一年生秋編 交換留学生が来る秋、イワンのいない秋。

 翌日の放課後から、学院祭準備が始まりました。

 クララさんとローレンツくんも、手伝いの人員として加わってくれています。
 と言っても、ローレンツくんの仕事はもっぱら暴走するヴォルフラムくんの阻止になっています。

「ギジェルミーナ、僕が手伝うヨー」
「間にっていますわ」
「ヴォルフ! こっちの手が足りないんだからこっちに来い」
「ぁあーれー」

 ローレンツくん、ミーナ様に振られたヴォルフラムくんを引っ張ってきました。

 私とクララさんは各クラスから提出された希望する出典場所がかぶっていないか、などのチェックをしています。
 学院から貸し出せる備品には限りがありますから、備品の一覧ともにらめっこです。

「二年のAクラスと一年のBクラス、どちらも校庭利用の希望で重なっているわ。時間をずらすか半分ずつ使うか、双方で話し合ってもらわないといけなさそう」

 クララさんが希望申請書から二枚抜き出します。

「なら俺が掛け合ってくる。きっと教室で練習中だろ。行くぞヴォルフ」
「お願いね」

 ローレンツくんは申請書を受け取ると二つ返事で生徒会室を出ていきました。

 ヴォルフラムくんを連れて行くのはミーナ様のためであり、きっとヴォルフラムくんを早く他の生徒と馴染めるようにするためです。
 面倒みがいいというか、情に厚いですね。

「クララさんとローレンツくんは息がピッタリですね。魔法大会のときもペアを組んでいましたし」
「そうかしら。明るくて話しやすいのは確かだけど」

 あんまりピンとこないんでしょうか。首を傾げるクララさん、照れる様子はありません。

「会長、生徒会の出し物はどうする。そちらも先生から頼まれていただろう。手間のかかるものはできないと思うが」

 セシリオ様が書類から顔を上げて、向かいに座るミーナ様に聞きます。
 ミーナ様はちらりと私を見ました。
 ん? 私も案を出したほうがいいですか。

「中等学校のときは歌のステージが盛り上がっていましたよ。講堂で、立候補した生徒が楽器を演奏して歌を歌うんです」
「へぇ。オペラ演劇で、演じずに歌だけで公演するようなものかな?」
「すみません。私はオペラを観たことがないので、そうだとも違いますとも言えません……」

 さすがに庶民の学校でやっている企画だと、貴族の皆様は馴染みないですよね。
 セシリオ様は想像しかねているようす。
 ミーナ様が補足説明してくれます。

「劇団の歌よりは大衆向けでしてよ。学生間や、市井で流行りの歌を歌っているはずですから」
「そうか。貴族に馴染みがない分、目新しくていいかもしないね。今年はその企画にしてみようか」

 セシリオ様が乗り気です。ミーナ様もうんうんとうなずいて、私の肩を叩きます。

「いい、セリスさん。わたくしの辞書には、『いいだしっぺの法則』というものがあるの。案を出した貴女が歌うべきよ」
「……え、ぇえええええ!? 私がですか!?」

 自分が歌いたくて提案したわけじゃないんですが、そんな、まさか。
 全校生徒の前で歌うんですか。私。

「わたくしとセシリオは貴族のたしなみとして一通り楽器演奏ができますから、音楽はまかせなさい」
「あうううぅ、待ってください、待ってください」
「わたし、フルートならできます。アラセリスさん、がんばりましょうね」

 クララさんも演奏担当として後援してくれるようです。逃げ場がないじゃないですか。

 このあと、打ち合わせから帰ってきたローレンツくんが「打楽器なら任せろ」なんて言い出すし、ヴォルフラムくんは「タカミノケンブツするよ」って笑うし。


 学院祭、生徒会の企画はぷちコンサート(ボーカルは私)に決定してしまいました。ぐすん。



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