心を叫べ
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「それにしても、怪我もすっかり治ったみたいでよかったよ」
バーボンの言葉にユキはギクリの肩を震わせた。
傷の治りが早いことが怪しまれただろうか。
だが、その声色からは敵意は感じられない。
そろりと目を合わせたが、その表情からは何も読み取れない。
数秒見つめあったあと、バーボンの赤い瞳がスッと細められた。
「それじゃあユキ。本題に入ろうか。……お前さん、竜じゃないね」
ユキの喉がひゅっと鳴った。
やはり、バレていたのか……。
行き場のない視線は宙をさ迷って再びバーボンへと戻る。
「……そうだよ。あたしは竜じゃない」
「だが、人間でもない」
続けて発せられた言葉に、ユキは目を丸くした。
「な、んで……」
掠れた声で聞き返したのと、ドアを荒々しく叩く音がしたのはほぼ同時だった。
「こんな朝早くになんの用だ」
苛立ちを滲ませた声でバーボンは扉を開けた。
そこに立っていたのは40歳くらいの長身の男。
眉間には深いシワが刻まれていて、複雑な模様が施された服に、首には巨大な真珠の首飾りが下がっている。
ユキは反射的に物陰に身を隠した。
「人間を出せ。ここにいることは分かっているんだ」
聞く者を威圧するような低音。
だが、バーボンは少しも動じない。
「誰の許可を得てここへ来た。……竜王よ」
「その言葉、そのまま返そう。誰の許可を得てここに住んでいる。先々代竜王よ」
竜王と先々代竜王。
ユキはふたりの会話に驚いて、こっそりと様子を窺った。
しかしその瞬間、高圧的な赤い瞳と視線がぶつかった。
「お前だな」
バーボンを払い除けると、竜王はズカズカと大股で近付いてきた。
竜王は脇目も振らずこちらへとやって来る。
ユキは、自ら1歩竜王へと進み出た。
「何をしている! 逃げるんだ!」
バーボンの悲痛な叫びが聞こえたが、無視をした。
「抵抗しないとは、まだ賢いな。己と相手の力量を見極めるのは大切なことだ」
「……じゃあ、あんたは大バカだね」
ユキは不意打ちのタックルを食らわせて、その勢いのまま扉から出ようとした。
外に出て、ユキの足は止まった。
「対局を見極めずに事を起こすのは賢くないな。やはり人間は愚かだ」
山小屋の中から呆れたような竜王の声が聞こえた。
バーボンの家を取り囲むようにして居たのは、見渡す限りの竜、竜、竜。
赤い瞳はギラギラと光り、ユキを射殺しそうだ。
果てしない絶望感に襲われたが、こんなところで諦めるわけにはいかない。
「あたしは、生きて……シャンクスたちのところへ帰るんだ!!!!」
「ほう……」
竜王はニヤリと口角を上げると、自分自身も竜に変化した。
「この状況でまだ抗うというか。その心意気を評して、この私がお前を始末しよう」
本物の竜となった竜王の声は何倍も深みを増した。
「止めないか!!!!」
バキバキバキ!!
山小屋が大破し、竜が現れた。
赤い瞳は怒りに満ちているが、くすんだ色のウロコが威厳を失わせている。
「バーボン?」
「この子がこの国になにか危害を与えたか!? 何もしてないだろう!」
「なぜ、人間を庇う。……誰かやつを取り押さえろ」
竜王の命令に、周りの竜は迅速に対応した。
すぐにバーボンは地に押さえつけられた。
だが、竜同士の争いとは凄まじく、地震のような揺れがユキを襲う。
到底立っていられなくて膝を付いてしまった。
「そうやって這いつくばっているのがお似合いだ。卑しき人間、お前はこの地に足を踏み入れてはいけなかったのだ」
巨大な鉤爪が迫ってくる。
「ユキ!!!!!」
待ち望んでいた声が聞こえたような気がした。
その瞬間、視界が赤に染まった。