一年生秋編 交換留学生が来る秋、イワンのいない秋。

 学院祭の片付けも終わり、帰路につきます。
 馬車を呼べば早いけれど、一分でも長く一緒にいたいから歩きます。
 夕焼けの帰り道、伸びた影を追いかけます。

「二週間後のテスト、勉強は順調か?」
「大丈夫! 今回こそ首席を取りますよ! だから次にイワンが帰ってきたら、ふたりで星空、見に行きましょうね!」

 手を繋いでぶんぶん振ります。魔力を送れるし手をつなぐの楽しいし、一石二鳥です。

「学院祭であれだけはしゃぎまわったのに、元気だな」
「そりゃそうですよ。イワンが一緒なんですもの!」
「……恥ずかしいやつ」

 そっぽを向くイワン。照れてるんですね。わかります。夕焼けのせいだけでなく、顔が赤くなっています。

「イワンってオレサマで押しが強いわりに、押される方になると弱いですね。かわいいですね」
「人前で何を言う」

 イワンがあちらに戻るまであと二日。
 二日しかありません。時間がもっとほしいです。
 もうすぐ家についてしまいます。

 うちがもっと遠かったらいいのに。
 歩調がいつもより遅くなります。

「イワン。明日は学校がお休みです」
「そうだな。……お前の家族が許可するなら、うちに泊まりに来るか?」
「行きます!」
 
 イワンのお宅。お父様へのご挨拶で一度行ったきりです。また行けるんですね。

「本当に、お前は思ったことがすぐ顔に出るよな」

 頭をぽんと撫でられます。イワンの手のひら、温かいです。

 お母さんとレネはちょっと驚いたものの、一ヶ月ぶりに会えるのだからと送り出してくれました。

 イワンがしーちゃんを使いとして飛ばして、ラウレール邸までの道のりもまたゆっくり歩きます。
 日が暮れる頃お屋敷につきました。

 門をくぐるとすぐに薔薇の庭園。
 夜はあまり花が見えないですね。けれど薔薇特有の上品な甘い香りが鼻孔をくすぐります。
 
「ふふふ。いい香りですね。落ち着きます」
「お前は本当に花が好きだな」
 
 庭園を抜けて玄関の前で、お父様が待っていました。

「おかえりイワン、アラセリスさん」
「今帰った」
「こんばんは、お父様」

 お父様の肩にとまっていたしーちゃんがパタパタとイワンの肩に飛んできました。右に左にチョコチョコ飛び移って楽しそうです。
 しーちゃんは本当にイワンのこと大好きですね。

 中に通されて、ダイニングでお父様とお食事をとることになりました。

 お皿の上にナプキン。
 まわりにナイフとフォークがたくさんですね……。どれから使うんですか。
 貴族的お食事のマナーなどわからないので、運ばれてきたものをどうやって食べようか考えてしまいます。

 お父様がナプキンをとり膝に広げます。イワンに、二つ折りで膝に乗せろと言われ広げます。

 カブのソテーが目の前に運ばれてきて、お父様が一番外側のナイフとフォークを取ります。

「わたしが食べるのを見て、真似てみなさい」
「はい」

 お父様は音を立てないよう、ゆっくりとフォークを刺してお料理を口に運びます。 
 私も見様見真似でナイフとフォークを持ちます。

 そっと口に運ぶと、とても柔らかくて美味しいです。ナッツのオイルと酢のソースも相性抜群。
 きのこスープとパン、秋魚の煮込み、ルシールりんごのソルベ、海ヒツジのステーキ、そしてデザートはムースケーキ。
 最後に紅茶をいただいて、とても美味しいです。緊張のあまり背筋がカチコチになってますよ。

 お食事のあとリビングでイワンの子ども時代の話をききました。お父様が嬉嬉として話し、イワンはやめろと怒る。面白いですね。

 坊っちゃんと呼ばれていた頃の写真もたくさん。可愛いので一枚もらいました。

 夜もだいぶ遅くなってきて、用意してもらった客間でおやすみです。
 実家の私室の五倍はある広いお部屋。
 ベッドも大きくてふかふか。すごいです。
 合宿やラウレール領に行ったときと同じですね。
 目が覚めたらすぐイワンに会える。
 嬉しくて、楽しみで、胸が踊ります。

 学院祭で疲れたからか、ベッドにもぐりこんですぐ、眠りに落ちました。


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