私の本命は攻略できないバグなのでノーマルエンド目指します。

 マージョ先生の授業はすごくわかりやすかった。
 ゲームだとイベント以外での会話は出てこないから、ここは確かに一つの世界として存在しているんだな。

「シュウさん、シュウさん。どうしたんですの、気がそぞろでしてよ」
「あ、失礼しました。なんでもないです。続けてください、先生」

 先生は黒板にチョークで魔法の説明を書いていく。
 
「……このように、魔法は先天的に生まれ持つスキルであり、血によって受け継がれるわけではありません。例えばわたくし、子が二人と孫が四人おりますけれど、長女と長女の娘以外は魔法の才を持ちませんでした。かと思えば、平民の中で親は魔法を持たないのに子供三人が全員魔法のスキルを持っていたということもあります。実際に、この教室にいる皆さんも、必ずしも親兄弟に魔法士がいる訳ではないでしょう?」

 生徒たちが頷き、羊皮紙に書き写していく。
 今の話は、授業の初めに渡された古びた教本の5ページ目に書かれている。
 この世界において本はとても高価なもの。
 日本の学校みたいに生徒全員が買わされるのではなく、学校から貸与される。私たちが次の学年に上がれば、この教本は次の一年生が使うことになる。だから大切に使わなければならないのだ。
 先生の説明が一通り終わり、生徒の一人が挙手する。

「マージョ先生、ここがわかりませんでした」
「いい質問ですわ、アイノさん」

 ゲーム上だと姿もなくモブ1、モブ2と書かれていた生徒ももちろん、名前を持って存在している。
 白色のポニーテールの女生徒はアイノ。
 ハキハキと質疑応答して、見るからにしっかり者だ。
 自己紹介の時にはどこかの貴族の使用人をしていると言っていた。魔法学院に送り出してくれるなんて、いいご主人様なんだろう。
 座学が終わって、先生が退室してからが話しかけてくる。

「ねえねえ、シュウさん。さっきの自己紹介で好きな人のために魔法を学ぶって言っていたけれど、お相手はどんな人なの? この学院の生徒? それとももう結婚を約束した人がいるの?」
「それは……」

 まわりを見ると、気になる話題なのかチラチラ視線がこっちに投げられている。
 ネガとワンにも見られている。
 ああそうだよね。ゲームでイベント会話以外が描写されないだけで、こういう年頃の女の子なら気になるであろう話題が飛び交うのなんて日常茶飯事のはずだ。

 ゲームにないこの会話、相手はイベントに関係ない子だし、今後の展開に影響……しないよね? 
 影響しないなら、せっかく巡ってきた二度目の青春だ。存分に謳歌させてもらおう。
 名前を出しさえしなければ、推しのセバスへの愛を熱く語っても変な顔をされないはず。
 リアルの幼馴染み、40歳にもなって二次元キャラ熱愛は痛いよと言ってきたから切ないのよ。

「ふふっ。私がずっと憧れている人なの。気持ちを伝えたことはないし、相手も私をすいてくれているかはわからないわ。でも、本当に素敵で大好き。結婚するなら彼しかいないと思う」
「きゃー。いいわね、青春って感じ!」
「わたしにも教えて、シュウちゃん! 恋愛成就できるように応援するよー!」 
「私ばかりが話すんじゃなくて、あなたたちも教えてよ。オーちゃんは幼馴染の彼とどうなの?」

 女子三人でキャッキャと恋バナで盛り上がる。



 ちょっと離れた席では、私たちが気にしなかっただけで男子たちもこっそり話していた。

「ネガ、いいと思う子はいた? 陛下にも学院で婚約者になりそうな子を見つけなさいって言われているんだろ」
「あのさワン。初日で誰と結婚するしないなんて、わかるわけないじゃないか。だって今の時点で最低限会話したの、シュウだけだぞ」

 教本を顔の前に立てて、シュウ・ジン・コーナー子爵家の令嬢をこっそり見る。
 友人と笑い合う姿は、そこらへんの女性と何も変わらない。
 ワンに王子だと紹介されたのにも関わらず、ネガを特別扱いしたり、媚びを売ってこようとはしなかった。公平に、他の生徒と同じように接してもらえて、嬉しい。
 学生の間に少しでも近い関係になれたら。
 子爵家は貴族の位で下から数えた方が早いが、本人の資質が何より評価される。

「シュウちゃんが気になるって?」
「そんなことは言っていない」
「じゃあ僕がアプローチしても問題ないよね。あの子、すっごく僕の好みのタイプ。好きな人のために頑張れる子って惹かれる」
「何を言い出すんだお前」

 ワンの頭からぴょこっと犬耳が生える。
 ワンは祖父が犬獣人だから、ワンは獣人のクオーター。
 気を抜くと犬耳が出てくる。
 テンションが上がると尻尾も出てくる。
 本人は犬呼ばわりされるのが嫌で隠しているが、感情の起伏がわかりやすい性格のせいで、周囲にはバレバレである。

「仲良くなれるといいなぁ」


 とうのシュウはモブにお熱、だなんて知る由もない二人だった。
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