シスター・キントレ!

 モンスター討伐から数日後。
 日課の薪割り(という名の筋トレ)に勤しんでいると、修道院に町長が来た。

「ここ最近、盗難が増えているんだ。四日前におれの家で眼鏡、一昨日はゴードンさんちで指輪、昨日はボブのとこの置物とジーナばあさんちのペンダント。この修道院は女性しかいないだろう。戸締まりに気をつけておくれ。ばったり泥棒に出くわしてしまったら、何をされるかわからんからな」
「わかりました。気をつけます」

 一緒にいたシスター・クロエも「気をつけます」と答えたけれど、町長が帰ってからあっけらかんと笑う。

「泥棒ねぇ。あたしたち装飾品も持っていないし、お金もほぼないし。持っていかれそうなのは食べ物くらいだね」
「うーん、うちで盗られてしまいそうなもの、神様の銅像、危なくないですか」

 日本でも仏像盗難が多発していたし、異世界だからといって敬虔な人ばかりとも限らない。

「まさかぁ。神像を盗むなんてそんなバチあたりな人いるかしら」
「信仰心があったら、はなから人様のお家に盗みに入りませんよ。それに日を追うごとに盗まれる物が増えているようですし、調子に乗ってどんどん増長しているように思います」
「身も蓋もないね。でも確かに警戒する必要はあるか。シスター・アグネスとシスター・ハンナとも話し合おう」
「ええ!」

 そんなわけで、我らが神様の像を厳重に、厳重にお護りするため、交代で深夜番をことにした。
 シスター・アグネス、シスター・ハンナ、シスター・クロエ、私の順番。
 深夜から夜明けまでが私の担当時間だ。

 シスター・クロエと交代して、カンテラ片手に礼拝堂の影に隠れる。

「あー、座ってるだけだと眠っちゃいそう。そうだ、スクワットしよう。足腰が鍛えられていいよね。眠くなることもないし名案!」

 両手を後頭部に当ててLet'sスクワット☆

「百九十九、二百、二百一」

 200を数えたあたりで、大きめの人影が二つ、礼拝堂に近付いてきた。
 他のシスターは今の時間寝ているから身内ではない。

「へっへっ。誰もいねぇな。さすが女だけの修道院」
「そうっすね兄貴。銅像なんて、溶かして鉱石に戻せば盗品だってバレねーし、ぜってー良い値になるっすよ」

 はーい盗人確定。

 神像溶かして売るとか抜かしてるし、容赦なくとっ捕まえてオッケーですよね神様!

「うふふ。こんな夜更けに礼拝ですか? 懺悔《ざんげ》するなら、ここの神像より先に、盗みに入った家の人たちにするべきです」

 盗人ふたりに歩み寄る。
 さっきまで筋トレしてたから体は温まってるわ。
 小柄なヒゲもじゃに突進する。

「おりゃあぁああ!!!!」
「ぎゃーーーーーー!! け、ケンタロスかこいつ!!」

 助走をつけたパンチでヒゲもじゃが吹っ飛んだ。

「兄貴いいいい! こ、こうなりゃ、オレだけでも逃げ……」 
「逃がさん! みんなから盗んだものを返しなさい!」

 回し蹴りが腹に決まって、ひょろ長い方も倒れた。

 やはり、筋肉。筋肉はすべてを解決する。

 夜明けとともに、盗人兄弟を町長に引き渡し。
 ふたりの隠れ家からはこれまで盗まれたものが出てきたよ。


 そんでもってこれ以降、深夜の礼拝堂に「懺悔しろ!」と叫ぶケンタロスが出るという噂が立った。
 なんでだ。



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