願い事がひとつだけ叶う世界で
この世界にはかみさまがいる。
人は一生のうちに一度だけ、願いを叶えてもらえる。
5歳のときであろうと90歳のときであろうと、使うタイミングは自由。
幼い頃に使ってしまう者がいれば、天寿を全うするまで何も願わない者もいる。
かみさまはただただ願いをかなえるだけの存在だ。
今日は仕事に行きたくないな、なんていうなまけ心もお願いにカウントしてしまうので、真に願うことが叶わない者もいる。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
14歳のレオは、気弱で内気だった。
村の少年たちから奴隷のように扱われ、面倒事を押し付けられる。
だから毎日うつうつとした気持ちを抱えていた。
レオはかみさまに心から願った。
「こんなの本当の僕じゃない。僕は、人々を救って尊敬される英雄になりたい」
次の日から、世界に謎の化物がはびこるようになった。
翼を持つ巨大なトカゲ、人を食らう大蜘蛛、角を持つ熊。
レオは、魔物を倒し人を救うために旅立つこととなった。
──────────────
魔物の襲撃で両親を亡くした10歳のアレンは、日に一度、盗んだリンゴを食べるような生活をしていた。
だから願った。
「かみさま、一生使っても使いきれないくらいたくさんのお金とごはんが欲しい」
アレンは貴族に拾われて、養子縁組された。
毎日きれいな服を着て、お腹いっぱいごはんを食べられるようになった。
成長して美しい女と結婚して、誰もが羨むような日々だ。
けれど流行り病には勝てず、夫婦揃って40歳という若さでこの世を去った。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
アルクは今年20歳になる、辺境の領主だ。二年前に父が他界したため、若くして領主になった。
アルクは自分が統治する村に住む18歳の少女、フィリアに恋をしていた。女神と思うような美貌と豊満な肉体を持ち、心根は優しい。アルクから見たらフィリアは自分の妻にふさわしい完璧な女だった。
しかしフィリアには結婚を約束した幼なじみがいる。
アルクは物陰からフィリアを見つめ、かみさまに願った。
「フィリアを俺のものにしたい」
願いが聞き届けられ、フィリアはアルクの屋敷に囚われた。
かみさまはどんな願いでも叶えてくれる。
人間のような善悪の概念などない。ただ願いを叶える存在だ。
アルクはこのためにずっと願いを使わずにとっておいたのだ。
アルクはフィリアを法的にも嫁にするために、結婚式を盛大に挙げることに決めた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
フィリアは自分の心に反して、アルクに囚われた。
けれどどんなに願おうと、フィリアはここから出ることが叶わない。
かみさまが願いを叶えてくれるのは一生に一度だけだからだ。
フィリアの願いは二年前にもう使われていた。
幼なじみのハルトが死に至る病にかかってしまったときに願った。
「かみさま、どうかハルトを健康にしてください。どんな病にも打ち勝つ健康な体にしてください」
ハルトを助けたことを後悔していない。
けれど、フィリアはただの村娘。この絶望的な状態から抜け出す力を持っていなかった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
フィリアの幼なじみ、ハルトはフィリアが囚われたことに憤った。
自分のためにかみさまの願いを使ってくれた愛しい人を、このままにするなんてできはしない。
村人たちもどうにかしようと話し合うが、相手は領主。下手をすると村ごと焼かれかねない。
願いを使ってフィリアを助け出したところで、次は部下に願いを使わせるなりして、フィリアを取り戻すだろう。
諦めるしかないのではと言う村人に、ハルトは反発する。フィリアのためにできるすべてをする。
村に迷惑をかけないよう、村を出てひとりで剣を手に領主の屋敷に向かった。
その途中で、魔物と戦う壮年の男と出会った。
男の名はレオ。
世界中の魔物を倒すために、一人で旅を続ける者だった。
ハルトの話を聞いて、レオは力を貸してくれると言った。
二人で領主の屋敷に乗り込み、アルクを討ってついにフィリアを助け出した。
君には願う力が残っているのに、なぜ使わなかったんだ。どんな願いも叶うのに。とレオに問われてハルトは答える。
──努力すれば自分でできることまでかみさまにすがったら、人は何もできなくなってしまう。
レオはそれを聞いて寂しそうに笑う。
あの日の僕にもその勇気があったなら、自分を虐げる村なんてさっさと出て幸せを探しに行けたのかな。
世界に魔物がはびこるようになった原因は自分だ、とレオは告白する。
贖罪のために何十年も戦い続けてきたと。
ハルトはかみさまに願った。
「かみさま。もう二度と、誰の願いも叶えないでください。レオやフィリアのような悲しい目に遭うひとが出ないように」
世界から願いの力は消えた。
この先、世界のひとは自分の力で願いを叶えるために生きていくのだ。
恋人を救うためとはいえ、ハルトは領主を討った。
フィリアと二人で手を取り合い、遠くの国に逃げる。
遠くの国に行く船に乗る二人をレオが見送る。
ハルトとフィリアは笑顔でレオに頭を下げる。
──ありがとう、レオさん。あなたがいなかったらおれたちは自由を得られなかった。あなたは、おれたちの英雄です。
END
人は一生のうちに一度だけ、願いを叶えてもらえる。
