一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

「わー! イワン、見てください! 雪の間から湯気が見えます!」
「おい、窓から身を乗り出すな! 危ないだろ!」

 イワンに引っ張られて、馬車のシートに落ち着きます。

「ごめんなさい、初めて見るからつい」
「まったく……危なっかしいやつだな」

 年が明けてすぐ、私たちは冬休みを利用して、ラウレール領に新婚旅行に来ました。
「領地のことも勉強できるしここで新婚旅行するのは一石二鳥だろう」とお父様が発案してくださったのです。

 ラウレール領のテルマス区に山があって、山のふもとには温泉というものが湧いているのです。

 温泉は天然のオフロなんですって。
 窓から見える湯気はその温泉のものらしいです。温泉の影響か、この町の空気は不思議なにおいがします。

「イワンは温泉ってはじめてですか?」
「いや、ガキの頃から何度か連れて来られてるから、初めてではない」
「じゃあ色々教えてくださいね」
「ああ。テルマス区にもお前が好きそうなものがあるから」
「それは楽しみです〜!」


 夏にはホタル、冬は冬で自然の楽しみがある、ラウレール領は素敵なところですね。

 夕方ころ、今回お世話になるお宿に到着しました。
 一階建てで斜角の平らな屋根は、雪がすべり落ちやすいよう設計されているそうです。

 山沿いで王都より雪深いですし、家屋の基本設計も違うんですね。

「若様、奥方様、長旅でお疲れでしょう。食事はお部屋に運びますね」
「ありがとうございます」

 部屋は落ち着いた色味の木製家具で統一されています。私の背よりも幅のある大きな窓からは、空と山々が見えます。
 しかも部屋のすぐそばにプライベート用の温泉が引かれいるので、他のお客さんの目を気にせずいつでも入れる親切仕様。

 山から続いているらしい引き込まれた管から、こんこんとお湯が出ています。

「わー! わー! すごいですねイワン。ほんとうに外にお風呂が湧いてます!」
「お前の反応は見ていて飽きないな」

 幼い頃から見慣れているイワンは淡白なものです。私がはしゃぎすぎなんでしょうか。

「そんな顔するな。オレは無反応すぎてつまらんと親父によく言われるから、足して二で割れば丁度いいんだろうな」
「そういうものですか」

 ラウレール領で採れたお野菜と肉をふんだんに使ったお夕食をいただいて、温泉にゴーです。



 入り口にルールが書いてあったので、説明書きの通り置かれた桶で体を流してからつかりました。

 外気で冷えた体が一気にあたたまります。イオウという成分が含まれているそうで、鉄に似た不思議な匂いがします。
 見上げれば満天の星。
 お風呂に浸かりながら星空を独り占め。なんて贅沢なんでしょう。

「ふぁあ、あったかいです」
「気に入ったようで良かった」

 イワンも体を流して入ってきます。

「ここから見る星もきれいですね」
「そうだろう。王都のような華やかさはないが、オレはここが好きなんだ」
「私も、すごく好きになりました」

 肩を並べて空を見上げて、とっても落ち着きます。イワンの表情はとても穏やかです。
 こうして、新婚旅行初日は穏やかにすぎていきました。



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