで入れたんですか?」
悶えていた彼女の動きはピタリと止まった。
やはり向こうか。
ふーっと息を吐くと恐る恐るといった感じで彼女は両手を顔から下げた。
「何故僕の名前を?」
「それは……憧れだったんですよ」
働く前からゼロとして憧れだったんです。
このzeroは……え、と名前とその…かけました!
憧れと、決意とか信念とか、勿論それだけじゃないんですけど……。
小さな声で消え入りそうに恥ずかしそうに言った彼女の頭を再びよしよしと撫でた。
向こうの彼女のいた世界にも俺は存在するのか?
同じ名前で同じ仕事をしていた、という事になる。
彼女は向こうで死んでこっちに来た。
考えても分からない事だらけだ。
そんな非科学的な世界、信じて頭を悩ます方が間違っているな。
「ジンはこの事知ってますか?」
頭から手を下ろし彼女をジッと見る。
「ジン?この事?」
「その刺青の事です」
「彫ってあるのは知ってますけど興味ないみたいですよ」
「待ってください、何故知ってるんです?胸に刺青があるなんて」
「何故ってジンとお風呂に……」
「そうでしたね、もしかしてとは思いますが、付き合って以来ジンとお風呂、なんて事はないですよね?」
やっと俺のモノになったと思ったんだが、それは他の男よりも一歩進んだ存在であって、決してまだ恋人等という甘い存在ではないのか。
現にキスすらしていないんだ。
恋人とは名ばかりで実際にはジンに勝てた気なんて全くしていない。
そもそも赤井の事もだ。
泊まりの関係だという事は知っている。
何をしてるかなんてそこまで詳しくは知らないが、それでも俺は彼女と泊まりなんて一度もない。
そうだな、強いて言うなら今日だ。
このホテルで泊まるという事くらいで、けっして家で泊まる等そんな関係性ではまだない。
「え……と、入りましたけど…」
「……椿さん、恋人になったので他の男性とはそういった事は…」
「え、でもバーボンもハニトラ辞めるわけじゃないですよね?」
痛い所をついてくる。
仕事上仕方ないとはいえ、俺ばかりが他の女性と寝ているなんて逆の立場にすると嫌だろう。
彼女ももし仕事でハニトラをしていて他の男と身体の関係にあれば、やはり嫌だな。
「なるべく配慮や考慮はするつもりです」
「なるべくですか」
「……なるべく、ですね」
今はそれしか言いようがない。
まぁ最近ではそんな仕事もあまりまわって来なくなった気もするが、この先きっと数えられないくらいするだろう。
「性病移さないで下さいね」
「僕が性病とでも?」
彼女の口から性病などと。
まだしていないのに性病について言われるとは思わなかった。
「違うんですか?性病の種類は沢山あります、移っていたとして自覚症状のないものも沢山あります。掛かっていてもおかしくないですよね?」
「そうですね、今度一緒に病院へ行きましょうか」
「やですよ、行くなら一人で行って下さい」
まぁおそらく一人なら行かないな。
彼女も分かっていてそれを言っているのか。
今は他の男の事よりもまず、彼女との関係性を進めないといけないようだ。