一年生秋編 交換留学生が来る秋、イワンのいない秋。

 気がつくと私は、見知らぬ街に立っていました。
 空には虹色の雲がかかっていて、レンガ造りの街はなんだか不思議な雰囲気。
 目線よりやや上を、ウィルオウィスプがいくつかふわふわと飛んでいます。

「アラセリス」

 イワンが空から降りてきました。

「ここは?」
「アウグストの城下町だ。ここから西に行くと魔術学園がある」
「そうなんですね。ここが、アウグスト」

 夢の中でならどこでも行けるって、言ってましたものね。
 まさかこんな形で連れてきてもらえるなんて思いませんでした。
 夢だから人はいませんが、現実ならいろんな種族の人が行き交っているんですね。
 写真で見せてもらった町並みのように、たくさん人がいるんですね。

 街の作りもルシールとはまるで違っています。
 人間じゃ通れなさそうな小さな扉があったり、逆にすごく大きな家があったり。
 大人の身長が五十センチに満たない小人族、子どもでも背丈三メートルの巨人族もいるんだそうです。
 会ってみたいですね。 

「他の場所も見てみるか?」
「わぁ。いいんですか!? お願いします!」

 差し伸べられた手を取ると、イワンは私を抱き上げて空に舞い上がります。

 虹色の雲がかかる青空をかける。
 泣きたくなるくらいにきれいで、胸が踊ります。
 私たちの横を、白銀の鷲《わし》や真っ青な長い尾を持つ鳥が飛んでいきます。

「すごいです。きれいです! これがアウグストなんですね。こんなにきれいな空と鳥は初めて見ました!」

 陽光を浴びてキラキラと輝く鳥たち、感激です。
 夢の中の幻でなく、いつか本物を見に行きたいです。

「白銀の鷲はフレスベルグ。風を象徴する幻獣だ」
「フレスベルグっていうんですね。なんてきれいなんでしょう」

 夢の中だから、誰にも気兼ねしないで旅を楽しめます。

 お城の周辺を飛んで、次は高台の上に立つお屋敷が視界に入りました。

「ここが、オレの滞在しているところ。昔、祖父さんが暮らしていたところだ」
「すごい。街があんなに遠い。こんな高いところに家が建つんですね」

 お屋敷のテラスに降り立ちました。
 麓が霞んで見えます。
 こんな高い山の上に来たことなんてありません。

 有翼の種族はだいたい高台の上だったり塔だったり、屋上から入れるようになっているんだそうです。
 文化の違いを感じますね。


「いつかルシールも、いろんな種族の人が過ごせるといいですね」
「そうだな」

 手を繋いでキスをして、誓います。
 夢でなく、現実に二人でここに来れるように。
 国際交流がうまく行きますように。



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