シスター・キントレ!

 村を出て、道なりに下っていく。
 靴は厚手の革で巻いて補強して、虫に食われないようにしてある。

 村のおばあさんから予備の杖をもらい受けたから、歩きやすい。趣味が登山とキャンプで良かった。

 こういうところが「お前一人で全部なんとかなるし、俺いらないだろ」と振られる原因なのかもしれない。

 やけ酒で死ぬなんて両親が嘆くなぁ。
 アイナの性格を考えると…………|拳《グー》で元婚約者たちをしばきそうだけど、前世のその後なんて観測しようがない。


『プキャー!』

 スライムが現れた。

「っしゃりゃああぁああ!!」

 ブォン! ドゴォ! ビチャ!!

 杖を振り抜いたら核ごと飛び散った。 
 袖で汗を拭ってまた歩く。

 ありがとうアイナ。あなたが教えてくれた護身術が役に立ったわ。
 お姉ちゃん今、筋肉の大切さを実感してる。

 この身体の一部だから、筋肉は私から離れない。

 筋肉は裏切らない。

 力isパワー。

 鍛えれば鍛えるほど答えてくれる可愛いやつ。
 私、生涯筋肉を愛するわ。

 途中現れるスライムをぶっ飛ばし、休憩を挟みつつ、日暮れ前に麓の町についた。
 町の人に聞いて修道院に直行する。

 アポイントなしの訪問だったのに、修道院長は嫌な顔せず迎えてくれた。 
 人当たりのいい老婦人だ。
 白湯を出してくれる。
 
「いらっしゃい。あなたのように年若い子が、どういった御用なのかしら」

「はじめまして、修道院長。私はユリナと申します。修道女になるために故郷を捨てて来ました。ここに置いてください」

「修道女になるということは、生涯独身を貫くということですよ。神との誓いは王族にも覆せない。あとになってから好いた男ができたから辞めたいと言ってもできないのですよ」

「心得ています。私は修道女になることを選びます」

 王族にすら取り消せないなら好都合だ。
 修道女は絶対に、結婚できない。

 私は立ち上がり、深くお辞儀をする。
 どれくらい頭を下げていただろう。
 修道院長はゆっくりと口を開く。

「わかりました。何があなたをそうさせているのかは、聞きません。そんなに泥まみれになってまでここに来てくれたのだもの。わたしはアグネスというの。これからよろしくお願いしますね」

 シスター・アグネスとかたい握手を交わす。
 

 洗礼を受けて、俗世の名前ユリナは今日限りで捨て去ることになる。

「さぁ。これで今日から貴女はわたしたちの同志。修道女としての名前はどうするか決めていますか?」
「キントレとお呼びください」
「そう。わかったわ。シスター・キントレ」


 日々筋肉への感謝を忘れないよう、自分の名前に筋トレを刻む。

 今日から私はシスター・キントレだ。
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