一年生夏編 恋人と過ごす夏
目覚めたら、イワンはまだ寝ていました。寝顔があどけなくてなんか可愛いです。
じっと見ていたら、気配を察したらしいイワンにデコピンされました。
ディアナちゃんが「朝食はカフェテリアで食べましょう」と誘ってくれました。
茂みから野生のうさぎが飛び出してきたり、カルガモの親子が川から上がってきたり。
「自然がたくさんで楽しいですね〜! あ! あっちにヒマワリ畑が!」
「ここは王都のような遊び場や商店はあまりないけれど、自然豊かなことが自慢なの。喜んでくれて嬉しいわ」
カフェでは店主のおじいさんが話しかけてきます。
「ディアナちゃんが旦那さん以外の人と来るなんて初めてだね。お友だちかい?」
「いいえ、ランの親戚が今度結婚することになってね、王都から連れてきてくれたの。可愛いでしょう?」
「はじめまして。アラセリスです」
見た目の問題で孫とお嫁さんなんて言っても信じてもらえないので、親戚ということになりました。
親戚でも嘘ではないですものね。
「そうかい。アラセリスちゃん、うちの料理はどれも地元の食材を使っているからオススメだよ」
「じゃあ、日替わりパスタが食べたいです」
「はいよ。アラセリスちゃん、これを食べたら絶対ラウレール領に住みたくなっちまうぜ。領主様がお優しいから住みやすいし」
「えへへ。なら学院を卒業したらこの町に住もうかな」
「大歓迎だ」
店主さんがオススメするだけあって、とっても美味しかったです。
家に戻ると、イワンとランヴァルドさんがチェスをしていました。
クララさんに教えてもらったので、私もルールだけならわかります。
「チェック」
「……参った」
勝者はイワン。ランヴァルドさんは負けてもなんだか嬉しそう。
ディアナちゃんが私の背中を叩きます。
「セリスちゃんもやってみる?」
「私、ルールを知っているだけで対局したことないですよ」
「手加減してやるから一戦やろうか」
イワンは余裕の顔であおってきます。
「て、手加減なんて要りません!」
「後悔するなよ」
ランヴァルドさんと場所を代わってもらって、いざ勝負。
……負けました。かと言って手加減されて勝っても嬉しくないし。
悔しくてあと二回挑みましたが惨敗でした。
それから幼少期のイワンのアルバムを見せてもらったり、話を聞いたりしているうちに夕方になりました。
ランヴァルドさんが窓の外を見て、イワンに提案します。
「今ちょうどホタルが見頃なんだよ。イワン、アラセリスさんを案内してあげたらどうだ」
「ホタルってなんですか?」
「ホタルは夏から秋頃にだけ現れる、夜に光る虫だ。水がきれいな土地にしか生息しないから、王都暮らしのアラセリスが知らないのも無理はないか」
夜に光る虫、とはどんなものでしょう。
太陽みたいなものでしょうか。それとも月光?
「行ってみるか。祖父さん、生息地は昔とそう変わらないんだろう?」
「ああ。いつものところだ」
話がトントン拍子で進んでいきます。
ディアナちゃんが手持ちのランタンを用意してくれました。
「ホタルの光はとても小さいの。ホタルがいるあたりまで行ったらランタンは消したほうがいいわ」
「わかりました」
外が暗くなってから、イワンに手を引かれて川辺に行きました。
目の前を星のように小さな光が飛んでいく。
ふわり、ふわりと小さな光がともっては消える。
地上に星空があるような……幻想的な光景が目の前に広がります。
息をするのも忘れてしまいそう。
「すごく、すごくきれいですね」
「気に入ったようでよかった」
イワンは微かに笑います。
「ホタルは成虫になってから、二週間くらいしか生きられないんだ。だから見られる時期はすごく限られている」
「そうなんですね」
一ヵ月に満たない命でも、この子達は精一杯生きている。素敵ですね。
「また来年も、その次も、イワンと来たいです」
「そうだな」
来年イワンは三年生。
その次は学院を卒業しています。
残りの一年は、イワンがいない状態で過ごす。
無理な願いではありますが、同じ学年に生まれたかったです。会える機会が減ってしまうのは寂しい。
最初は喧嘩ばかりしていたのに、会えないのを寂しいと思うようになるなんて。
自分の変化に笑ってしまいます。
「約束ですよ」
小指を出して笑うと、イワンも小指を絡めて指切りする。
