act.01 出会い
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ルンルンでスキップでもしそうな足取りのまま着いた先は勿論ポアロ。
「いらっしゃい、お待ちしてましたよ」
営業スマイルで出迎えてくれた安室さん。
レジ前に立ってゴソゴソと袋の中を確認してくれている。
「そっちも似合いますね」
チラと顔を見られ、言われた言葉。
意図が分からず首を傾げる。
「お化粧ですよ」
忘れていた。
昨日夜に薄くしたまんまだった。
服の確認だけで財布と携帯しか持って来ずだったから鏡すら見ていない。
すっかりコンビニ感覚だった為髪も手櫛程度。
女としてどうかと頭を抱えたくなった。
ましてや降谷さんの前。
顔も歯も帰ってからでいいやと思った十分前の自分を殴りたい。
「あの、あんまり見ないで下さい」
すっかり友達とわいわいして忘れていたので、と言ってしまった。
嘘ではないけど、友達と言うには程遠い存在の彼。
今頃暇を持て余してまだベランダで煙草を吸っている事だろう。
「まだ家に?」
「ん?はい、居ますよ?」
友達の事だろうと煙草を吹かしている彼を想像した。
「そしたら丁度よかった、多めに作ったのでお友達と一緒に食べてください」
テイクアウトと聞いて色んな想像をしたんだろうな、この人の場合。
一人なら食べに行けばいい筈だからね。
「はい、ありがとうございます」
財布を出そうとした所で止められた。
なんだと顔を上げると。
「お代は結構ですよ、昨日多めに貰ってしまったので」
と、太陽顔負けの笑顔をいただいた。
この笑顔だけで金取れるよ。
もう一度お礼を言って、ハムサンドの入った袋を片手に行き同様上機嫌で帰宅した。
するとまだベランダにいた彼に声を掛ける。
「ただいまっ」
「バーボンにオレの事は言ったか?」
おかえりの言葉はないのか。
まぁ期待はしていなかったけど一言目がそれか。
それ程までにバーボンの事が気になるのか嫌いなのか。
後者だろうけど。
「まさか、言わないよ。それより折角作ってもらったんだから食べよう?」
にっこりと微笑む。
ポアロのハムサンドは美味しいんだよと言えばアイツの作ったやつなんざ食えるかの一点張り。
反抗期か。
ため息を一つ吐いてベランダにいるジンへ手を伸ばす。
その手は咥えていた煙草を取り、ジュっと灰皿に押し付ければ、ジンの顔は歪む。
何をするんだと眉間に皺を寄せている。
気にすることなく彼の両手を握ってリビングに引き入れるとソファへと座らせた。
「いただきます」
ハムサンドを一口食べた所でジンの手にも強制的にハムサンドを握らせる。
本当に美味しいんだからと言ってパクパク食べていけば、深いため息が隣から聞こえ、諦めたのかデカめの一口で食べてくれた。
「ね?美味しいでしょ?」
「…………」
「バーボン超絶料理上手なんだよ」
へらっと笑うとジンは手を止めてじっとこちらを見る。
どうしたんだろうと首を傾げたけど、ジンは声を出す気がないのか無言のまま食べ進めた。
キッチンでコーヒーと紅茶を入れて再びジンの隣に来た時には完食していた。
私の分も残さず…。
いいけどさ、いいんだけどね、食えるかって言ってたのは誰だ。
「おい」
「椿です」
「……椿…」
「なに?」
「ヤツの事はやめとけ」
え、私が降谷さんの事大好きなのバレてる?
そんなに分かりやすいのかな。
まぁ隠してるつもりはないんだけど。
「別に付き合いたいとか恋人になりたいとか結婚したいとか、かなりしたいけど、私なんかが畏れ多いし」
あ、なんか無言の威圧来た。
凄く軽蔑するような目を向けられている。
降谷さんに対してやべぇ目で見てるって事がバレたか?
