信じる覚悟
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両船が近づき、タイミングを見計らって、お互いに半数が相手の船に飛び移る。
ユキはシャンクスたちと共にレッド・フォース号で敵を迎え撃つ。
敵のリーダー格の男が怒鳴った。
「おれは賞金稼ぎのアーノルド様だ! 赤髪のシャンクス! お前の首をもらいに来たぞ!」
「やなこった!」
即座にシャンクスが返した。
ついでに、べぇっと舌を出す。
「生意気な!」
銃を構えたアーノルドは連続して引き金を引いた。
だが、丸がシャンクスの元まで届くことはない。
「いきなり頭捕れると思うなよ」
カランカランと全ての弾丸がシャンクスの足元に落ちた。
声のする方を向けば、ヤソップのライフル銃が消炎を上げている。
アリの眉間に丸をぶち込めると豪語する彼の射撃の腕前ならば、アーノルドの鉛玉を全て撃ち落とすことなど造作もない。
だが、顔が顔だけに、なんとも締まらない。
本当に締まらない。
「な、なんっだその顔は……!」
アーノルドも呆れて言葉に詰まる。
「あいつヒドイ顔だな……ぶふっ!」
「おいおい、笑っちゃ悪いだろ……ぐふっ!」
敵の間でも笑いが漏れる。
「やつらのことは気にすんな!」
シャンクスがヤソップに向かって親指を立てた。
「いったい誰のせいだと思ってんだ!」
ユキは無言でヤソップに手を合わせた。
「よそ見してんじゃねぇよ!」
アーノルドが大剣を抜いてシャンクスに向かっていった。
シャンクスも自身の剣を引き抜いた。
ガキン!!
見るからに重そうなアーノルドの一撃だが、シャンクスは軽々と受け止めた。
ふたつの剣がぶつかり合って、火花が散る。
実は、ユキは彼らの戦う姿を見るのは初めてなのだ。
出会い頭にユキが仕掛けたときも、彼らは防戦一方だったのを覚えている。
「すご……」
ベックマンは遠方の敵はライフル銃で撃ち落とし、接近してきた敵はくるりとライフル銃を回転させ銃身を持ち、グリップの部分で殴りつけた。
「それ、使い方あってるの?」
「敵を倒せられればいいんだよ」
「ふーん」
ベックマンが言うと妙に納得できた。
ルウはこんな時でも片手に骨付き肉を忘れない。
敵を倒しては食べ、倒しては食べ、の繰り返しだ。
食べ終わった肉はそのまま武器となる。
「あたしも負けてらんないや!」
ユキは腕を変化させて、乱闘の中に飛び込んだ。
向かってくる剣を硬い皮膚で受け止めて、無防備な腹を蹴り上げる。
それだけでは倒れてくれないので、最後は鉤爪でひとっかき。
「ぐあっ……!!」
腕を振って、爪に付いた血を払う。
「やるねぇ」
シャンクスが口笛を吹いた。
一度に五人を相手してこの余裕である。
「これでも何年も海軍から逃げてきてるんだよ!」
歴然とした力の差を見せつけられたような気がして、それが悔しくて、当り散らすようにユキは次々と敵を切り裂いていった。
相手はたいした強さではないのだが、数が多い。
一人で何人もの相手をするなどザラである。
ユキも例外ではない。
「この化け物がっ!」
バッサバッサと切り捨てていたユキだが、とうとう一人の男に羽交い締めにされた。
なんとか振り逃げようとするが、筋肉隆々の男の力にはさすがに敵わない。
「くそ! 放せ!!」
必死に身をよじるユキに、男は勝ち誇ったように笑う。
「へへっ、そう暴れるなよ。カワイイ顔が台無しになるぜ」
「うるさい!!」
もし、あたしが男だったら。
こんなやつに捕まったりしないのに。
カワイイなど言われやしないのに。
悔しい。
つくづく自分の性が嫌になる。
「ユキ、頭を引っ込めろ」
ベックマンの鋭い声にすぐさま反応した。
とたんに銃声がして、ユキは男の腕から解放された。
「……ありがと。助かった」
ベックマンは返事の代わりに、ライフル銃を唸らせた。
ふと、目の端にシャンクスの姿を捉えた。
先ほどよりも倍の人数を相手にしている。
どうせ難無くあしらうのだろうと、敵を捌きつつ見ていると、シャンクスは四肢をがっちりとホールドされてしまった。
この時を待っていたかのように、アーノルドが大剣を振り上げる。
周りを見ると、皆自分の相手で忙しく、頭の危機を救えそうにない。
「ッ……!」
さすがに、ここまで化け物じみた力は隠そうと思っていたのに。
この距離では間に合わないと思うと、考えるよりも先に行動に出た。
ゴウッ!
ユキが吹いた一筋の火炎はアーノルドを襲い、着火した。
「あちゃちゃちゃちゃ!!!!!」
「っええーー!?」
アーノルドの悲鳴と人々の驚きの声が重なる。
アーノルドは突然の発火に慌てて、火を消そうと自ら海に飛び込んだ。
ジュウっと鎮火の音がしたが、なかなか浮かび上がってこない。
突然のリーダー離脱に、敵の間に動揺が走った。
その一瞬を赤髪海賊団総員が見逃すはずがなく、一気にカタがついた。
赤髪海賊団の勝利である。
◆
「ユキ! お前まだそんな力隠してたのか!!」
戦いが終わるや否や、ヤソップが飛ぶようにやって来た。
その勢いのままにわしゃわしゃとユキの髪の毛をかき乱す。
「……うん。ごめん」
言い訳も思い付かなくて、もごもごと口ごもる。
「何で謝るんだよ。今日のMVPはお前だ!」
そう言って、ヤソップはユキの身体を抱き上げた。
褒められたのと、幼い子どものように高い高いをされたのとで、ごちゃ混ぜになった感情が頬を半分だけウロコに変えた。
「へぇ、それって嬉しいときでも変わるんだな」
ルウに指摘されても、今度は隠すようなことはしない。
だが、
「別に嬉しいってだけで変わったわけじゃないから!」
妙なプライドのせいで、素直にはなれない。
そこへ、後始末を終えたシャンクスがやって来た。
「助かったよ。ユキ、ありがとう。随分戦力になった」
シャンクスに手放しで褒められて、頬が完全に竜の肌に変わってしまった。
ニヤニヤと笑うクルーたち。
「見るな! 笑うな! 」
ユキは恥ずかしさに耐えきれなくなり、猛ダッシュで見張り台に登った。
「ユキ〜、悪かったって」
「早く機嫌直せよ〜」
クルーたちの猫なで声は放っておいて、ユキは空を見上げた。
厚い雲はいつの間にか晴れていた。
秘密を打ち明けた日の夜空に浮かぶ星たちは、手を伸ばせば掴めてしまいそうだった。