デフォルトでは「神庭(かんば)実里(みのり)」になります。
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「もう、こんなことしないでほしいの」
千沙のその言葉が脳内を反響する。何か悪いことが、あの短時間のうちに起こってしまったのだろうか。確かに私が教室に戻った時の二人の様子はぎこちなかったが、てっきりそれは二人きりになったが故のものだと思っていた。冷や汗がひたりとにじむ。
「…え、千沙ちゃん、それは…あの時に何かあったの?」
「何もなければこんなこと実里ちゃんに言わないよ!言いたくないよ、こんなこと!」
千沙が耳元でそう叫んで、う、と思わず携帯を離しかける。言いたくない、というのは、これがきっかけで私と千沙の関係を崩したくないと思っているのだろう。当たり前のことだ。自分を否定されるのは怖いことだし、避けたいことでもある。自分が誰かを否定する側も然り。それを避けなければ、脆い関係なんて瞬く間に壊れて跡形もなくなってしまうし、いくら強固な関係もひびが入ってしまうことがほとんどだ。お互いに嫌ってはいないけれど、どうしても気まずい。一緒にいる時の安心感が、気まずさとかぎこちなさといった違和感に変わってしまう。それが怖い。
でもそれは、親友とは言わないのではないだろうか。嫌なことを嫌だと言わない壁を作ったままでは、腹の内も言えないような仲では、親友というのは思い込みになってしまう。なんとなく、それが嫌だった。今まで沢山のことを千沙に相談してきたし、相談されもしてきた。それは恋のことだったり、友好関係や家族関係など、お互いの根元に関わるようなかなり深いことも話してきたはずだ。それを私の一つのお節介で無駄にしたくない。そう思ったら自然と口が動いていた。
「…そうだよね、言いたくないよね、誰かに何かを指摘すること…わかるよ。でも、でもね、私に何か非があったのなら言って? 千沙ちゃんが嫌な思いをしたのは確かだし、今言ってくれなかったら、私は千沙ちゃんと今まで通りの関係を続けられないと思うから…だから、教えてほしい」
千沙も私もごくり、と唾を飲み込んだ。
「……そうだよね…叫んじゃってごめんね、実里ちゃん。実はその…あのね、これといったことは何も…何もないの。何も、何にもなかったんだよ」
何もなかった。その彼女の言葉に、え、と声が溢れる。
「…ごめん、八つ当たりしちゃって…本当ごめんね…私、切り替えは早いほうだと思っていたし、もう切り替えられたと思っていたんだけど…思って、いたんだけどなぁ……」
段々と彼女の声が掠れ、震えていった。何となく口を挟んではいけない気がして、きゅっと手を握り締めて待つ。
彼女はぽつり、ぽつりとか細い声で話し始めた。
「…あの後、帰りながら、先輩と話したんだ…話しかけたのは私からばっかりで、先輩から言ってくれた訳じゃないけど……本当に他愛もないことを話して、先輩ったら二人きりで帰ってるっていうのに告白したことなんてなかったみたいに話すから、なんだか悲しくなってきちゃって……せっかく気を遣ってくれたのに、八つ当たりなんかしちゃって…本当、ごめんね、実里ちゃん…」
時折深呼吸を挟みながら、途切れ途切れに聞こえる声に、大丈夫だよと曖昧な励ましの言葉をかけた。こんな薄っぺらい言葉に何の意味もないことはわかっていたが、それくらいしか出てくる言葉が見当たらない自分が悔しかった。
「ありがとう、実里ちゃん…話、聞いてくれて…また明日、会おうね」
「うん! 勿論だよ、あと…こちらこそ、話してくれてありがとう。ああは言ったけど、図々しいと思われるか不安だったから…また明日、一緒に話そう!」
「…うん、ありがとう、実里ちゃん。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ、また明日ね!」
ぷつり、と切れた電話をしまい、ふぅ、と息を吐いた。彼女と話すのにここまで緊張したのは初めてだった。あそこで理由を聞けて良かった、と胸を撫で下ろす。
正直、話している間、ずっと怖かった。山本先輩のことなど頭に入ってこなかった。ただ唯一自信を持って親友だと言える千紗という友達を、無くしてしまうのではないかという恐怖心だけで話していた。曖昧な返事しか出てこないのも当たり前だ。きちんと彼女の話に向き合っていないのだから。ふと、安堵と彼女への申し訳なさが同時に襲ってきて板挟みになった。そして心の内で、恐れずにちゃんと向き合おうと誓う。
恐れこそとても怖いものだと少し前から思っていた。恐れ、というものがあるだけで人が変わったように攻撃的になったり、疑心暗鬼を生み出したり…真実ではない空虚に恐れを抱いた時、人は悲しい道しか辿らないのだ。何故か一見どうでもいい自論のようで、とても重要であるようなことが脳裏に蘇った。これも思い出したのなら、誰かの願いが帰ってきたのだ。辺りは電灯があるとはいえもう真っ暗だ。周囲が明る過ぎるせいで空に星は見えないが、平べったい三日月だけが煌々と輝いていた。
