笑顔の在り処
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一時間もすれば、次の島が見えてきた。
「銭湯を探せ!」
まるでお宝でも探しに行くかのように船を降りた。
幸いにも、銭湯はすぐに見つかった。
大きな煙突からもくもくと煙が上がっていたからだ。
「やっとさっぱりできる……」
さすがにスミまみれで入るわけにはいかないので、あらかた海で落としてきている。
しかし、そうすると今度は海水でベタベタしていたのだ。
何だかんだ言いながら、根本的なところは女の子なユキである。
「上がっても俺たちいなかったらここで待ってるんだぞ」
ロビーで待ち合わせをすることを決めて、ユキは女湯の暖簾をくぐった。
ユキは銭湯に来るのは初めてなのだ。
本で読んだことはあったが、実際に見たことはない。
未知へのわくわくと不安で引き戸に手をかけた。
やけに視線を感じたが、これが銭湯というところなのだと思い、気にしなかった。
皆に迷惑はかけまいと、素早く風呂に入ろうと思っていたのだが、久しぶりの風呂についつい長風呂をしてしまった。
半乾きの髪のまま出ると、皆ロビーで寛いでいた。
「……ごめん」
「何で謝るんだよ。こいつらが早いだけだから」
「そういうお頭が断トツ早いけどな」
的確なベックマンのツッコミが入って、シャンクは頭をかいた。
それじゃあ、とシャンクスは立ち上がった。
「お前らはメシ屋探しとけ。おれはちょっとユキと買い物に行ってくるから。連絡は電伝虫にな」
「えっ、ちょっと……」
身を引いたユキに、シャンクスは口を尖らせた。
「なんだよ。おれとの買い物は不満か?」
「いや、そうじゃないけど。あたしじゃなくても……」
「野郎と行くより女の子と行ったほうがいいに決まってるだろ。行くぞ」
問答無用で引きずられてきたのは街の本屋だ。
「あたし本なんか……」
「誰がお前に買うって言ったよ。おれが読むんだよ」
シャンクスはバカにしたように舌を出した。
「!!!」
恥ずかしさを紛らわすように、ユキは舌を突き返した。
変化しそうになった頬は深呼吸でなんとか落ち着けた。
「ユキの好きな本は?」
そう、唐突に訊かれた。
店内を見回して、あるブースに向かう。
そして、迷わず手に取ったのは一冊の童話集。
パラパラと捲り、目的のページをシャンクスに見せた。
タイトルは『ひとりぼっちのドラゴン』
「子どもっぽいけど、好きなんだ」
「ふーん」
シャンクスはそれをひょいっと取って、レジに向かった。
「別に買わなくても……」
「違うよ。おれが読みたくなったんだよ」
それがただの口実ということくらい、ユキにでも分かる。
やめてよ。
そんなふうに優しくされると、いつか来るお別れが辛くなるだけだ。
シャンクスは罪滅ぼしのつもりなのだろう。
だが、勘違いしそうになるのだ。
「自惚れるなユキ。お前は人間ではないのだから……」
父の声が聞こえたような気がした。
◆
夕食は銭湯の近くの酒場で取った。
こういう酒場に来ると、シャンクスは決まって東の海を拠点にしていたころの酒場を思い出す。
美人な店主、マキノの作る料理は絶品だった。
日付も変わりそうになったので、
「おい、そろそろ帰るぞ」
と、声をかけたが、ベロベロに酔った男たちは動きそうにない。
あとはベックマンに任せ、シャンクスは先にユキとふたり船に戻ることにした。
最近、ユキに「家具が少ない」と指摘され買ったソファに座り、買った本を開いた。
まず初めに読んだのはユキが好きだと言った話。
童話なのでそれほど長くない。
本が苦手なシャンクスでも楽に読めた。
しかして、その内容は、
「なかなか、残酷だな……」
少女を助けたドラゴンが人間に痛めつけられて絶滅してしまう、という話だった。
好きだというくらいだからハッピーエンドだと思っていたのだが、まさかのバッドエンド。
怪訝な顔をしていたのだろう。
「それ、あたしの父さんと母さんのことなんだ」
ユキが隣に座って言った。
「へぇ」
頷いて、ハタと冷静になった。
「え!?」
素っ頓狂な声を上げるも、ユキは静かに繰り返した。
「それ、あたしの父さんと母さんのことなんだ」
回らない頭で考えて、一番に思い浮かんだのは、
「一体、お前いくつだ?」
たしか、ユキの母親は人間のはずだ。
実話が童話になるとは、一体どれほどの月日が経てば良いのだろう。
常識的に、人間は1000年も生きられない。
「19だよ」
どうしてそんな質問をされたのか、分かっていたのだろう。
「ドラゴンの涙には傷を癒すだけじゃなくて、永遠の命を与える力もあるんだって。だから母さんもドラゴンと同じ年を生きられるようになったんだ」
ユキは答えを出してくれた。
「まあ、あたしは無理だけどね」
おやすみ、とベッドに向かったユキ。
シャンクスはもう一度読み返してから、彼女の隣に潜り込んだ。