シスター・キントレ!

 この世界に転生してから思うことがある。

 なんでこう、ゲームの主要キャラばかりと出会ってしまうんだろう。
 一人で部屋にいるときに、書き出してみる。

 ペンキで黒く塗りつぶした手作り黒板に、白い石で文字を書いていく。

 自分の容姿とキャラたちを見るかぎり、ここはあの乙女ゲームの世界だ。


 もしかしてマンガやゲームでよくある、強制力、というやつだろうか。

 すべての攻略キャラと出会うよう、世界《・・》がシナリオ通りに動く。

 ルートを外れようとどれだけあがいても、出会うルートに収束される。
 ここの次期領主ジルだけならまだしも、本来ゲーム本編開始しないと出会わないはずのエリオルとロミオ、ルフィナにまで出会ったんだもの。

 きっとこの先、王子や他の婚約者、隠しキャラとも出会うことになる。

 どうしたって出会うなら、マイナスの選択肢を選び続けてフラグを叩き折ればいい。
 私は浮気する生き物を信じないし、恋愛なんてもうするつもりがないんだから。

「そうと決まったら、今日の仕事を頑張らなきゃ」

 鶏小屋の掃除と餌やりの当番だ。

 ちなみに鶏と言っても日本の鶏舎で見かけるアレじゃない。
 体は白い鳥だけど、尾が蛇。
 鳴き声がギャースである。
 鶏より凶暴。

 こいつら|コカトリス《モンスター》じゃないか? と思うけどたまごが美味しいからいいや。
 町の人たちも一家に2羽飼っている。庭には2羽コカトリスがいる。


 たまごは、シスターたちと美味しく調理して朝ごはんにいただいた。

 
 それから日課の奉仕活動だ。
 孤児院の子どもたちの服を洗濯して、干す。
 木の幹同士を紐でつないで、そこにかけるスタイルだ。
 腕を広げる、ラジオ体操でよくやったこの動き。
 程よく肩と背筋に負荷がかかって、良い。
 筋肉は今日も喜んでいるわ。




 あらかた干し終えたところで、従者を引き連れたジルがやってきた。

「シスター・キントレ。先日、町の中に入ったモンスターを倒しただろう。父上からの報酬を持ってきた。ロミオにはもう渡してあるから、あとは君だけだ」

 きれいなの布に包まれた金一封。
 こういう雑用なんて、従者に任せるものかと思った。
 ジルがわざわざ来るのもゲームイベントか。

「私は清貧がモットーのシスターですから、何も要りません。今あるもので事足りております」

 神に仕えるため究極のミニマリストとなる修道士。私以外の人間でも受け取らないよ。

「それでは困る。功績を出した者に何も渡さないのでは領主としての示しがつかない」
「ではそのお金で町の外壁を補強してください。モンスターが二度とこないなんて保証はないのですから。私は仕事に戻るので失礼しますね」

 返事を待たず、空になった洗濯かごを持って、孤児院の中に戻る。

 たぶん、素直に受け取ってあげるのがゲーム的に正解の選択肢。
 やな女と思ったことだろうなぁ。     
  

 後日、領主が呼んだ凄腕大工の手で外壁が補強された。これでよっぽど強いモンスターでないかぎりは入ってこれない。

 なのに、いまだに礼拝堂にモンスターがいるんだぜって噂が残っているんだよ。
 解せぬ。


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