いや、でもジンはきっと耳だけ傾けて話は聞いてくれると思うんだよね。
そこまで思って、さっきポアロで降谷さんと会った時の事を話した。
「でね、もうあの顔ヤバいよね、朝から本当いいモノ見れました」
どこに向けてとかはないけど思わずその場で両手を合わせて拝む。
神様仏様降谷様だよ。
それで降谷さんに薄化粧を褒められたり友達の分までハムサンドを貰ったと言った。
「誰が友達だ」
「いいじゃん友達」
ケラケラと笑うとまたしても睨まれる。
もうすっかり睨み倒されてるのでジンに対して少しだけあった怖さも今はゼロに近い。
そしてふと思う。
「あ、ねぇねぇ番号教えて」
ポケットから携帯を出して構えるとジンはコーヒーを飲む。
なんだろうこの片思い。
ムゥっと口を尖らせると横目でギロりと睨まれた。
「手当てしてあげたんだしそれくらいしてくれても…」
「頼んでねぇ」
「知ってる!そう言うと思ってた!」
別にお礼を言ってほしいわけじゃない。
ただ、今後も降谷さんの素敵な話を只管聞いてもらいたい。
と言う気持ちもあるけど、連絡先の一つも入っていない真新しい携帯の電話帳を一つでも多く登録したい。
一番初めに入ってしまうのは降谷さんじゃなくていいのか?なんて思ったけど、仕方ない。
百歩譲って目の前の男で我慢しようと言うなんとも上からな考えだ。
「教えてくれないとハッキングするけど?」
「脅しにもなってねぇ、知りたきゃ調べろ」
「一つも連絡先ないので教えて下さい」
仕方がないので下手に出てみる。
連絡先がない事実に驚いているのか、同情しているのか、その瞳からは今一意図が掴めない。
そのうち折れてくれたジンはポケットに入れていた携帯を操作して画面を私に見せる。
「なに?コレ」
「コイツを調べろ」
俺様!本当俺様!
「見して?」
メールで送られて来ていた画像と本文に目を通す。
そのメールはさっきポアロに行っていた時間のものであり、送り主はウォッカになっている。
廣瀬正雄。
なんて普通の名前なんだ。
パソコンを立ち上げてロックを外し、そこで手を止める。
「この人、殺すの?」
「あ?」
「殺すんだったら調べないよ?殺しの協力はしない」
顔をじーっと見るとジンも同じようにじっと見る。
「殺さねぇ。ただの取引先だ」
嘘は吐いていなさそうだったので、USBを差し込んでカタカタと色んな所にアクセスしていく。
そもそも名前と顔しかメールにはなかった。
本当にただの取引なのか。
まぁ何にしろ、多分ジンは私の事を試してる。
ジン程の人間が名前と顔だけしか情報がないなんて事はまず有り得ない。
余程の機関に属していない限り情報なんて五万ととんでいる筈だ。
ハッキング能力がなくても少しの知恵を使えば情報の一つや二つ舞い込んでくるに違いない。
「ねぇ、調べるのって経歴とかでいいんだよね?」
最後にEnterキーを押してパタンとパソコンを閉じる。
ほんの五分程で彼の情報は出て来た。
「ああ、見せろ」
ジンの方へパソコンを向け、閉じていた画面を開ける。
するとそこには、一般的なよく履歴書で書く内容のものから、登録してある車種やナンバー、携帯の機種、現住所や今まで住んでいた所の日付や加入している保険などがズラッと書かれている。
「本人の様子が気になるなら携帯のカメラアプリに入り込んだら見れるよ?」
「いや、いらねぇ」
ニヤリと口角を上げたジンは物凄く悪人顔をしている。
あ、この顔好きだ。
なんて本人には言わないけど。
ソファから立ち上がったジンは再びベランダへと足を向ける。
そして…。
「ほらよ」
携帯を投げて来たので落とさないようにそれをキャッチした。
なんだ?と思って画面を見ると、自らのIDのページが映し出されていた。
「え、いいの?」
「あ?教えろって言ったのは椿だろうが」
名前呼び。
嬉しくてつい頬が緩んだ。
「ありがとう!」
ジンの番号とアドレスを携帯に登録した。
ははは、毎日でも電話してやろうか。
そして、ジンの携帯も弄って、自分の番号と名前を登録した。
勿論、名前の後に(友達)と付け足す事を忘れずに。
「おい、煙草買って来い」
「パシリですか」
ニヤリと笑うジンに同じような笑みを返す。
どうやらお互い、凄く機嫌がいいようだ。