1ページ目が捲られる
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ユキが目を覚ましたのは見知らぬベッドの中だった。
「起きたか?」
ひょいっと視界に入ってきたのは、赤髪で左目に三本の傷がある男。
ユキが真っ先に殺そうとした男だ。
瞬時に状況を理解したユキはベッドの上に立ち上がって、敵意を剥き出しにする。
「殺すのなら殺せ! あたしはお前たちなんかに屈しない!!」
「落ち着けって。殺したりなんかしないさ」
「そんな言葉で騙されるもんか!」
パキパキと、またユキの頬がウロコに変わった。
「お前、それ……」
男に指さされて、ようやくユキも肌が変化していることに気づき、ぱっと手で隠した。
しかし、今の反応は、もしかして……。
「何も、知らないのか」
男はしばらく考えるように視線を巡らせたが、こくりと頷いた。
ユキは男の瞳をじっと見つめた。
残念ながらユキには目を見るだけで、相手が嘘をついているか見抜く力はない。
ただ、今のところ不審な動きは見られない。
ねぇ、父さん。この男はどっちだと思う?
ふと、手の中に何も無いことに気づいた。
慌てて身の回りを探る。
無い……、無い……!
命よりも大切な、大切な……、
「探し物はこれか?」
男が写真立てをヒラヒラと振る。
「返せ!」
ユキは飛びつかんばかりの勢いで奪い、絵の中の赤い瞳を見つめた。
その写真には、温かい眼差しの父親と、まだ笑顔が作れたころの自分が写っている。
「いい写真だな」
男が優しげな声で言った。
だが、それくらいで絆されるユキではない。
無視を決め込んでいると、
「おれはシャンクスだ。お前さん名前は?」
──人間の礼儀は欠くな──
父の教えが蘇る。
嫌々ながらも名乗った。
「ユキ」
「そうか。じゃあユキ、」
あっけらかんと笑って、シャンクスは言った。
「実はさ、海軍巻くために通ったルート記録するの忘れててな、あの島に帰れなくなったんだ。この近くにある島にログ書き換えられちまったし」
「はあ!? ふざけんな!!!」
ユキはシャンクスの胸ぐらを掴んだ。
「だってこんなに早くログが溜まるとは知らなかったんだよ」
どこまでも能天気なシャンクスに苛立ちが募る。
あの島には何の思い入れもない。
だが、あの小屋に残してきたものはまだ沢山あるのだ。
これだから海賊は……!
その時、コンコンと開け放していた扉がノックされた。
入口に立っていたのは、長身に白髪をオールバックにした男。
「おれはベン・ベックマンだ。島に帰れなくなったことはおれからも詫びよう。だから、その手を放してくれないか。少々抜けているところがあるが、一応おれたちの頭なんでね」
だとしたら随分な言われようだ。
当の本人は全く気にしていないようだが。
渋々とユキは手を放した。
「心配しなくてもちゃんと送り返してやるさ。時間はかかっちまうけどな。だから、それまでユキはこの船の一員だ」
「え?」
呆気にとられるユキの頭をわしゃわしゃと撫でたシャンクスは、ベックマンを連れて部屋を出ていった。
「……頭、何も訊かなかったのか」
部屋を出た途端、ベックマンが尋ねた。
切れ者で博識な彼でも、ユキの正体は分からないと言う。
分かったのは悪魔の実の能力者ではないことだ。
だから、直接本人に聞いてみようという話になったのだが、
「まあ、知られたくなさそうだったしなぁ」
ウロコのような肌を見られたときの、ユキのあの瞳。
一体どんな生き方をしたらあんな怒りと憎しみに満ちた目になるのだろう。
「まずはユキの信頼を勝ち取らなきゃな」
「そういうのは得意分野だろ」
「そう簡単にいくかねぇ」
何はともあれ、まずはこの船に慣れさせるところからだ。
◆
しばらくしてから部屋のドアを開けると、弾丸のようにユキがタックルしてきた。
その血の気の多さには感服する。
シャンクスは片手だけでユキを止めた。
「あたしは海賊なんかにならない!」
「海賊にはならなくていいさ。ただ、ユキはこの船の一員だからな」
噛み付くような勢いを往なすように、曖昧な言葉で濁してやると、ユキは複雑そうな顔をした。
渋るユキを甲板に連れていくと、お気楽で自由奔放なシャンクスの仲間は、すぐにユキを受け入れた。
だが、むさ苦しい男たちに囲まれたユキは警戒心がありありと見える。
それもそうか。
本来女の子がいるべきような場所じゃない。
あの写真を心底大事そうにしているところから、家族はもういないのだと思う。
だがやはり……。
シャンクスは責任を感じていた。
と、ここでようやくルウが昼寝から目を覚ました。
「何かおれの腹の上にでっかい肉落ちてきたんだけど、知らない?」
彼は呆れるほどに食い意地が張っている。
「あれ、その子は?」
ルウは落ちてきた肉の正体とは知らずユキを指さした。
「こいつはしばらくこの船に乗ることになったユキだ」
「ふーん。おれはラッキー・ルウ。よろしく」
どこから取り出したのか、大きな骨付き肉を差し出した。
それを、プイっとそっぽを向いて拒否したユキ。
ルウは気にすることなく、差し出していた肉にかぶりついた。
「頭、ここのログは2日かかるみたいだ」
ドレッドヘアを揺らしながらやって来たのがヤソップ。
狙った獲物は逃がさない。
百発百中の頼れる狙撃手だ。
「分かった。じゃあユキ、買い物に行こう」
「なんで?」
「だってユキの荷物何もないだろ」
「じゃあひとりで行く」
「金は?」
「……」
ここで素直に「ちょうだい」と言ってくれるようになったら合格かな。
ひとりで勝手に信頼度のハードルを設定して、ユキを街に連れ出した。