シスター・キントレ!

「はぁ〜あァァ! マッスル! マッスル!」

 今日も今日とて、お祈りと掃除のあとは奉仕活動。

 私は孤児院の裏庭で薪割りをしている。
 春の今から薪をたくさん作れば、お風呂も沸かせるし、子どもたちは冬の間をあたたかく過ごすことができる。

 孤児院の先生は高齢。そしてここで暮らしているのは、大きい子でも八才だから薪割りはシスターが手伝うのだ。
 他のシスターは料理と畑の世話を手伝っている。

 私に筋肉仕事を割り振ってくれてありがとうみんな。

 自作の歌を歌いながら薪割りをしていたら、先生が熱いお茶を持ってきてくれた。


「ありがとうねぇシスター・キントレ。わしは腰を悪くてからはできなくて困っていたんだよ。疲れるじゃろう。これ、飲んどくれ。畑でとれた薬草の茶なんじゃ」

「いえいえ。こちらこそ。いい筋肉運動を提供してくださってありがとうございます。握力がつくし背筋も鍛えられるし、お礼を言うのはこちらの方です」

 いったん休憩でお茶をいただく。
 ヨモギっぽい味だ。異世界だからヨモギそのものは存在しないけど、似たようなものは存在するみたい。
 筋肉を鍛えたあとの茶はウマイね。

「あっれ。久々に帰ってみたら、なんだよ先生。知らないシスターが増えてるじゃん」
「おお、ロミオ。どうしたんじゃ。せっかく騎士様の養子にしてもらえたというのに、ここに顔を出してもいいのか?」
「今日は休み。じいちゃん先生老いぼれだし、薪割り大変だと思うから手伝いに来たんだよ。偉いっしょ」

 二十前後に見える赤毛の男がやってきた。

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 あ、この人チャラ騎士様だ。
 そっかー。この孤児院出身なのかー。
 次期領主がジルな上にロミオの出身がこの孤児院って、なんの因果よ。

「こちらはシスター・キントレ。新しく修道院に入った人じゃ。シスター・キントレが手伝ってくれているから、心配せんでも大丈夫じゃよ。わしらのことは気にせず、ロミオはちゃぁんと騎士の仕事をやればよい」

「今日は騎士業が休みだからいいの。ーーお嬢さん。若い女の子が薪割りなんて、大変だろ。力仕事より俺と町のレストランでデートしようよ。薪割りは俺がやっとくからさ」

 ロミオ、さらっと初対面のシスターを茶に誘っとるやないか。ナンパし慣れてんだなぁ。

「薪割りが好きでやっているので交代不要です。神聖な背筋トレーニングの時間を取らないでください」
「何言ってるかわからない」

 攻略対象と一緒にお茶なんていう、あからさまなスチル付き恋愛イベント誰が行くか。

 ポカンとしているロミオをそっちのけで薪割りを再開する。

 ああ、肩の筋肉がピクピクしちゃう。
 薪割りで今日も私の筋肉ちゃんが喜んでいるわ。
 
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