【Gakuto Haruka】 In Every Note, You
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午前の柔らかな陽射しが、隅田川の水面をきらきらと跳ね返していた。
高層ビルの谷間に広がる川辺は、思ったよりも静かで、空気まで澄んでいる気がする。
すみれは足を止め、目を細めた。
「……なんか、思ってた東京と違うね」
「ん?どう違う?」
「もっと人が多くて、ごちゃごちゃしてるってイメージだったの」
すみれは小さく笑って肩をすくめる。
「ははっ、まあ新宿とか渋谷とかはそうかもな。でも、俺が好きなのはこういうとこ」
楽翔は柵にもたれかかりながら、川の流れを指先でなぞるように見つめている。
視線は東京の真ん中にある川を越えて、もっと遠くに向かっているように見えた。
「すーちゃんに見せたいなって、ずっと思ってたんだ」
「……がっくんらしいね」
ふっと笑いながら、すみれも水面を覗き込む。
川風に揺れる髪の向こうで、楽翔は少しだけ照れた顔をしていた。
それから二人は、小さなレコード屋を覗いたり、個性的な古着屋を冷やかしたりした。
観光客らしい派手さはないけれど、「楽翔の東京」を一緒に歩いている感じがして、すみれの胸は不思議とあたたかい。
「これ、似合うんじゃない?」
楽翔がラックから引っ張り出したシャツを、すみれの胸元に当てる。
「えっ、私こういうの着ないよ」
「絶対かわいいって!」
無邪気な笑顔に、すみれは苦笑しながら試着室に入るのだった。
昼近く、人通りの多い交差点にさしかかったとき、すみれは人の波に押されて少し遅れてしまう。
「わっ……!」
小さく声を上げた瞬間、楽翔が振り返り、迷わずその手を取った。
「こっち!」
「あ……うん」
強くはないけど、しっかりとした温度。
人混みを抜けるまでの短い間、すみれはその手を離さないように握り返して歩いた。
彼の手のひらは、ステージのライトとは違う、日常のあたたかさがあった。
昼間のジャズバーは、夜とはまったく違う顔をしていた。
窓際から差し込む光に、カウンター越しのコーヒーの湯気が柔らかく溶ける。
香ばしい香りが店内に広がり、すみれの緊張を少しずつほどいていった。
「はい、どうぞ。ブレンドだけど、飲みやすいはずだ」
「ありがとうございます……!」
両手でカップを受け取ると、すみれは小さく会釈した。
楽翔はというと、もうすっかりくつろいでいて、マスターに向かって楽しそうに話しかけている。
「マスター、この前のライブ、めちゃくちゃ楽しかった!」
「はは、相変わらずだな。……だが、お前の歌もよかった。昔よりもだいぶ深みが増したじゃないか」
「ほんと!?やったー!」
嬉しそうに声を上げる楽翔。その姿は、東京で活躍する“アイドル”というより、愛媛にいた頃の無邪気な“がっくん”そのままだった。
(がっくん、東京でもこうやって大事にしてくれる人がいるんだ……)
胸の奥がじんわりと温かくなる。
そんなすみれに気づいたように、マスターが柔らかく笑いかけた。
「すみれさん、だっけ。……楽翔はな、ここではずっとこんな調子なんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「大きな舞台に立っても、俺の前じゃあんな感じだ。……まあ、それがあいつのいいところなんだけどな」
「マスター!」
楽翔が少しむくれたように声を上げる。
だが、その顔は恥ずかしさを隠せていなかった。
すみれは思わず笑ってしまう。
「……なんだか、ちょっと安心しました」
「安心?」
「うん。楽翔が、東京でもこうして笑っていられるんだって」
すみれはまた、寂しそうに笑う。
マスターは「なるほどな」と頷き、目を細めた。
「だったら、君が会いに来た意味は大きいな。楽翔にとっては――君がいることが一番、安心なんだろう」
「えっ……」
