一年生春編 運命に翻弄される春

 私はアラセリス。
【乙女ゲームの主人公】という存在らしいです。
 私が結ばれる可能性がある相手は三人。

 第一王子セシリオ様
 魔法士団長の息子ローレンツ様
 宰相の息子イワン様
 さらに隠された恋人候補もいると聞きました。

 なぜこのようなことを知っているのかと言いますと、目の前にいらっしゃる公爵令嬢、ギジェルミーナ様が教えてくださったからです。


 ことの始まりは今朝です。
 ルシール王国にある国立アルコン魔法学院の入学式にて。
 生徒会長挨拶で壇上にあがったギジェルミーナ様が、突然不思議なことを言い出したのです。

「え、嘘? もしかしてここ『魔法樹の下で恋をする』通称まほしたの世界? ギジェルミーナって、アタシ、ライバルキャラ!? 異世界転生でもこのゲームだけはないわー! 一歩間違うと死んじゃうじゃない!」

 ……ん、んんん? ええと、まほした? 転生?

 生徒会長ギジェルミーナ様と言えば魔法学院三年生、文武両道で気品あふれる才女。と聞き及んでいました。
 今壇上で百面相している方がギジェルミーナ様……で合っていますよね。

 ギジェルミーナ様はしばらく独り言を言ったあと、魔法拡声器を掴み、大音量で叫びました。

「この中に! 主人公アラセリスは、いますか!!!!」



 こうして庶民の私が、「お医者様はいますか!」レベルの切羽詰まった様子で呼び出されて今に至ります。

 人払いがされた生徒会室には、ギジェルミーナ様と私の二人だけ。
 黒板に文字をびっしり書き込んで説明してくださいます。

「ーーというわけで、アタシはただのゲーム好きな社畜OLなの。漢字では美しく生きると書いて美生みな
「おおえる……? よくわかりませんが、それでギジェルミーナ様は」
「ミーナと呼んで。敬語も要らないわ。前世のアタシは庶民だもの」

 指摘されて言い直します。

「ミーナ様が言うことが正しいなら、私はお三方のどなたかと恋仲になるんですね。けど、私は庶民です。本当にそんな偉いお方と出会うんですか」
「ええそうよ。貴女はアラセリス十五歳。魔法の力を見出されて奨学生として魔法学院に編入してきた。母親、従弟との三人暮らし。いつも悩みがあると従弟のレネに相談しているでしょう? どこか違っている?」
「合ってます」
 
 私のような庶民を欺いても、得することなんてありません。
 それにミーナ様の目は、嘘を言っている人の目ではありません。だから、ミーナ様の言葉を信じることにしました。

「セシリオと好感度が上がると、中庭にある東屋で●●●されるわ。彼のルートは純愛ルート含めすべて監禁有り」
「え、あの。伏せ字が」
「恋人になって以降、セシリオ以外の男と会話をするたび、わからせてやると言って押し倒される」
「わかりたくないです」

 生徒会副会長がそんな人だったとは。入学式の挨拶では優しそうに見えたのに。

「次にローレンツ。あなたをからかって意地悪するの。他の攻略キャラと好感度が同じ場合ヤンデレルートに突入、俺を選ばないと死ぬって言い出すの」
「怖いです」

 ミーナ様は黒板を消し消し、三人目の情報を書き込みます。

「宰相の息子イワン。物腰柔らかなふりをしているけれど、腹黒い。魅力術と忘却術が得意だから、心を強く持たないと、記憶を消されていいように使われるわ」
「あのー。その三人しかいないんですか、私が恋する相手」

 三人ともどこか病んでいるのはなぜですか。

「まほしたは攻略対象が少ない分、イベントが多いのが売りだから。三人それぞれルートは六種ずつ。純愛エンド、調教エンド。バッドエンドだけ四パターンあって、どれも殺されるわ。三人以外のルートは未プレイだからわからないの。ごめんね」
「……私の未来、殺される道が多すぎませんか」

 純愛ルート以外はどう転んでも不幸。誰に需要があるんですか。

「どうしてミーナ様はこんなことを私に教えてくださるのです。ミーナ様が言う未来は私の未来ですよね。ミーナ様が不幸になるわけじゃないのでは」
「貴女が殺される結末は、アタシもその攻略対象に殺されるケースが多いの。だから、貴女を生かすことはアタシを生かすことでもある。全力で手助けをするから、頼りなさい」

 監禁されるなんて御免ですし、ミーナ様を死なせるのも嫌です。
 私は普通の、ありふれた人生を送りたいです。


「わかりました、ミーナ様。私、束縛される未来から逃げ切ります!」

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