【Gakuto Haruka】 In Every Note, You
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「すーちゃん、こっち!」
夕食の片付けが終わるやいなや、楽翔は待ちきれないようにすみれの手首を軽く引っ張った。案内されたのは二階の一室。扉を開けた瞬間、彼らしい賑やかさが目に飛び込んできた。
壁にはライブポスターや雑誌の切り抜き。隅には使い込まれたギターやノートパソコン。棚の上にはファンからもらった小物と、幼馴染にはお馴染みの古い写真立てまで置かれている。
「わぁ……」
すみれから思わず声がもれる。
「がっくん、東京でもちゃんと頑張ってるんだなって……すごく“らしい部屋”だね」
「でしょ!」
楽翔は胸を張り、楽しげにひとつひとつを紹介していく。
「これ、この前のツアーでもらったやつ!こっちは初めて作詞したときのノート!見たことあるよね?」
無邪気な声に、すみれの胸はじんわりと温かくなった。
窓際の照明は控えめで、ポスターの色が柔らかく滲む。楽翔がカーテンをそっと引くと、都会の空に白く大きな月が浮かんでいた。
「見て、綺麗だよ」
静かな声。窓ガラスに映る二人の輪郭が、少しだけ近く見えた。
「ほんとだね。愛媛で見るのとは、また違うかも」
「うん。向こうは空が暗いから月が近い気がする。でも、東京の月は……ちょっと大人っぽい」
月の光が彼の横顔を照らし、影を落とす。その一瞬が、すみれの胸にすっと入り込む。
しばらく沈黙が続いたあと、楽翔が小さな声で言った。
「ねぇ、実はさ……」
言いかけては飲み込む。探すような間。
「……なに?」と首をかしげるすみれに、彼はようやく言葉をこぼした。
「月が綺麗だと、すーちゃんの声が聴きたくなるんだ」
あまりに素朴で、淡い響きだった。自分でも理由の分からない思いを、ただ正直に吐き出しただけ。
すみれは目を瞬かせ、ふっと笑う。
「それ、いつも言うよね。だから急に夜中に電話してくるんだ」
茶化す声に、楽翔は肩をすくめるが、口元は緩んでいた。
月を見て、すみれを思い出す。歌っているときも、リハの合間も。ふと声を確かめたくなる――。それがどういう意味か、胸の奥で静かに輪郭を得ていく。
「変かな、そういうの」
不安げな問いに、すみれは首を振った。
「ううん、変じゃない」
楽翔は小さく息を吐き、胸に生まれた確かな感情を噛みしめる。
「でも、そう思わせる人がいるって、俺はラッキーだな」
照れ隠しの笑いもなく、真っ直ぐな声。
すみれは驚いたように顔を上げ、少し寂しげに、それでも嬉しそうに微笑んだ。
月明かりの下、彼女の何気ない言葉ひとつひとつを、楽翔は宝物のように胸にしまい込む。
外の街はいつもの喧騒を繰り返しているのに、世界は確かに色を変え始めていた。
夕食の片付けが終わるやいなや、楽翔は待ちきれないようにすみれの手首を軽く引っ張った。案内されたのは二階の一室。扉を開けた瞬間、彼らしい賑やかさが目に飛び込んできた。
壁にはライブポスターや雑誌の切り抜き。隅には使い込まれたギターやノートパソコン。棚の上にはファンからもらった小物と、幼馴染にはお馴染みの古い写真立てまで置かれている。
「わぁ……」
すみれから思わず声がもれる。
「がっくん、東京でもちゃんと頑張ってるんだなって……すごく“らしい部屋”だね」
「でしょ!」
楽翔は胸を張り、楽しげにひとつひとつを紹介していく。
「これ、この前のツアーでもらったやつ!こっちは初めて作詞したときのノート!見たことあるよね?」
無邪気な声に、すみれの胸はじんわりと温かくなった。
窓際の照明は控えめで、ポスターの色が柔らかく滲む。楽翔がカーテンをそっと引くと、都会の空に白く大きな月が浮かんでいた。
「見て、綺麗だよ」
静かな声。窓ガラスに映る二人の輪郭が、少しだけ近く見えた。
「ほんとだね。愛媛で見るのとは、また違うかも」
「うん。向こうは空が暗いから月が近い気がする。でも、東京の月は……ちょっと大人っぽい」
月の光が彼の横顔を照らし、影を落とす。その一瞬が、すみれの胸にすっと入り込む。
しばらく沈黙が続いたあと、楽翔が小さな声で言った。
「ねぇ、実はさ……」
言いかけては飲み込む。探すような間。
「……なに?」と首をかしげるすみれに、彼はようやく言葉をこぼした。
「月が綺麗だと、すーちゃんの声が聴きたくなるんだ」
あまりに素朴で、淡い響きだった。自分でも理由の分からない思いを、ただ正直に吐き出しただけ。
すみれは目を瞬かせ、ふっと笑う。
「それ、いつも言うよね。だから急に夜中に電話してくるんだ」
茶化す声に、楽翔は肩をすくめるが、口元は緩んでいた。
月を見て、すみれを思い出す。歌っているときも、リハの合間も。ふと声を確かめたくなる――。それがどういう意味か、胸の奥で静かに輪郭を得ていく。
「変かな、そういうの」
不安げな問いに、すみれは首を振った。
「ううん、変じゃない」
楽翔は小さく息を吐き、胸に生まれた確かな感情を噛みしめる。
「でも、そう思わせる人がいるって、俺はラッキーだな」
照れ隠しの笑いもなく、真っ直ぐな声。
すみれは驚いたように顔を上げ、少し寂しげに、それでも嬉しそうに微笑んだ。
月明かりの下、彼女の何気ない言葉ひとつひとつを、楽翔は宝物のように胸にしまい込む。
外の街はいつもの喧騒を繰り返しているのに、世界は確かに色を変え始めていた。