すみれが言葉を失った横で、楽翔が「へへっ」と笑って頭をかいていた。
彼の笑顔は、ステージの上でも見たことのない、誰よりもやわらかな光をしていた。
高層ビルの谷間に広がる川辺は、思ったよりも静かで、空気まで澄んでいる気がする。
すみれは足を止め、目を細めた。
「……なんか、思ってた東京と違うね」
「ん?どう違う?」
「もっと人が多くて、ごちゃごちゃしてるってイメージだったの」
すみれは小さく笑って肩をすくめる。
「ははっ、まあ新宿とか渋谷とかはそうかもな。でも、俺が好きなのはこういうとこ」
楽翔は柵にもたれかかりながら、川の流れを指先でなぞるように見つめている。
視線は東京の真ん中にある川を越えて、もっと遠くに向かっているように見えた。
「すーちゃんに見せたいなって、ずっと思ってたんだ」
「……がっくんらしいね」
ふっと笑いながら、すみれも水面を覗き込む。
川風に揺れる髪の向こうで、楽翔は少しだけ照れた顔をしていた。
それから二人は、小さなレコード屋を覗いたり、個性的な古着屋を冷やかしたりした。
観光客らしい派手さはないけれど、「楽翔の東京」を一緒に歩いている感じがして、すみれの胸は不思議とあたたかい。
「これ、似合うんじゃない?」
楽翔がラックから引っ張り出したシャツを、すみれの胸元に当てる。
「えっ、私こういうの着ないよ」
「絶対かわいいって!」
無邪気な笑顔に、すみれは苦笑しながら試着室に入るのだった。
昼近く、人通りの多い交差点にさしかかったとき、すみれは人の波に押されて少し遅れてしまう。
「わっ……!」
小さく声を上げた瞬間、楽翔が振り返り、迷わずその手を取った。
「こっち!」
「あ……うん」
強くはないけど、しっかりとした温度。
人混みを抜けるまでの短い間、すみれはその手を離さないように握り返して歩いた。
彼の手のひらは、ステージのライトとは違う、日常のあたたかさがあった。
昼間のジャズバーは、夜とはまったく違う顔をしていた。
窓際から差し込む光に、カウンター越しのコーヒーの湯気が柔らかく溶ける。
香ばしい香りが店内に広がり、すみれの緊張を少しずつほどいていった。
「はい、どうぞ。ブレンドだけど、飲みやすいはずだ」
「ありがとうございます……!」
両手でカップを受け取ると、すみれは小さく会釈した。
楽翔はというと、もうすっかりくつろいでいて、マスターに向かって楽しそうに話しかけている。
「マスター、この前のライブ、めちゃくちゃ楽しかった!」
「はは、相変わらずだな。……だが、お前の歌もよかった。昔よりもだいぶ深みが増したじゃないか」
「ほんと!?やったー!」
嬉しそうに声を上げる楽翔。その姿は、東京で活躍する“アイドル”というより、愛媛にいた頃の無邪気な“がっくん”そのままだった。
(がっくん、東京でもこうやって大事にしてくれる人がいるんだ……)
胸の奥がじんわりと温かくなる。
そんなすみれに気づいたように、マスターが柔らかく笑いかけた。
「すみれさん、だっけ。……楽翔はな、ここではずっとこんな調子なんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「大きな舞台に立っても、俺の前じゃあんな感じだ。……まあ、それがあいつのいいところなんだけどな」
「マスター!」
楽翔が少しむくれたように声を上げる。
だが、その顔は恥ずかしさを隠せていなかった。
すみれは思わず笑ってしまう。
「……なんだか、ちょっと安心しました」
「安心?」
「うん。楽翔が、東京でもこうして笑っていられるんだって」
すみれはまた、寂しそうに笑う。
マスターは「なるほどな」と頷き、目を細めた。
「だったら、君が会いに来た意味は大きいな。楽翔にとっては――君がいることが一番、安心なんだろう」
「えっ……」
すみれが言葉を失った横で、楽翔が「へへっ」と笑って頭をかいていた。
彼の笑顔は、ステージの上でも見たことのない、誰よりもやわらかな光をしていた。