ひとりぼっちのドラゴン
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
むかしむかしあるところに、いっぴきのドラゴンがいました。
ドラゴンはからだが大きく、力も強いので、だれも近づこうとはしません。
だから、ドラゴンはいつもひとりぼっちでした。
そんなある日、森で泣いている女の子を見つけました。
心配になって声をかけます。
「もしもし、だいじょうぶかい?」
女の子は泣きじゃくりながら答えます。
「いたいー! いたいよぅ!」
見れば、女の子のひざがすりむけて血がにじんでいます。
その痛ましいキズにドラゴンがほろりとなみだを流しました。
そのしずくが女の子のひざに落ちると、みるみるうちにキズが治っていきました。
ドラゴンのなみだにはキズをいやす力があったのです。
女の子はおどろいて目を丸くします。
「すごいすごい! ドラゴンさん、ありがとう!」
女の子は笑顔で手をふりながら森を出ていきました。
ところが、このことを知った大人たちがドラゴンをつかまえようとしました。
人間に傷つけられたドラゴンはそれ以来、世界からすがたを消してしまったのです───
◆
ユキは読んでいた本を閉じて大きく伸びをした。
時計を見ると時刻は午前11時。
そろそろ買い物に行こうかと立ち上がった。
ユキは森の奥にある小屋で一人、ひっそりと暮らしていた。
近くには小川がサラサラと流れていて、朝は小鳥のさえずりで目が覚める。
なんとも童話ような暮らしだ。
森を出ると石畳の道が続いていて、辺りは一変して賑やかになる。
だが、この日、町はいつもと様子が違った。
いつもは周りの迷惑も何のそのに外で走り回る子どもたちを、ほとんど見かけない。
いつもは大きな声でぺちゃくちゃとお喋りするおばさんたちが、息を潜めるように会話をする。
いつもは市場で声を張り上げる商人たちは、仕入れた品をいじるばかり。
活気を全く感じられないのだ。
今日は安売りをしているはずの港市はどうなっているのだろうか。
港に向かうと、ユキは直ぐに全てを悟った。
港に何隻もの、装甲に覆われた軍艦が停泊していた。
この小さな島に海軍がやって来ることは滅多にない。
だからこそ町の人々は怯えているのだ。
この島で何か悪いことが起こっているのだろうか、と。
そしてユキは、何が目的で海軍がこの島にやって来たのか、よく知っていた。
まさか、もう居場所がばれたのか。
急いで来た道を引き返す。
ザワザワと擦れる葉の音が不穏な空気を醸し出す。
鬱蒼と生い茂る森の中を駆け抜けて小屋に戻ると、そこは既に海兵たちに包囲されていた。
いつの間に……!
偶然買い物に出ていたのは不幸中の幸いか。
海兵の一人が銃を構えたまま、乱暴にドアを開けた。
もちろん、ユキは中にいないのだが、海兵は念のため部屋の中を調べ始める。
このうちにどこかに身を隠さなくては。
しばらくすれば諦めて他へ搜索に当たるだろう。
そうしたら荷物をまとめて出ていけばいいのだ。
そう思っていたのだが、海兵がキャビネットの上に置いてある写真立てに手を伸ばすのが見えた。
やめろ……!
身体の奥底からぞわりと熱いものが込み上げてくる。
その手で、その汚い手で、
「その写真に触るな!!!!」
ユキの頬の皮膚がパキパキと爬虫類のようなウロコに変わる。
と、同時に、左腕が巨大な恐竜の前足に変化した。
「出たぞ! 赤竜だ!!」
飛んでくる弾丸を鉤爪で切り裂く。
そして、大きく口を開け、炎のブレスで海兵を一掃した。
ひったくるように写真立てを取ると、ユキは一目散に駆け出した。
走りにくいので腕は元に戻す。
「あっちだ!」
「絶対に捕まえろ!!」
「逃がすな!!!」
「撃てーー!!!!」
鉛玉が脇を掠めていく。
次から次へと湧いて来る海兵を避けるうちに、崖に追い詰められてしまった。
前には切り立った岩。後ろには憎き海兵。
どちらを取るか、答えは簡単だ。
頑丈さには自信がある。
ユキは迷わず崖から飛び降りた。
お前たちなんかに捕まるもんか。
ただ、海兵たちの悔しそうな声が風で聞こえないのが残念だ。
ユキはぎゅっと写真立てを握りしめた。
1/1ページ