act.07 無くなったモノ
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携帯をぶん取り降谷さんとの通話を終了させて、自分の携帯で風見に掛ける。
そう、思い切り八つ当たりする気で掛けたのにコール音の後にブツリと切断される。
もう一度と電話を掛けるけど同じく。
なるほど、私が風見に掛けると思ってもう手を打たれているのか。
彼女からの電話には出なくていいとでも言ったのか。
風見の分際でと思いながらメールを打つ。
勿論内容は降谷さんの秘密を峠から大声で叫ぶ。
嫌なら電話に出ろと。
そして少し経ってから電話を掛けてみると、出た。
だけど無言だ。
そっちがその気なら仕方ない。
すぅっと空気を吸ってから一度吐けば、分かった話すと慌てたような声が聞こえた。
「初めから出たらいいじゃん」
『それで何の用だ』
「何で電話に出てくれないの」
『降谷さんから、連絡があっても出るなと言われている』
「今だけ?いつもは出てくれる?」
『……ああ』
なんだその諦めたような返事は。
酷いな、私結構風見の事好きなのに。
風見で遊びたい心は確かにあるけど、嫌いだったら電話も掛けない。
先頭を歩いていると前から偉く眩しい車がやって来た。
その後ろにはレッカー車を何台も引き連れている。
え、公安だけでなく副業でも始めましたか。
「ヤバいよ風見、降谷さん筆頭にレッカー車も動いてる、すっげーかっこいいよ」
ハザードをたいて停まった車にチラッとだけ視線を向けてその場を去ろうとすると勢いよく運転席の扉が開きガシッと腕を掴まれる。
「ホー、いい度胸だな」
「いやぁ、それよりもほら」
にこりと笑って携帯の画面を見ると今まさに通話中になっていて風見裕也と記されている。
その携帯を私から奪うと耳に当て一言。
「風見、後で説教だ」
通話を切り携帯を返してもらった所で降谷さんは助手席の扉を開けに行き、また戻って来ると肩に掛けていた鞄を無言で奪われ、瞬間…ふわりと体が浮いた。
「ひっ、ぃやあぁああぁぁ!無理っ本当無理っ!!やめてえぇぇ、おろしてえぇえぇ!!」
生理だと言ったから気遣ったのだろうけど、そんな気遣い今はいらない。
王子様にお姫様抱っこをされてしまって、しがみつけるわけもなく必死に緩みまくって真っ赤になった顔を隠す為に両手で覆った。
「煩いっ」
ゆっくりと降ろされて扉を閉められ、降谷さんは部下に何かを言ってから車に乗り込み自分の分のシートベルトを閉めてからじっと見られる。
そしてはぁと溜め息だ。
そこであっと思い出した頃には遅く、もう降谷さんは目の前にいてシートベルトを引っ張りカチャリと締めてくれた。
「今のは思い出しましたよ!」
「あと三秒早ければな」
ハザードを切ってからUターンして峠を下って行く。
「それ、赤井のですよね」
「服ですか?そうですね、ぶかぶかです」
袖長いと言って手を前に出して引っ張り上げるけど、すぐにそれは落ちてくる。
この生地の問題か。
「暖房入れるので脱いでくれません?気に入らないので」
鬼みたいな顔で言われてしまえば脱ぐしか選択肢はない。
器用にシートベルトを伸ばしたりしながらペイっと脱いで匂いを嗅いでみる。
すると煙草の匂いがすると思っていたのに赤井さんの匂いしかしない。
コーヒーの匂いとマスタングの匂いに混ざって赤井さんの匂いがする。
「俺の事を煽ってるのか?」
「えっ?」
急に飛んで来た言葉に首を傾げた。
煽るとはなんぞや。
バッと赤井さんの服を掴まれ後部座席にある鞄の所にペイっと放られた。
よかった、窓から捨てられなくて。
この人ならやり兼ねない。
「コンビニ寄っても?」
「えっ、はい、どうぞ」
峠を下り、信号の所のコンビニへ入ると椿さんも行きますかと声を掛けてくれたので鞄を持って店内へ入る。
先にトイレを済ませ、薬コーナーを見ているとひょいと隣から伸びてきた手が一箱掴んだ。
「これいいらしいですよ」
「え……なんで知ってんですか」
パッケージには女性の生理痛にはとデカデカと書かれている。
凄く知識があって物知りなのはいい事だけど、こう面と向かってオススメされるとどうなんだ。
それも飛び切りの笑顔で。
分かってる。
きっとこのコンビニに寄ったのも私の為である事は分かってるけど、どうもこの優しさが恥ずかしくて仕方ない。
結局降谷さんに勧められた薬と鉄分のサプリと飲み物を買ってからRX-7へと戻った。
早速飲もうとした所で隣からにゅっと出された手には唐揚げが爪楊枝に刺さっている。
どうぞと出されたのでそれを受け取りパクリと食べる。
うん、普通に美味しい唐揚げだ。
手を出されたので爪楊枝を返すと全く気にする様子もなくその爪楊枝で次に刺した唐揚げを降谷さんが食べていた。
待って!待って!
それ私が口に入れた爪楊枝!
ああああ、マジでか。
「ここのコンビニの唐揚げ美味しいんですよ」
あ、ほっぺたプクってなってる。
可愛いなーもうっ。
じーっと見てしまっていたので勘違いされたようだけど、私は決して唐揚げが食べたいから見ていたわけではない。
なのに、もう一個どうぞと差し出されてしまった。
いやああぁぁ!!
これ、唐揚げじゃなくて爪楊枝がほしい。
「あれ?唐揚げ欲しかったんじゃないんですか?」
一向に唐揚げの刺した爪楊枝を手に取らなかったので首を傾げられる。
「唐揚げじゃなくて、欲しいのは僕ですか?」
なんて事を言うんだ。
ここではいそうですと言ってしまえばどうなるんだ。
いや、それは凄く困る事になるので取り敢えず目の前にある唐揚げにカプっとかぶりついた。
咄嗟の行動だったとはいえ、せめて自分の手で爪楊枝を持てば良かったと後悔した。
固まってしまいそのままの状態で降谷さんを見上げると同じく固まっている。
「申し訳ないです!」
ガバッと爪楊枝を取り上げてから一口でそれを放り込み爪楊枝のみを返す。
そして紅茶で流し込み、薬も飲んだ所でふーっと息を吐く。
すると、くくっと笑い出した降谷さんになんだと目を向けると。
「あーんくらいいつでもしてやるのにっ」
そう言って結構な時間笑われた。
降谷さんが楽しいなら何よりです。