信じる覚悟
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ユキとシャンクスはベッドに並んで腰掛けた。
ランプの灯りが波にゆらゆらと揺れる。
震えそうになる声を必死に抑えて、ユキは言葉を紡いだ。
「あたし、ハーフなんだ。竜と人間のハーフ」
シャンクスは静かに続きを待っていてくれる。
「父さんが竜で、母さんが人間。あたしは半分ずつ血を受け継いだんだ。瞳も半分ずつ。竜になれるのも半分だけ」
ユキは袖を捲って、竜の腕に変化させた。
パキパキと腕が変わっていく様は自分で見ても気味が悪い。
だが、シャンクスは眉一つ動かさなかった。
「なんとか腕はコントロールできるようになったけど、」
次に左頬を触った。
「ここだけはどうしても、感情が昂ると竜の肌に変わるんだ」
「ふーん」
と、緊張感のない声にユキはむかっ腹が立った。
「人が覚悟決めて話したってのに!」
シャンクスはフンっと鼻を鳴らした。
「どれだけ深刻な話かと思ったら、たかがハーフってだけじゃねぇか」
いいか、と今度は指を突きつけてきた。
「ここの連中がそんなこと気にするわけないだろう。おれはそんなやつを仲間にした覚えはないね」
「だけど、そんな人間はだれも……」
「いるだろう、ここに」
顔を掴まれ、上を向かされた。
ゴチンとシャンクスの額が当たる。
その熱を確かに感じる。
「……うん」
希望は確信に変わった。
「なあ、一つだけ聞いてもいいか?」
こくりと頷く。
「ユキはどうして海軍に追われてるんだ?」
「……やつらは、あたしが“空白の100年”を知ってると思ってるんだ」
この世界の歴史には“空白の100年”という期間が存在する。
約900年前からの100年間の歴史がぽっかりと空いているのだ。
その当時のことは誰にも分からず、調べることも政府によって禁じられている。
「“竜は千の年を生きる”そんな噂に当てられて。……もう、小さい頃からずっとだから慣れたけどね」
「……そうか。話してくれてありがとう」
シャンクスは、ぽん、とユキの頭に手を置いた。
「おーい、お頭とユキ。何してんだ?」
ヤソップの声だ。
いくら待ってもやって来ないふたりが心配になったのだろう。
「行けそうか?」
まだ尚気遣ってくれるシャンクスに、ユキは力強く頷いた。
そして、扉を開き、現れた顔にふたりは吹き出した。
悲惨な顔のヤソップが立っていたからだ。
「何でその顔のままなんだよ」
「そうお頭が命令しただろ!」
「何か台無し……」
「何でガッカリしてんだよ!」
ふたりからの理不尽な言葉にヤソップは口を尖らせた。
その横顔を見ながら、
「みんなにも、伝えたい」
自然とそんなセリフが口から飛び出した。
「いいんじゃないか?」
シャンクスは微笑んだ。
◆
船での食事は、基本的に甲板で取る。
クルー全員で食べるにはここが一番なのだ。
大時化の時はやむを得ず船内になってしまうが。
「みんな、注目!」
大頭の声に皆食べる手を止めてこちらを見た。
「ユキから話があるんだと」
シャンクスに背中を押されて、一歩前へ出た。
皆の視線が痛い。
だが、自分を受け入れてくれた人がひとりでもいるということが、ユキを心強くする。
大きく息を吸って、ユキはもう一度同じ話をした。
しばしポカーンとした表情で聞いていたクルーたちだが、
「要するに、ゾオン系の悪魔の実の能力者みたいなもんだろ?」
全く要せてないルウの言葉に、皆が納得した。
誰一人として気味悪がらない。
あまりにもあっさり受け入れられたことに、今度はユキがポカーンとなる番だった。
「な? だから言ったろ」
したり顔のシャンクスが少しムカついたので、彼の脇腹に肘鉄を食らわせた。
「いって! なに、照れなくてもいいんだぞ?」
検討外れの解釈を無視して、ユキは皿に盛られた肉にかじりついた。
「なあユキ、もう隠してないならあの腕見せてくれないか?」
ヤソップがシチューの入った椀を持ったままやって来た。
「……いいけど」
パキパキとユキが腕を変化させると、男たちは食いついた。
「おお……! すげぇかっけーな!!」
「ドラゴンは空想上の生き物じゃなかったんだな!」
「やっぱこういうのテンション上がるよな」
「男のロマンだよなァ」
ユキとしては、こんな反応は生まれて初めてなので面食らうばかりだ。
と、誰かの大声が響いた。
「10時の方角に不審な船を確認!」
宴のようなどんちゃん騒ぎが一瞬で戦闘態勢になった。
皆速やかに皿の上の料理を平らげて、武器を手に取る。
望遠鏡を手に取ったのはヤソップだ。
「あれは賞金稼ぎだな。ガラの悪いのが大勢いやがる」
船は一隻だけだが、かなりの巨船。
レッド・フォース号と同じくらいだろうか。
「賞金稼ぎごときがあんな大層な船に乗っちゃって」
ボヤくヤソップは背中に背負ったライフル銃を抜いて、敵に照準を合わせた。
「だけど、なにもこんな時間に来なくてもなぁ」
ルウの腹時計は午後8時を指している。
これは一秒たりとも狂わない。
空の輝きは厚い雲に覆われて、より闇を濃くしている。
「ユキは船室に行ってな」
シャンクスにそう言われたが、ユキはかぶりを振った。
「ヤダ。あたしも戦う」
「あのなぁ……」
シャンクスが何か言いかけたが、反論の余地を与えず続けた。
「そりゃあ、シャンクスたちのほうがあたしより遥かに強いよ。だけど、戦力はあるに越したことないでしょ!」
お荷物なんて思わせない。
危険だから下がってろなんて言わせない。
ユキは守られるだけの女ではないのだ。
「ほんっと、血の気の多いことで」
ランランと輝くユキの瞳を見て、シャンクスは諦めたようにため息をついた。
「今に始まったことじゃないだろう」
ベックマンも苦笑しながらだが、ユキの戦闘参加を認めてくれた。
そこへ、
ドーン!
一発の大砲が撃ち込まれた。
戦いの合図だ。
「無茶はするなよ」
「大丈夫」
あたしは竜のハーフだよ。
挑戦的な目でシャンクスを見上げた。