シスター・キントレ!

 ごきげんよう、キントレです。
 今日も元気に奉仕活動しています。
 孤児院の子どもたちに護身術を教えているの。

 いつなんどき、モンスターが町に入ってくるかわからないからね。
 町の中にモンスターが出ないなんていうご都合主義、マンガの世界だけよ。


「マッスルマッスルー! いい、みんな。腰を落として真っ直ぐ拳を打ち込む! ためらってはだめよ! 蹴るときはこう!」
「あーい。まっすりゅまっすりゅ〜」

 正拳突きと蹴り技の特訓に付き合ってくれるちびっ子たち、センキュー。

「シスター・キントレ。すまんが町長さんのところで荷物を受け取ってもらえんか」
「はい、先生。もちろんです! すぐ行ってきますね!」

 先生、腰が悪いから大変だものね。お年寄りは労る、これ私の信念。
 町長のところで寄付された子ども服を受け取って担ぐ。米俵くらいの量がある。
 帰路を歩いていると、軽鎧を着たロミオがやってきた。

 また孤児院に顔を見せに来たようだ。

「お、シスター・キントレ。今日も奉仕活動をしてるのか」
「ごきげんようロミオさん」
「荷運び手伝うよ。女の子には重いだろ。そんで今度こそお茶行こ?」

 ニッコリ笑顔でお断り。

「いえ。いい筋肉負荷になっているので心配ご無用です」
「相変わらず言ってる意味がわからない」
 
 そんな話をしていると町を囲う柵を乗り越えて、モンスターの群れが現れた。
 スライムだけでなく、羽の生えた目玉……グライアイとかいうのが出てくる。

「ピるるるるるキャぁ!!」
「モンスターが!! 俺が撃退するからシスター・キントレも町の人たちと一緒に避難して……」
「私も戦う。一匹でも逃したら住民に被害が出ます」

 抱えていた荷物を一旦置いて、迫ってきたグライアイを蹴り飛ばし、もう一体に正拳突きを叩き込む。
 筋肉を鍛えてきてよかった。町の人を守れるもの。

「モンスター相手とはいえ、シスターが殺生なんてしていいのかい?」
「普段ちゃんとお祈りしているので、神様も今日くらい見逃してくれると思います」

 ロミオと共闘して、モンスターの群れを追い払えた。
 さっきロミオが言った通り、聖職者が命を奪うのはご法度。
 町を守るためだから、シスター・アグネスに報告したら黙認してくれた。

 ロミオは養父のもとに帰る前、修道院に挨拶をしに来た。

「またなシスター・キントレ。次に来るときはレストランじゃなくてトレーニングに誘うことにするぜ」
「お断りします。普通に、自分の婚約者だけを大切にしていてください」

 女の子とのお茶デートが大好きな男が、なぜトレーニング。
 乙女ゲームの男心ってわからないわ。



image

6/11ページ
スキ