帰ろう、家へ。
千沙のその言葉が脳内を反響する。何か悪いことが、あの短時間のうちに起こってしまったのだろうか。確かに私が教室に戻った時の二人の様子はぎこちなかったが、てっきりそれは二人きりになったが故のものだと思っていた。冷や汗がひたりとにじむ。
「…え、千沙ちゃん、それは…あの時に何かあったの?」
「何もなければこんなこと実里ちゃんに言わないよ!言いたくないよ、こんなこと!」
千沙が耳元でそう叫んで、う、と思わず携帯を離しかける。言いたくない、というのは、これがきっかけで私と千沙の関係を崩したくないと思っているのだろう。当たり前のことだ。自分を否定されるのは怖いことだし、避けたいことでもある。自分が誰かを否定する側も然り。それを避けなければ、脆い関係なんて瞬く間に壊れて跡形もなくなってしまうし、いくら強固な関係もひびが入ってしまうことがほとんどだ。お互いに嫌ってはいないけれど、どうしても気まずい。一緒にいる時の安心感が、気まずさとかぎこちなさといった違和感に変わってしまう。それが怖い。
でもそれは、親友とは言わないのではないだろうか。嫌なことを嫌だと言わない壁を作ったままでは、腹の内も言えないような仲では、親友というのは思い込みになってしまう。なんとなく、それが嫌だった。今まで沢山のことを千沙に相談してきたし、相談されもしてきた。それは恋のことだったり、友好関係や家族関係など、お互いの根元に関わるようなかなり深いことも話してきたはずだ。それを私の一つのお節介で無駄にしたくない。そう思ったら自然と口が動いていた。
「…そうだよね、言いたくないよね、誰かに何かを指摘すること…わかるよ。でも、でもね、私に何か非があったのなら言って? 千沙ちゃんが嫌な思いをしたのは確かだし、今言ってくれなかったら、私は千沙ちゃんと今まで通りの関係を続けられないと思うから…だから、教えてほしい」
千沙も私もごくり、と唾を飲み込んだ。
「……そうだよね…叫んじゃってごめんね、実里ちゃん。実はその…あのね、これといったことは何も…何もないの。何も、何にもなかったんだよ」
何もなかった。その彼女の言葉に、え、と声が溢れる。
「…ごめん、八つ当たりしちゃって…本当ごめんね…私、切り替えは早いほうだと思っていたし、もう切り替えられたと思っていたんだけど…思って、いたんだけどなぁ……」
段々と彼女の声が掠れ、震えていった。何となく口を挟んではいけない気がして、きゅっと手を握り締めて待つ。
彼女はぽつり、ぽつりとか細い声で話し始めた。
「…あの後、帰りながら、先輩と話したんだ…話しかけたのは私からばっかりで、先輩から言ってくれた訳じゃないけど……本当に他愛もないことを話して、先輩ったら二人きりで帰ってるっていうのに告白したことなんてなかったみたいに話すから、なんだか悲しくなってきちゃって……せっかく気を遣ってくれたのに、八つ当たりなんかしちゃって…本当、ごめんね、実里ちゃん…」
時折深呼吸を挟みながら、途切れ途切れに聞こえる声に、大丈夫だよと曖昧な励ましの言葉をかけた。こんな薄っぺらい言葉に何の意味もないことはわかっていたが、それくらいしか出てくる言葉が見当たらない自分が悔しかった。
「ありがとう、実里ちゃん…話、聞いてくれて…また明日、会おうね」
「うん! 勿論だよ、あと…こちらこそ、話してくれてありがとう。ああは言ったけど、図々しいと思われるか不安だったから…また明日、一緒に話そう!」
「…うん、ありがとう、実里ちゃん。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ、また明日ね!」
ぷつり、と切れた電話をしまい、ふぅ、と息を吐いた。彼女と話すのにここまで緊張したのは初めてだった。あそこで理由を聞けて良かった、と胸を撫で下ろす。
正直、話している間、ずっと怖かった。山本先輩のことなど頭に入ってこなかった。ただ唯一自信を持って親友だと言える千紗という友達を、無くしてしまうのではないかという恐怖心だけで話していた。曖昧な返事しか出てこないのも当たり前だ。きちんと彼女の話に向き合っていないのだから。ふと、安堵と彼女への申し訳なさが同時に襲ってきて板挟みになった。そして心の内で、恐れずにちゃんと向き合おうと誓う。
恐れこそとても怖いものだと少し前から思っていた。恐れ、というものがあるだけで人が変わったように攻撃的になったり、疑心暗鬼を生み出したり…真実ではない空虚に恐れを抱いた時、人は悲しい道しか辿らないのだ。何故か一見どうでもいい自論のようで、とても重要であるようなことが脳裏に蘇った。これも思い出したのなら、誰かの願いが帰ってきたのだ。辺りは電灯があるとはいえもう真っ暗だ。周囲が明る過ぎるせいで空に星は見えないが、平べったい三日月だけが煌々と輝いていた。
帰ろう、家へ。