一年生秋編 交換留学生が来る秋、イワンのいない秋。

 イワンとアラセリスさんの婚姻届を提出して、わたしはその足でラウレール領に滞在している両親のもとを訪ねた。

 屋敷に出向いてもらうのも手だが、見た目が若い二人がわたしの両親だと言っても、信じてもらえない。
 イワン相手にすら怯える使用人がいるから、得策ではない。

 魔族とつがい・・・とはそういうものだと、時間をかけてわかってもらうしかないのだ。

 父上と母上は、王族が住むにはあまりにも小さな借家で暮らしている。
 数年おきに住まいを変えるから、借家のほうが都合がいいとは母上談。

 見た目の若い二人が十年経っても老いないことを、人間は不気味だと捉えるから。

 本人が楽しんでいるなら構わないのだが、わたしとしてはひとところに長くいられないという現実が切なくなる。



「アラセリスさんが正式にイワンのところに嫁入りしてくれたけれど、これからが大変だろう。庶民だったからマナーを一から学ばないといけない」

 母上はハーブティーに口をつけて言う。

「そうね。貴族社会のイロハは、ワタクシがセリスちゃんに教えましょう。魔法学院に通っている生徒だけが貴族の子女というわけではありませんから、そういう子たちとの関わりも増えていくことでしょうし。ワタクシのことは外部から招いた講師、という体で構わないから」

 家族なのに外部講師と教え子、なんて。
 言ってもどうにもならないけれど、やはり悔しくなる。

「エルネスト。そういう顔をするな。少しでも魔族と人間の理解を深めるために、あの子たちはセシリオ殿下に交換留学を望んでくれたのだろう。なら、あと十年もしたら俺たちが家族として屋敷を訪問することもできるかもしれないだろう」
「父上……」
「お前が俺たちを恐れないのは家族だからだ。使用人たちのほうが、むしろ一般的な人間の反応。人間は老いる者、魔族は老いない者。この差を理解できるようになるには時間がかかる」

 そう。そもそも、根本的に互いの常識が違う。
 食事だって、魔族の多くは魔力だったり光だったり、人間が口にする食べ物とはかなり異なる。

「ワタクシは期待しているわ。イワンとセリスちゃんなら、魔族と人が共に生きられるルシールを作ってくれるように思うの。いつかひ孫が生まれたら、その子たちが偏見に怯えず生きていけるような、そんな国になるように思うの」

 わたしよりずっと長く世界を見てきているからか、父上と母上の顔に憂いはない。

「父親だろう。胸を張ってイワンとアラセリスの背中を押せ。転んでも立ち上がれるよう盾になれ。権力はそのためにあるんだ」
「そうですね。憂いてばかりではいけない。わたしが後ろ盾にならなければ、他の誰があの子たちを守れるというんだ」

 魔族と人が分かり合える国を作りたい。それがイワンたちの望みなら、反対派が現れても守りぬこう。

 新しい時代が根付いたなら、いつか父上と母上も、転々とせずひとところで落ち着いて暮らせるようになるかもしれない。
 そういう未来が訪れることを、わたしも心から願っている。




秋の章END 冬の章に続く
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