来年も、その次も、何度でも。
ここで一緒にホタルを見ましょう。
じっと見ていたら、気配を察したらしいイワンにデコピンされました。
ディアナちゃんが「朝食はカフェテリアで食べましょう」と誘ってくれました。
茂みから野生のうさぎが飛び出してきたり、カルガモの親子が川から上がってきたり。
「自然がたくさんで楽しいですね〜! あ! あっちにヒマワリ畑が!」
「ここは王都のような遊び場や商店はあまりないけれど、自然豊かなことが自慢なの。喜んでくれて嬉しいわ」
カフェでは店主のおじいさんが話しかけてきます。
「ディアナちゃんが旦那さん以外の人と来るなんて初めてだね。お友だちかい?」
「いいえ、ランの親戚が今度結婚することになってね、王都から連れてきてくれたの。可愛いでしょう?」
「はじめまして。アラセリスです」
見た目の問題で孫とお嫁さんなんて言っても信じてもらえないので、親戚ということになりました。
親戚でも嘘ではないですものね。
「そうかい。アラセリスちゃん、うちの料理はどれも地元の食材を使っているからオススメだよ」
「じゃあ、日替わりパスタが食べたいです」
「はいよ。アラセリスちゃん、これを食べたら絶対ラウレール領に住みたくなっちまうぜ。領主様がお優しいから住みやすいし」
「えへへ。なら学院を卒業したらこの町に住もうかな」
「大歓迎だ」
店主さんがオススメするだけあって、とっても美味しかったです。
家に戻ると、イワンとランヴァルドさんがチェスをしていました。
クララさんに教えてもらったので、私もルールだけならわかります。
「チェック」
「……参った」
勝者はイワン。ランヴァルドさんは負けてもなんだか嬉しそう。
ディアナちゃんが私の背中を叩きます。
「セリスちゃんもやってみる?」
「私、ルールを知っているだけで対局したことないですよ」
「手加減してやるから一戦やろうか」
イワンは余裕の顔であおってきます。
「て、手加減なんて要りません!」
「後悔するなよ」
ランヴァルドさんと場所を代わってもらって、いざ勝負。
……負けました。かと言って手加減されて勝っても嬉しくないし。
悔しくてあと二回挑みましたが惨敗でした。
それから幼少期のイワンのアルバムを見せてもらったり、話を聞いたりしているうちに夕方になりました。
ランヴァルドさんが窓の外を見て、イワンに提案します。
「今ちょうどホタルが見頃なんだよ。イワン、アラセリスさんを案内してあげたらどうだ」
「ホタルってなんですか?」
「ホタルは夏から秋頃にだけ現れる、夜に光る虫だ。水がきれいな土地にしか生息しないから、王都暮らしのアラセリスが知らないのも無理はないか」
夜に光る虫、とはどんなものでしょう。
太陽みたいなものでしょうか。それとも月光?
「行ってみるか。祖父さん、生息地は昔とそう変わらないんだろう?」
「ああ。いつものところだ」
話がトントン拍子で進んでいきます。
ディアナちゃんが手持ちのランタンを用意してくれました。
「ホタルの光はとても小さいの。ホタルがいるあたりまで行ったらランタンは消したほうがいいわ」
「わかりました」
外が暗くなってから、イワンに手を引かれて川辺に行きました。
目の前を星のように小さな光が飛んでいく。
ふわり、ふわりと小さな光がともっては消える。
地上に星空があるような……幻想的な光景が目の前に広がります。
息をするのも忘れてしまいそう。
「すごく、すごくきれいですね」
「気に入ったようでよかった」
イワンは微かに笑います。
「ホタルは成虫になってから、二週間くらいしか生きられないんだ。だから見られる時期はすごく限られている」
「そうなんですね」
一ヵ月に満たない命でも、この子達は精一杯生きている。素敵ですね。
「また来年も、その次も、イワンと来たいです」
「そうだな」
来年イワンは三年生。
その次は学院を卒業しています。
残りの一年は、イワンがいない状態で過ごす。
無理な願いではありますが、同じ学年に生まれたかったです。会える機会が減ってしまうのは寂しい。
最初は喧嘩ばかりしていたのに、会えないのを寂しいと思うようになるなんて。
自分の変化に笑ってしまいます。
「約束ですよ」
小指を出して笑うと、イワンも小指を絡めて指切りする。
来年も、その次も、何度でも。
ここで一緒にホタルを見ましょう。