優しさは、いらない
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満点の星空に輝く月。
その日の夜、レッド・フォース号では宴が盛大に行われていた。
「新しい仲間、ユキにかんぱーい!!!!」
ヤソップがビールの並々注がれたジョッキを掲げた。
周りのクルーも同じように掲げて、グラスが高らかに鳴る。
もうこれで何度目だろう。
「あたしは海賊なんかにならないってば!」
ユキの声は酔いの回った男たちには届かない。
皆の熱気に耐えられなくなり、どこか涼める場所はないかと立ち上がった。
すると、シャンクスが手招きするのが見えた。
「なに?」
「あいつらの側じゃ疲れただろう」
そう言いながら船内に移動する。
「今日からここがユキの部屋だ」
シャンクスが示したのは船の一番奥にある部屋。
おそらく、最初にユキが寝かされていた部屋だ。
その証拠に、サイドテーブルにはあの写真立てが置いてある。
買ってもらった服もここに運び込まれていた。
「ま、汚いだろうが我慢しろよ」
おやすみ、とユキの頭を撫でて、シャンクスは宴に戻った。
扉が閉じてから、彼の背に向かって言葉を返した。
「おやすみ」
ガチャリ。
いきなり扉が開き、ユキの心臓は飛び出した。
「ななな、なに!?」
嫌でも声が裏返る。
先ほどの言葉が聞こえてはいやしないか、ユキの頭の中はそれだけだ。
「これを渡すの忘れてた」
そんな事とは露知らず、シャンクスがユキの手に握らせたのは、一丁の拳銃。
そのずっしりとした重みに、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「……いらないよ」
「おれたちいつ襲撃を受けるか分からないからな。護身用だと思って持っとけ」
まだユキはここの海賊たちに心を許してはいない。
それなのに、出会ってすぐの少女にあっさりと武器をあずけたシャンクス。
ユキは負けた気がした。
それはとても悔しかったので、牽制の意味を込めて言った。
「あたしがこんなもん持ったら、この船の誰かを殺すかもね」
だが、この赤髪の男は余裕綽々な様子で、
「やれるもんならやってみな」
ヒラヒラと手を振って、背を向けた。
「────ッ!!!!」
怒りで声が出ないユキ。
せめてもの反抗に、バタン! と船が揺れるほど力一杯ドアを閉めた。
今度はちゃんと、足音が遠ざかるのを確認してから、ユキはベッドに腰掛けた。
ぐるっと部屋を見回してみると、あちこちに酒瓶が転がっていて、調度品というものはほとんど無い。
唯一の机の上は沢山の海図で埋め尽くされていて、部屋の大半を占める宝箱には、ぎっしりと財宝が詰め込まれている。
触ってみたい気もするのだが、やはり人様のものに勝手に触れるのはマナー違反だ。
ユキはサイドテーブルの写真を取って寝転んだ。
やはり、疲れていたのだろう。
急に眠気が襲ってきた。
移ろう意識の中でユキは今日のことを思い返した。
海軍に追われて住処を変えるのは今まで何度もあった。
その度に港に停泊していた商船や客船に忍び込み、追っ手を逃れていた。
まさか、海賊船に乗り込んでしまうとは。
稀有な話である。
と、ここまで考えて、自分自身が稀有な話ではないかと[#w]は自嘲気味に笑った。
それにしても。
ここの人たちはほとんどがユキの奇妙な腕を見たはずだ。
なのに、誰も何も聞かなかった。
そのことが、少しだけ、ユキの警戒心を和らげた。
波に揺れる船は、ユキを簡単に微睡みの中に連れて行った。