5歳のときであろうと90歳のときであろうと、使うタイミングは自由。
幼い頃に使ってしまう者がいれば、天寿を全うするまで何も願わない者もいる。
かみさまはただただ願いをかなえるだけの存在だ。
今日は仕事に行きたくないな、なんていうなまけ心もお願いにカウントしてしまうので、真に願うことが叶わない者もいる。
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14歳のレオは、気弱で内気だった。
村の少年たちから奴隷のように扱われ、面倒事を押し付けられる。
だから毎日うつうつとした気持ちを抱えていた。
レオはかみさまに心から願った。
「こんなの本当の僕じゃない。僕は、人々を救って尊敬される英雄になりたい」
次の日から、世界に謎の化物がはびこるようになった。
翼を持つ巨大なトカゲ、人を食らう大蜘蛛、角を持つ熊。
レオは、魔物を倒し人を救うために旅立つこととなった。
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魔物の襲撃で両親を亡くした10歳のアレンは、日に一度、盗んだリンゴを食べるような生活をしていた。
だから願った。
「かみさま、一生使っても使いきれないくらいたくさんのお金とごはんが欲しい」
アレンは貴族に拾われて、養子縁組された。
毎日きれいな服を着て、お腹いっぱいごはんを食べられるようになった。
成長して美しい女と結婚して、誰もが羨むような日々だ。
けれど流行り病には勝てず、夫婦揃って40歳という若さでこの世を去った。
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アルクは今年20歳になる、辺境の領主だ。二年前に父が他界したため、若くして領主になった。
アルクは自分が統治する村に住む18歳の少女、フィリアに恋をしていた。女神と思うような美貌と豊満な肉体を持ち、心根は優しい。アルクから見たらフィリアは自分の妻にふさわしい完璧な女だった。
しかしフィリアには結婚を約束した幼なじみがいる。
アルクは物陰からフィリアを見つめ、かみさまに願った。
「フィリアを俺のものにしたい」
願いが聞き届けられ、フィリアはアルクの屋敷に囚われた。
かみさまはどんな願いでも叶えてくれる。
人間のような善悪の概念などない。ただ願いを叶える存在だ。
アルクはこのためにずっと願いを使わずにとっておいたのだ。
アルクはフィリアを法的にも嫁にするために、結婚式を盛大に挙げることに決めた。
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フィリアは自分の心に反して、アルクに囚われた。
けれどどんなに願おうと、フィリアはここから出ることが叶わない。
かみさまが願いを叶えてくれるのは一生に一度だけだからだ。
フィリアの願いは二年前にもう使われていた。
幼なじみのハルトが死に至る病にかかってしまったときに願った。
「かみさま、どうかハルトを健康にしてください。どんな病にも打ち勝つ健康な体にしてください」
ハルトを助けたことを後悔していない。
けれど、フィリアはただの村娘。この絶望的な状態から抜け出す力を持っていなかった。
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フィリアの幼なじみ、ハルトはフィリアが囚われたことに憤った。
自分のためにかみさまの願いを使ってくれた愛しい人を、このままにするなんてできはしない。
村人たちもどうにかしようと話し合うが、相手は領主。下手をすると村ごと焼かれかねない。
願いを使ってフィリアを助け出したところで、次は部下に願いを使わせるなりして、フィリアを取り戻すだろう。
諦めるしかないのではと言う村人に、ハルトは反発する。フィリアのためにできるすべてをする。
村に迷惑をかけないよう、村を出てひとりで剣を手に領主の屋敷に向かった。
その途中で、魔物と戦う壮年の男と出会った。
男の名はレオ。
世界中の魔物を倒すために、一人で旅を続ける者だった。
ハルトの話を聞いて、レオは力を貸してくれると言った。
二人で領主の屋敷に乗り込み、アルクを討ってついにフィリアを助け出した。
君には願う力が残っているのに、なぜ使わなかったんだ。どんな願いも叶うのに。とレオに問われてハルトは答える。
──努力すれば自分でできることまでかみさまにすがったら、人は何もできなくなってしまう。
レオはそれを聞いて寂しそうに笑う。
あの日の僕にもその勇気があったなら、自分を虐げる村なんてさっさと出て幸せを探しに行けたのかな。
世界に魔物がはびこるようになった原因は自分だ、とレオは告白する。
贖罪のために何十年も戦い続けてきたと。
ハルトはかみさまに願った。
「かみさま。もう二度と、誰の願いも叶えないでください。レオやフィリアのような悲しい目に遭うひとが出ないように」
世界から願いの力は消えた。
この先、世界のひとは自分の力で願いを叶えるために生きていくのだ。
恋人を救うためとはいえ、ハルトは領主を討った。
フィリアと二人で手を取り合い、遠くの国に逃げる。
遠くの国に行く船に乗る二人をレオが見送る。
ハルトとフィリアは笑顔でレオに頭を下げる。
──ありがとう、レオさん。あなたがいなかったらおれたちは自由を得られなかった。あなたは、おれたちの英雄です。
END
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