信じる覚悟
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事態が大きくひっくり返ったのは、お昼過ぎだった。
ルウがおやつのワンホールのケーキを一口で食べようとした時だ。
雲が堪えきれなくなった雨が、ぽつりと甲板に染みを作った。
雨は直ぐに豪雨に変わり、雷鳴が轟く。
「帆をたため! 荒れるぞ!」
シャンクスの命令でクルーたちが一斉に持ち場につく。
ユキもこの二週間に帆走術を教えてもらい、飲み込みが早かったので、今ではすっかり手馴れたものだ。
いち早くマストに登り、帆をたたむ。
揺れる足元に注意しながら甲板に降り立ち、無意識のうちに濡れて張り付いた前髪をかき上げた。
「シャンクス、次は何をすればいい?」
「そうだな……」
指示をするため振り向いたシャンクスの目がギョッと見開かれた。
「ユキ……お前、その瞳……」
露になったユキの瞳。
漆黒の左眼と、真紅の右眼。
その対照はとてもアンバランスで、それでいて目が離せなかった。
ユキはサアっと血の気が引くのを感じた。
自分の間抜けさをぶん殴りたくなる。
ショックが大きすぎて動けなかった。
固まるふたりを怪訝に思い、クルーたちがどうしたどうしたと近づいてきた。
そこでようやくユキの身体は動いた。
手で右眼を覆い、脱兎のごとく部屋に逃げ込んだ。
扉を背にして、ずるずるとへたり込む。
とうとう、やってしまった。
ユキは膝を抱えて頭を垂れた。
何も聞かないのなら、その甘さに付け込んで、ずっと黙っていようと思っていたのに。
ここがあまりにも居心地が良いから。
皆があんまりにも優しいから。
気も緩んでしまうではないか。
意地になっているのが馬鹿らしいと思うではないか。
こんなあたしに声をかけてくれる。
こんなあたしを気にかけてくれる。
その優しさが、痛い。
その優しさが、苦しい。
言ってしまえば楽になるだろうか。
だが、ユキには鉄の掟がある。
──人間を信じるな──
誰よりも尊敬する、父の言葉だ。
そして、父の言葉はいつでも正しいのだ。
「どうしてこうなったかな……」
相反する気持ちを抱えて、ユキは強く膝を抱き直した。
◆
どれくらいそうしていたのか分からない。
控えめなノックの音でユキは顔を上げた。
「ユキ、そろそろ晩メシだぞ」
いつもと同じ調子に、ユキは気づいた。
あの瞳を見たのはシャンクスだけ。
彼は、何もなかったことにしてくれようとしている。
もうこれ以上黙っておくことは耐えられなかった。
心が潰れてしまいそうだった。
父さん、ごめん。
あたしもう一度だけ掟を破るね。
シャンクスたちを信じたいんだ。
薄く扉を開けて、目の前に立つシャンクスの瞳をしっかりと見つめた。
「聞いて……ほしい」
ほかの誰よりも先に、あんたに。