act.10 海水浴場にて
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降谷side
少しやり過ぎたか。
胸に傷があるので見せたくないと言っていた彼女。
嘘を吐いているのは明確だったのでビーチバレーでもと遊び半分で試合を申し込んだが、想像していたよりも蘭さんとのコンビネーションは上手くて中々点を稼げないでいた。
この俺が負けるなんて事はプライドが許さない、のだが、風見がこの件について動いていた報告は来ていたので周辺で何か事件が起きるとは思っていた。
だがまさかこの海水浴場とは予想外だ。
試合は引き分けのまま事件に巻き込まれた。
死者を二人も出してしまった結果に終わったが何とか男を逮捕出来た。
まぁ本命の彼女には逃げられてしまったが。
女性の扱いは慣れている筈だが、どうにも彼女に対しては空回ってしまう部分があり、少し悪戯したくなる部分がある。
KEEP OUTと張られたテープを潜って外に出れば沖矢昴とコナン君がいた。
「安室さん椿さんと何かあった?」
「見ていたんだろう?」
「……あんまり苛めないであげてね」
「ああ、なるべくね」
一緒に毛利さんの待つ所まで戻れば、少年探偵団の皆も事件を聞き付け戻って来ていた。
だが、探している彼女の姿はここにはない。
荷物もない事からここには一度戻って来ていたようだ。
「椿さんはどこに?」
「椿さんなら先にホテル行ってるって荷物持って行っちゃいましたよ」
「思い詰めたような顔してましたけど……」
「冷えて少しお腹が痛いと言っていたのでそこまで気にする事もないと思いますよ」
彼女達を安心させるように嘘を吐く。
笑顔を交えて言えば女性はそれを信じる。
それなのに、彼女はいつも警戒ばかりしていて、だけど面白いくらいに分かっていても引っ掛かってくれる。
それにしてもあの文字は……俺なのか?
彼女の胸に刻まれていたのはzero.fだった。
青い色合いでアルファベットが綴られていて、可愛らしい字体だったが最後のfだけ強調されていた。
何の為に刺青を彫ったのかは分からないが文字だから意味があるのだろう。
本人に訳を聞いてもいいものなのか。
こっちに来てから彫ったものだとしたら半年も経っていない筈だが……zeroと彫られていたのでおそらく向こうにいた時。
そうなるとfはまた別の意味があるのか。
自惚れるのは間違ってるな。
「やっぱり椿さん一人だったら心配だから私見てくる」
「だったら安室さんの方がいいんじゃない?」
指名を受けたので声の主を見ると、ニヤニヤと笑っている園子さん。
彼女は本当に色恋沙汰が好きだな。
まぁ本命の女性の事なので今は有難い。
ここから抜ける口実も作ってくれたわけだし素直に椿さんの元へと行こう。
「そうですね、フロントで薬を貰ってから様子を見てきます」
上にTシャツを着てから鞄を手にすると心配そうな目をしているコナン君と視線が合った。
「ボクも行こうか?」
「一人で平気さ、彼女には謝らないといけない事もあるしね」
それじゃあ後お願いしますと女性二人と沖矢さんに任せて駆け足でホテルへと向かった。
因みに毛利さんはビールを何本もあけて酔い潰れていた。
「えっ、来ていない?」
「はい、鈴木様のご友人の方はチェックインされておりません」
園子さんはホテルと言っていたのに、嘘を吐いたのか?
彼女を庇っているとか……。
いや、その線は考えにくいな。
嘘を吐いているなら彼女の方か。
「すみません、腹痛薬貰えますか?緩いので結構ですので」
一応口実に貰っておく。
そして考えるのは彼女の向かった場所だ。
近くにはコンビニくらいしかないし結構大きめのあの鞄を持って行くだろうか。
そこまで考えてからああ、あそこかと足を向けた。
すると案の定、彼女はここにいた。
こことは、彼女の愛車だ。
運転席で携帯を耳に当て誰かと会話をしているようだった。
その瞳からは涙が零れている。
悲しそうな顔をしたと思えば直ぐに笑い、その涙をティッシュで拭った。
そして電話を切り、彼女の車に近付くと気付いたようで視線が合いにこりと笑ってから助手席に乗った。
「見てました?」
「ええ、見るつもりはなかったんですけど、電話をしていたようだったので声が掛けづらくて」
前も後ろも窓を全開にした彼女はきっと煙草臭を少しでも消す為に気を遣ったのだろう。
そして先程フロントで貰った薬を彼女に手渡した。
首を傾げてそのPTP包装を見詰める彼女に苦笑いを向ける。
「あなたは今腹痛という事になっているのでその口実です」
何も言わずに受け取った彼女はその薬を眺めて溜め息を漏らした。
そしてチラと見られたが、すぐにその視線は逸らされた。
「あの、さっきは暴言吐いてすみませんでした」
「暴言?……ああ、イケメンだからってやつですか?あんなの暴言のうちに入らないですよ」
寧ろ可愛いくらいだ。
そんな事も思っていて言ってくれるのかと。
彼女の思考を知るのには微笑ましい事だ。
「それよりも謝らないといけないのはこっちです」
さっきの涙は嫌でも俺が泣かせたのだと分かった。
泣くのなら俺の前がよかった。
電話の相手が誰かは知らないが泣いていた彼女を笑顔にしたんだ。
嫉妬しないわけがない。