act.07 無くなったモノ
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降谷side
赤井の服を掴み後部座席に投げた。
本当は外に棄ててやりたかったが流石に椿さんのいる前ではとグッと耐えた。
「コンビニ寄っても?」
了承を得てから近くのコンビニへと入り、椿さんも行きますかと声を掛けると鞄を持って店内へと入る。
トイレに駆け込んだ彼女を見送ってから自分は消毒と絆創膏、包帯、それから唐揚げと飲み物を購入した。
車で待ってようかと思ったが、一番手前の棚の所に彼女を見つけたので近付く。
相当辛いのかお腹を抑えながら薬コーナーに目を向けていたので、いつか依頼人が恥じらいもなく言っていた薬を手に取り、彼女にお勧めだと親切に言ったのにも関わらず詳し過ぎると引かれた上にバッサリ切り捨てられた。
結局彼女は薬と鉄分と書かれたサプリも買っていた。
生理の時は彼女は貧血になるのか。
酷い人は手足が痺れたりもするらしいし、女性は本当に大変だな。
車に戻るとすぐに薬を出そうとした彼女に唐揚げを差し出せばそれを受け取りパクリと食べた。
「美味しいです、うまっ」
にこにこと食べる彼女を見ていると落ち着く。
食べ終えた爪楊枝を貰おうと手を出せばそっと上に乗せてくれ、また刺して今度は俺が食べる。
「ここのコンビニの唐揚げ美味しいんですよ」
すると隣から凄く突き刺さるような視線を感じたので爪楊枝に刺してもう一個どうぞと唐揚げを差し出した。
なのに彼女は受け取ってくれない。
「唐揚げ欲しかったんじゃないんですか?」
首を傾げてじゃあ何を見ていたんだと考えて、ああ、いつもの事かと答えに至った。
彼女はよくポアロでも俺を見てるからな。
「唐揚げじゃなくて、欲しいのは僕ですか?」
少し固まった後、彼女は何を思ったのか俺の持っていた唐揚げを手に取る事はなく、そのまま顔を動かしカプっとかぶりついたではないか。
なんだこの可愛い生き物は。
そして固まったまま目線だけを上げて視線が交わると瞳が潤んでいる。
少し頬が赤い事からやってしまってから恥ずかしさが来たのは分かるがダメだろう、男の前でそんな顔をするのは。
俺だから良かったものの。
「申し訳ないです!」
すみませんと持っていた爪楊枝を取り上げられて一口で唐揚げを放り込み爪楊枝だけが返って来る。
そして紅茶で薬も一気に飲んでいて、やっとふーっと息を吐いた彼女には面白くて笑ってしまった。
なんで彼女は俺の持ってた唐揚げを食べただけで謝ったのか。
「あーんくらいいつでもしてやるのにっ」
本当に可愛いな。
ころころ表情を替えて楽しませてくれる。
そうだと思った所で彼女の手を取る。
さっきからチラチラとは見えていたが、擦り傷とはこの右手の事なのだろう。
「あ、あの、何かっ」
引っ込めようと頑張っている手を両手で掴み動かせないようにすれば、えっえっと焦ってる声が聞こえる。
それだけでもう面白い。
「怪我を見るだけですよ」
ルームランプを点け、じっと掌を見るとガラスか何かで切ったような痕もあり、さっき買った消毒を手に取り膿まないように掌に掛け、大きめの絆創膏を貼った。
「他に怪我は?」
「いえ、これだけです」
「何したんです?」
使った物を袋に仕舞って彼女に残りを渡せばお礼を言って受け取ってくれた。
「赤井さんに車から押されて落ちたんですよ」
「ホー、赤井に」
車から押すなどと、女性の扱いがなってないな。
彼女の場合受身は取ったのだろうが、それでこれか。
それにしても気にいらない。
アイツにはもう会わないでくれとさえ言いたくなる。
「やっぱり絆創膏邪魔だな…」
「えっ…邪魔?」
「いえ、絆創膏がなかったら舐めたのにって話で」
「な、舐めっ」
ガシッと左手で傷口を抑えて俺から距離を取ろうとする彼女に、にこりと笑ってから詰め寄る。
降谷さんと名前を呼んだ彼女の顔は赤い。
「シートベルト、してください」
これ以上この空気だと取り返しのつかない事をしそうなので目に入ったシートベルトを指差した。
赤井の事もあって俺の頭は今日はヤバイらしい。
冷静になれないのか感情の波が激しい。
すみませんと謝った彼女はすぐ様シートベルトを締めたのでルームランプを切りRX-7を発進させる。
クソっ、彼女をどう扱っていいのかが分からない。
いつもなら女性から寄って来てくれて、それに対し俺が手を差し伸べるのだが、彼女の場合来たと思えばまた離れる。
俺から近付けば勿論引いていく。
そして少しいじめれば反応は面白くて可愛いが、止まらなくなってしまいそうで怖い。
ハニートラップではなく、純粋に告白する所から始めるにはどうすればいいのか。
場所とか台詞とか、ハニートラップを使った所で彼女はきっと振り向いてはくれない。
他の男のモノになったとしても奪い取ればいいと考えていたが、それでは俺に心がないのではと思うと嫌だった。
ハニートラップでの始まりは勿論甘い言葉から始まりその気にさせれば相手から行為に誘う。
デートもいつもは夜景の見える高級なレストランや宝石店、ブランド物の店、そんな所ばかりだったが彼女はおそらく違う。
初めての事でどうすればいいのかが分からない。
腕を組んでのデートはするが手を繋いでのデートはした事がない。
「椿さん、デートってした事あります?」
「デート?どっからがデートですか?ディナーとか…ランチも入ります?相手は男性限定ですよね?荷物持ちはデートになりますか?」
「すみません、聞かなかった事にしてください」
彼女に聞いたのが間違いだったか。
考えれば考える程分からなくなっていく。
いや、そもそも彼女の事自体本当に好きなのか。
チラッと椿さんの方を向くと目が合った。
信号で停まったのでじいっと見つめるとへらっと笑ってくれる。
スっと左手を彼女の方へ出すと、それをじっと見つめて、どうするのかと無言で見守っていると。
「ワンっ?」
疑問にはなったがお手をしてくれた。
なんなんだ。
少し可愛いとは思ったが、俺はこのバカっぽい彼女の事が本当に好きなのか。
「明日ポアロにいますか?」
「ええ、朝から入ってますよ」
「だったら食べに行ってもいいですか?」
信号が変わって車が進むと、覗き込むようにして見て来る彼女にチラと視線を向ける。
「私降谷さんの働いてる姿見るの大好きなんです、あ、勿論本庁でシャキッとしてるのも好きですよ?組織のお仕事はまだ見た事ないですけど、ポアロはほわほわしてる感じがいいですよね」
そう言われただけなのに…いつもは反応しないのに、胸が煩くて仕方ない。
ああ、やっぱり俺は彼女が好きなんだ。
にっこりと笑ってくれるこの笑顔を俺だけのモノにしたい。
心からそう思ってしまった。