女を担いだままブライアンに来た俺らを見て、みんなビックリしていた。
まずは女をどうにかしようと奥のソファに寝かせる事にした。

みんな気になってるだろうが、俺が何も言わないから聞く事が出来ないのだろう。

好誠はまだ来てねぇか。

｢おい、柳。その女どうしたんだよ。｣

しびれをきらした甲斐が俺に言った。

俺は簡単に事情を話した。

｢それはもうキレイな蹴りだったんすよ！｣

将太は興奮しながらみんなに訴えている。

｢だが俺が油断してこのザマだ。｣

ボソっと呟いた俺の一言に店内は静かになる。

キレイな顔してんな。女の顔にかかる前髪をかき分けながら、柄にもなくそう思った。

でもこの顔、どこかで…

｢名前もわかんねぇなら起きるの待つしかねぇな。｣

コーヒーを飲みながら信之助が言ったのと同時に

｢待たせたな。｣

好誠と女物のパーカーを持っている鉄生が入ってきた。
あらかた鉄生に事情を聞いたのだろう。

｢この子か。柳が助けたのは。ん？？はな｣

｢好誠、知り合いか？｣

俺の問いに好誠は言いにくそうに呟く。

｢加東はな。鈴蘭の秀吉の双子の妹だ｣

｢えぇぇぇっ！！！｣

一斉に叫んだ男達の声にはなは少し身じろぎ目を覚ました。

｢んっ。痛っ。｣
起き上がろうとしたはなは痛みに顔を歪める。

｢大丈夫か？まだ痛いだろ。まずはトイレでこれ着てこい。｣

女の背を手で支えながら起こし持っていた鉄生の妹のパーカーを渡した。

自分の状況を察したはなは俺に礼を告げトイレへと入っていった。

｢めちゃめちゃ綺麗でセクシーじゃねぇか。本当にあの秀吉の妹なのか？｣

でけぇ声で言う源次は隣にいた信之助に頭を叩かれている。

｢いてぇな！おい。｣

｢俺は中学が近かったからな。間違いない。｣

騒がしい源次をよそに好誠は言う。

確かに、雰囲気似てるな。

｢あの！｣

ギャーギャー騒いでる中控えめな女の声が聞こえた。

｢おぉ、大丈夫か？俺が油断しなければ、悪かったな。｣

俺はそう声をかける。

｢いえ、貴女が助けてくれなかったら本当にどうなっていたか分からないので、ありがとうございました。｣

これもと言ってパーカーを指し、微笑みながら俺に頭を下げる。

｢いや、礼されるような事してねぇよ。あんたは、なんで絡まれたんだ？ナンパか？｣

｢いえ、それもこれも全部あいつのせい！！｣

そう言って拳を握ってるはな。

そんな中ブライアンの扉が開き、金髪とグラサンが入ってきた。
秀吉とマサだ。
好誠が誰かに連絡を入れて事情を伝えたのだろう。

｢はなー。大丈夫か？｣

マサははなの姿を見つけるなり小走りで近づきはなの傷を確認する。

｢よぉ、武田、柳。こいつが迷惑かけて悪かったな｣

秀吉は好誠と俺に向かって言う。

マサははなに傷がある事が許せないのだろう。俺を睨み付けながら

｢助けるなら無傷のまま助けやがれ｣

と言い放った。そんな金髪頭に拳が一発。

入れたのははなだ。

｢いてぇな！はな。なんだよ。｣

｢なんだよじゃないわよ。柳さん達は私を助けてくれたの。あの場に柳さん達がいなかったら私ヤラれてたんだからね。それに秀吉。なにが迷惑かけたなだよ。私が絡まれた原因はあんたなの！あんたにやられたあいつらが私を使って復讐しにきたのよ。これで何回目？もういい加減にしてよ。またブラウス破れたから弁償してよね！｣

一気にまくしたてるはなに武装の奴らとマサは呆然としている。

ただ一人だけ

｢お前、何枚めのブラウスだよ。｣
と笑っているのは秀吉。
はなはまだ怒っている。

｢柳さん、とそれから｣

｢将太です。｣ ｢鉄生っす｣

｢将太くん、鉄生くん、本当にありがとうございました。今度改めてお礼させてください。｣

そう深々と頭を下げてマサを連れて先に店を出ていった。

｢騒がせて悪かったな。本当にありがとな。｣
そう言いながら秀吉も出ていった。

｢相変わらずだな。｣

狂犬秀吉の妹だ。中学の頃から何度も同じ目にあっているのだろう。好誠が笑みをこぼしながらそう言った。

そんな俺も感情がコロコロ変わるはなの表情と、強烈な蹴りに、珍しく胸が高鳴り笑みを隠しきる事が出来なかった。