一年生秋編 交換留学生が来る秋、イワンのいない秋。

 本日は土の日。学校はお休みです。

 カーテンと窓を開けると、雫がひとつふたつ吹き込んできます。
 窓の外にあるプランターの花が、雨を浴びて頭をたれる。
 この分だと、屋外イベントのクラスは練習できないですね。

 頬に当たる風もほんのり冷たくて、冬が近づいているのを肌で感じます。

「うん。生徒会のお仕事は午後からですし、勉強しましょう」

 学院祭が終わるとすぐに定期テストですからね。
 教本を広げて、次のテスト範囲を確認します。

『勤勉だな』

 窓からしーちゃんが入ってきました。
 足に小さな包が結んであります。
 雨の中飛んできたから、雨水が滴っています。タオルで丁寧に水気をふきとりながら、しーちゃんを通してイワンに話しかけます。

「そちらはどうですか?」
『本来の姿を隠さなくていいから楽だな。人に化けるのは地味に魔力を消費するから。翼を持っているやつ、角が生えているやつがいて当たり前の国。祖父さんから聞いてはいたが、こうも違うなんて』

 イワンの声音は楽しげで、そして感慨深そうです。

「ヴォルフラムくんは逆のことを言っていました。人間ばかりで驚いたって」
『この環境からルシールに行ったら、そう感じるのも無理はないな』

 イワンが留学を楽しんでいるのはとても喜ばしいです。けれど、なんだか寂しくもあります。

『今回は土産を持たせた。使い魔の足に結んであるものを取れ』
「これですか?」

 革紐で結ばれていた小筒をほどきます。濡れないよう耐水革が巻かれていて、その中から、数枚の写真が出てきました。

「わぁ……!!」

 虹色の雲がかかったお城の写真、そして城下町の写真です。二足歩行のうさぎさんや、鳥のような羽毛の翼を持つ人もいます。

「いろんな種族の人で一つの街ができているんですね。素敵です! このお城にかかる雲は魔法なんですか?」
『お前ならそう言ってくれると思った』

 どこかホッとしたように息を吐いて、イワンは続けます。

『その雲には外敵を感知する魔法がかかっている。人間の国なら騎士が城を守るが、アウグストは魔法士たちが作った障壁で敵の侵襲を防ぐんだ』
「さすが魔法大国です。写真でこんなにきれいなら、本物はもっとすごいんですよね。いつか自分の目で見てみたいです」

 そんな感想を言ったら、イワンが笑い声をあげます。

『ははは。そうだな。いつか今よりも国交が盛んになったら、自由に旅行できるだろう。そのときは連れてきてやる』
「楽しみです」

 しーちゃんが机の、広げていたノートに飛び乗りました。

「そうだ、せっかくだから勉強を教えてください。次の範囲はここまでなんです」

 先生から渡された試験範囲表を見せます。

『この教師は春の試験範囲内で出さなかった問題も入れてくるから、気をつけろ。「魔法大系の四大元素に含まれないものは何か。四大元素以外の魔法の例をあげろ」、とかな』
「火、水、風、地……以外。聖と、闇ですよね。治癒魔法、それとイワンが大会で使った障壁魔法」
『いい子だ。よく勉強しているな』

 目の前にいたら頭を撫でられてますね。
 しばらくそうして試験範囲をおさらいして、イワンがふと聞いてきました。

『そういえば留学生の問題は解決したのか?』
「ええ。セシリオ様もミーナ様に協力してくれて、きちんとわかってくれました」
『それなら良かった』

 説明に手間取りましたが、もう無理に追いかけないって言ってくれました。一安心です。

『もうひとつ。学院祭の準備は順調か? 生徒会も何かやらないといけなかったはずだろう』
「はうっ!」

 一番聞いてほしくない話題がきました。
 ここで答えなかったところで、当日バレちゃうんですよね。

「……う、歌です。ステージでミーナ様やセシリオ様が楽器を演奏して、私が歌うんです。いいだしっぺがやらないといけないんです」

 セシリオ様が学院に申請してしまったので、後戻りできません。

『それはぜひとも写真に収めないとな。祖父さんと祖母さんのところにも送ろう』
「やめてくださいいいぃ〜」

 お母さんとレネも学院祭を見に来るって言ってるし、恥ずかしすぎます。
 逃げる場所がほしいと心の底から思いました。 


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