信じる覚悟
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ユキがレッド・フォース号にやって来てから二週間が経とうとしていた。
その日は朝から、泣き出しそうな曇り空。
だが、底抜けに明るい赤髪海賊団一同には全く関係ないことである。
「ユキ! どっちが一番的に当てられるか競争しようぜ! 負けたら罰ゲームな」
ヤソップがパチンコをくるくると回しながら言う。
「嫌だよ。ヤソップが勝つに決まってるじゃん」
口調から毒気が抜けるくらいには、ユキも赤髪海賊団に馴染んでいた。
ちぇ、と口を尖らせたヤソップだが、何かを思い出して腰に提げた麻袋を探った。
「ほら、これやるよ」
と、投げて寄越したのは、革製のホルスター。
「何これ?」
「それに拳銃入れるんだよ。お頭から貰ったろ?」
ああ、とユキはサイドテーブルに投げ出したままのそれを思い返した。
まさか手に持って歩くわけにもいかないので、放置していたのだ。
「ありがと」
後で付けようと思い、ポケットに押し込んだ。
他にする事もないので、ヤソップがひとりで的当てをするのを横で眺めていると、
「おーい、そこのお二人さん」
シャンクスが釣り道具を手にやって来た。
「誰が一番釣れるか競争しないか?」
それならばユキも多少は自信がある。
かつて父との無人島生活のときに身につけたのだ。
ユキとヤソップは声を揃えて言った。
「望むところだ!」
ヒュン、と釣り糸を投げて魚が餌に食らいつくのをじっと待つ。
のどかな時間が流れていたのだが、
「言い忘れてたけど、もちろん負けたら罰ゲームだからな」
というシャンクスの言葉で一気に戦場と化した。
◆
「ぶわっはっはっは!!!! ユキ、お前天才だな!!」
シャンクスの笑い声が船中に響く。
周りのクルーたちも腹を抱えて笑っている。
これは、魚釣り競争に負けたヤソップの罰ゲームの結果である。
その罰ゲームというのが、
“顔に落書き”
だったのだ。
落書きを任されたユキは意気揚々とペンのキャップを外し、そうして出来上がったヤソップの顔とは……、
極太の眉毛は八の字になっていて、頬はぐるぐるとうずまき模様が。
おデコにはでかでかと“YASOPU”と綴り間違いで名前が書かれていて、片方の目の周りだけが黒く塗られている。それが殴られた痕のように見えて、さらに笑いを引き起こす。
顔だけでは飽き足らず、ユキは腕にまで書いた。
“惚れるとヤケドするぜ”
と。
「ひゃーッ、ダッセェ!!!!!」
「最高のセンスだな!」
「でしょ」
会心の作にユキもご満悦だ。
「顔以外はルール違反だろ!」
ヤソップの怒りはシャンクスに一蹴される。
「面白いからいいよ。あと、ヤソプは今日一日そのままな。消すのは勿体無い」
「おれはヤソップだっつーの! ユキ! 覚えてろよ!」
「大丈夫。すごい似合ってるよ」
そう言うユキの声も心なしか震えている。
「おい、めちゃくちゃ笑い堪えてんじゃねぇか」
ヤソップは睨みをきかせてくるが、その顔では何も怖くない。
「楽しいなぁ」
気づかぬうちにユキは呟いていた。
こんなに楽しい時間はいつぶりだろうか。
少なくとも、森の奥で暮らしていたころでは有り得なかったことだ。
この時のための辛い日々だったのなら、感謝しても良いと、本気で思った。