赤に焦がれて
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目を開けるとそこは、暗い暗い空間だった。
ただひたすらに闇に包まれていて、全体像は掴めない。
さて、ここは一体どこなのだろうか。
考えてみたが思い当たる節はない。
それどころか、今まで自分は何をしていたのか、思い出せない。
自分の名前さえも……。
その時、フッと横を何かが通り過ぎた。
闇のせいで姿は見えないが、確かに人の気配を感じた。
と、徐々に闇が白くぼやけ始めた。
それはだんだんと輪郭を象っていき、やがて景色となった。
この情景には見覚えがある。
のどかな町並み、おしゃべりを楽しむ人々の姿、その間を駆け回る子どもたち。鳥のさえずりが町の幸せを彩っている。
ただし、人間はそのシルエットだけが浮かんでいる
しかしそれでも、なんて平和な時間なのだろう。
急に場面が変わった。
人気のない森、木々に覆われて薄暗くなった山道、ところどころにある獣道。どこか遠くの野獣の遠吠えが余計に荒涼とさせる。
「待ちやがれ!!!」
どこからともなく聞こえてきた声にハッとなった。
「てめぇの首には莫大な金がかかってんだ!!」
地面の落ち葉を踏み荒らす音が近付いてくる。
目の前を手を繋いだふたりの人間が走り去った。
ひとりは大人の男で、もうひとりは小さな子ども。
おそらく親子だ。
引っ立てるように父親が子どもを引っ張る。
「振り返ってはいけないよ。走るんだ」
しかし、整備のされていない山道は子どもが走るのには不向きである。
案の定、むき出しになった木の根につまずいてしまった。
「わっ……!!」
「××!!」
父親の言葉が、なぜかノイズが入ったように聞き取れなかった。
「ガキだ! ガキを狙え!!」
ここで、新たな人物が登場した。
腰に剣を帯びていて、擦り切れたような服を身にまとっている明らかに悪人面の男たちである。
悪党がスラリと腰から剣を抜き、刃を舌で舐めた。
「へへっ、お前もそいつの子どもならそれなりに価値があるだろ」
妖しげな光を放つ刃が子どもの瞳に写る。
「ひっ……!!」
「止めろ!!!」
父親の目が怒りに燃える。
しかし、悪党はヘラヘラ笑って嘲った。
「知ってるぜ。お前はもう力がなくなってるんだろう。そりゃあ1000年も生きりゃあガタがくるさ!」
「力のないお前なんか屁でもないぜ」
「違う! 僕は1000年も生きてなんかいない! すべて政府の間違いなんだ!」
「そうだとしても、おれたちにとっちゃ関係ないね! お前に賞金がかけられてるっつう事実は変わらねぇ!」
斬!!
光る刃が貫いたのは、子どもではなく……父親だった。
鋭い光の銀の刃はどす黒い血に濡れた。
「────!!!!!!」
視界が赤く、赤く染まってゆく。
「カハッ……!」
血溜まりが大きく広がってゆく。
子どもはあまりのショックに声も出ないようだ。
口をハクハクさせて、父親の傷口を押さえている。
気づけば涙が流れていた。
それは子どもからではなく、自分から。
「大丈、夫だよ。……僕は、平気だから」
父親が優しく子どもの頭を撫でる。
「人間は、、醜い。……だけども、愛おしい」
声がだんだん掠れていくようだ。
「この先、何があろうとも……人間を憎んでは、いけないよ……」
刻々と終わりの時が近づいている。
「僕との、最期の約束だ。……生きろ、ユキ……!!」
そうだ、思い出した。
あたしは……、あたしの名前は……!!
「──ッ父さん!!!!」
そう叫んだ瞬間、辺りの情景は霧となり、強い風に乗って遥か彼方へ消え去った。
──ユキは目を覚ました。