第30話 6通りのスイートタイム
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼のことを考えながら歩くうちに、自然と足が部屋の前へとたどり着いた。
中からはたぶん煙草の匂いと、ペンが紙を走るような小さな音が漏れていた。
きっと何か、真面目に作業してるんだろう。
凛は包みを胸に抱えたまま静かに襖の前に立った。
少し前までのドキドキがまだ完全に引いていない。
けれど、扉の向こうにいる“彼”のことを考えると、また別の緊張感が喉の奥に込み上げてきた。
トシさん……今、忙しくないかな
いつものあの鋭い目つきと、無駄話を嫌うクールな雰囲気だが、自分に向けられるときだけは不思議と柔らかい感じがした。
“彼だけが見せてくれる顔”を知っているからこそ、怖いようで嬉しいこの感情。
「……よし」
小さく呟いてノックをしようとしたそのとき——
土「……入っていいぞ」
中から土方の低く落ち着いた声が響いた。
「えっ、聞こえてたの?」
土「凛の足音くらい、わかるに決まってんだろ
気配でな」
くすっと笑いながら扉を開けると、机に肘をつきながらタバコを咥え、こっちを見上げる土方がいた。
少し煙の匂いが漂ってくるその部屋の中には、彼の存在感がしっかりと根を張っていて——でも凛が入るとそれが少しだけ優しい空気に変わった。
「お邪魔しまーす」
土「あぁ」
彼は立ち上がると彼女のすぐそばに歩み寄り、自然な手つきで彼女の肩のあたりにふわりと手を添えた。
土「ったく、また誰かにからかわれて泣いてんじゃねぇかと思ったぜ」
「……泣いてないよっ∪」
土「耳まで真っ赤になってたら、そりゃ誰でもわかるっての」
「〜〜〜っ////」
彼の指がそっと耳たぶに触れかけ、凛は勢いよく一歩引いて目を逸らした。
その仕草を見て土方はふっと口の端を持ち上げた。
土「冗談だ……で、なんか用か?」
「あ、うん……」
気を取り直して凛は胸元に抱えていた包みを彼に差し出す。
「はい、これ
いつもありがとって気持ちで作ったチョコ
トシさんの分もちゃんとあるよ!」
土方は一瞬まばたきをしてから、ゆっくりとその包みを受け取った。
土「……俺のために?」
「うん♪
好み分からなかったから甘さは控えめにしてみた」
包みを見つめる彼の目が、ふっと細くなる。
土「……お前さ、こういうのずるいんだよ」
「え?」
土「何でもねぇ顔して、こういうの渡してくるとこ
わかってねぇだろ……どれだけ嬉しいか/////」
「トシさん……?」
その声があまりに優しくて、ちょっと切なくて、凛は自然と胸の奥がじんわり温かくなる。
土方は視線を外しながら、照れ隠しのように煙草の火を灰皿で消しぽつりと呟く。
土「バカみてぇに嬉しいから、ニヤけんの我慢するの大変なんだよ……俺、今/////」
「……っ////」
土「ったく……」
そう言って彼は彼女の頭にそっと手を乗せ、髪を優しく撫でた。
「ありがとな
……凛が俺の傍にいてくれるだけでいつも救われてんだ」
その言葉は彼女の心に真っすぐ降りてきた。
鋭くて不器用で、でも誰よりも真っ直ぐな“土方”の暖かくて優しい本音———。
土「なぁ凛」
「ん?」
土「……今すぐってわけじゃねぇけどさ」
彼は視線を合わせないまま、包みを胸に抱えながらぽつりと続けた。
土「そのうち……お前から“俺だけに”くれるチョコも期待していいか?」
「……////」
土「その時は、ちゃんと覚悟しとけよ
俺甘ぇのは苦手だけど、凛のだけは……たぶん何個でも食える」
言い終えると彼は彼女の頭をもう一度撫でて、そっとその手を離した。
ほんの一瞬のぬくもりに、凛は何も言えなくなって、ただ静かに頷いた。
土方の部屋をあとにした凛は、静かな廊下に一歩を踏み出す。
扉が“ピシャン”と閉まったその音がどこか名残惜しく響いた。
……やっぱり、トシさんって優しい
誰よりも不器用で言葉にしてくれるのはほんの少しだけ。
でもその一言一言がとてもまっすぐで、心に染みていく。
だからこそ、あの「俺だけにくれるチョコ」という言葉が、胸の奥に静かに灯る。
心のどこかが、ほんのり熱い。
だけどその熱を包み隠すように、凛はふぅっと息を吐いて足元に視線を落とした。
彼女の手元には最後のひとつとなったラッピングされた小さな包み。
この朝から、いや昨晩の仕込みからずっと、どの瞬間も緊張して、ドキドキして、時には照れて、泣きそうにもなって……
私って———ほんとズルい奴
.
