笑顔の在り処
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ユキはその日、夢を見た。
幼い頃の夢だ。
あのころは父の教えを疎ましいと思っていた。
どうして人間にそこまでしなくてはいけないのか、と。
だから、一度だけ教えを破った。
一度だけなのは、その時に痛感したからだ。
己の力が人間にとってどれほど脅威なのかを。
「ねぇ、一緒に遊ぼうよ!」
「いいよ! 何して遊ぼっか?」
「鬼ごっこ!」
「いいよー!」
「さいしょはグー、ジャンケンぽん!」
ジャンケンの結果、ユキは逃げる側になった。
きゃーきゃーと逃げ回る。
何て楽しいのだろう。
これを禁じた父を憎いとさえ思った。
「タッチ! 次はユキちゃんがオニだよ!」
「まてー!!」
オニを交代するため、ほかの子どもを追いかけ始めた。
道行く人々、立ち並ぶ屋台、集団で話すおば様たち。
町にあるもの全てが障害物となる。
その間を駆けていくのは、なんて……、
楽しい! 楽しい!! 楽しい!!!
ユキの頬がパキパキと竜のウロコに変わる。
だが、ユキは気づかない。
ユキの頬を見た大人たちが恐怖する。
だが、ユキは気づかない。
「タッチ!」
目の前に男の子を捉えて、左手を伸ばした。
しかし、まだまだコントロールの利かないユキの左腕は竜のものに変わっていた。
「ぎゃあっ!!!」
その悲鳴に、ユキは事の大きさを知った。
男の子の背に走る爪痕。
まだ竜の腕のままのユキ。
何があったのかは一目瞭然。
「バケモノ!!!」
一緒に遊んでいた子どものひとりが叫んだ。
「ち、違っ……!」
否定しようとしても、上手く言葉が出てこない。
事実、ユキは異形の力で人間を傷つけてしまったのだ。
さっきまであんなに楽しく笑い合っていたのに……。
後はその叫びに呼応するように、ますます“バケモノ”と呼ばわる声が大きくなっていく。
周りの人間の目が恐ろしかった。
この人たちは、誰?
もう、ユキの知っている町人ではない。
「バケモノめ、この町から出ていけ!」
誰かに石を投げられるも、硬い頬に当たり地面に落ちた。
ユキの頬が傷つくことはない。
それが一層ユキの不気味さを増す。
礫と罵声が降り注ぐ。
どうすればいいのか分からなくなったユキは、へたり込んでボロボロと泣いた。
後のことはよく覚えていないが、確か父親がやって来て、あの町を出ていったはずだ。
その時に言われたことはよく覚えている。
「ユキ、もう泣くのは止めなさい。ぼくたちの涙は人間を癒す力がある。今回はそこまでバレなかったから良かったものの……。いいかい、ユキ。人間の前で決して泣いてはいけないよ。これ以上ユキが傷つきたくなかったらね。きっと人間はユキを捕らえようとするだろう」
父は少しも怒鳴らず、ただ優しく諭した。
ユキは手の甲でゴシゴシと目を擦った。
「……ゔん」
己の力は人間を傷つけてしまう。
そのことを知ってから、ユキは父親の教えを忠実に守るようになった。
己の涙が争いの種になる。
そのことを知ってから、ユキは決して泣かなくなった。
しかし、気づけば笑うこともできなくなっていた。