シスター・キントレ!
お使いから七日後のこと。
お祈りのあと礼拝堂の掃除をしていると、燕尾服を着たが六〇過ぎのオジサマ現れた。
「貴女がユリナ様ですか! ああ、その御髪、伯爵様にとてもよく似ている」
「は!?」
ここに来てからはずっとシスター・キントレだったのに。
初対面なのになんか見覚えが………………。
あ。
伯爵家の執事だ!
なんで?
伯爵家の迎えが来るのは主人公が十七歳になるときじゃないん!?
それも、村を飛び出して違う場所にいるのになんで。
大混乱の私に執事が説明してくれる。
「先日、伯爵家の馬車を救ってくれたでしょう。伯爵様があなたの勇姿を見ておりました。そして髪色を見て、かつての恋人との間にできた子ではないかと調べたのです。
あなたのお母様から、娘は修道女になったと聞いて、そして城下町の修道院でここにいることを聞きました。伯爵様にはあなたの他にお子がおられないのです。どうか伯爵家のあとをついでいただきたく」
滝のような勢いで一気に説明されて頭の中は真っ白け。
アーーーーーッ。
三年後の時点でお亡くなりだから、現時点はまだ存命ってことね。
あれが父親の乗る馬車だと知っていたら助けなかったかと聞かれたら、助ける以外の選択肢はないんだけど……。
お迎えフラグが早まってしまった。
貴族になりたくないからこの道を選んだのに。
この上王子と出会って恋愛フラグなんて御免こうむるわ。
「お断りします。私は修道女。神への誓いを覆したりしません!!」
「ですが、伯爵家の跡継ぎが……」
「家督を継ぐ人がほしいのなら、養子を迎えてくださいませ? ほら、孤児院の子たちはみんなとてもいい子ですよ」
私が日々ていねいに護身術を教えたから、この子達は騎士団でも活躍できるはずよ。
勇気は人一倍。
「というわけで私は伯爵家に行きません。お引き取りください」
どこの世界に雑巾で掃除する伯爵令嬢がいるってのさ。
お引き取り願ったら翌日、伯爵が来た。
「代わりの者をよこしたのがまずかったのか。そなたの胆力、勇気。伯爵家を継ぐにふさわしい。シスターをやめて跡継ぎに」
「修道女はやめませんのでお引き取りください」
笑顔で手を振ってサヨナラ。
そのあと五回くらい捧げもの持って訪ねてきたけど帰ってもらった。
何度も来るせいで、私が伯爵の隠し子だと町で有名になってしまった。
伯爵、余計なことを。
修道院のシスターたちにも「本当は帰りたいんじゃないの」なんて気を使われる始末。
「何度来ても答えは変わりません。私は伯爵家を継がない! シスターとしてこの町を守るのが生きがいなの! どうしても連れていくというのなら私と勝負して勝ってみなさい!!!!」
来訪七回目。
この数カ月、ひたすら筋肉を鍛えモンスターとも実戦を積んだ。トレーニングしてきた私に、一般人が勝てるわけがない。
本気でキレたら来なくなった。
礼拝堂でお祈りしていたら、シスター・アグネスが私に聞いてくる。
「本当にいいの、シスター・キントレ。伯爵家を継げば大成できるかもしれないのに」
「大成なんてしなくていいです。人には相応の幸せというのがあります」
伯爵家《ちちおや》に引き取られて貴族の男性と結婚するのが幸せ、人によっては幸せかもしれないけれど私はそうじゃない。
本来結婚する相手がいる男たちに愛を語られたって薄ら寒いだけ。
私のトラウマをえぐるのをやめてくれ。
世の中恋愛したい女ばかりじゃないんだよ。
女神像に心から、必死に祈る。
断り続けたら伯爵は来なくなった。
孤児院の男の子を引き取っていったから、きっとあの子が大人になったら立派に領地を運営してくれるよ。
そんなわけで、私は無事十七歳になった。
攻略キャラたちはちゃんと婚約者と結婚した。
私は礼拝堂のケンタウロスというあだ名を授かり、今日も元気に、お祈りと奉仕活動と筋トレに励んでいる。
町の人たちと楽しく暮らせて、幸せである。
おしまい
お祈りのあと礼拝堂の掃除をしていると、燕尾服を着たが六〇過ぎのオジサマ現れた。
「貴女がユリナ様ですか! ああ、その御髪、伯爵様にとてもよく似ている」
「は!?」
ここに来てからはずっとシスター・キントレだったのに。
初対面なのになんか見覚えが………………。
あ。
伯爵家の執事だ!
なんで?
伯爵家の迎えが来るのは主人公が十七歳になるときじゃないん!?
それも、村を飛び出して違う場所にいるのになんで。
大混乱の私に執事が説明してくれる。
「先日、伯爵家の馬車を救ってくれたでしょう。伯爵様があなたの勇姿を見ておりました。そして髪色を見て、かつての恋人との間にできた子ではないかと調べたのです。
あなたのお母様から、娘は修道女になったと聞いて、そして城下町の修道院でここにいることを聞きました。伯爵様にはあなたの他にお子がおられないのです。どうか伯爵家のあとをついでいただきたく」
滝のような勢いで一気に説明されて頭の中は真っ白け。
アーーーーーッ。
三年後の時点でお亡くなりだから、現時点はまだ存命ってことね。
あれが父親の乗る馬車だと知っていたら助けなかったかと聞かれたら、助ける以外の選択肢はないんだけど……。
お迎えフラグが早まってしまった。
貴族になりたくないからこの道を選んだのに。
この上王子と出会って恋愛フラグなんて御免こうむるわ。
「お断りします。私は修道女。神への誓いを覆したりしません!!」
「ですが、伯爵家の跡継ぎが……」
「家督を継ぐ人がほしいのなら、養子を迎えてくださいませ? ほら、孤児院の子たちはみんなとてもいい子ですよ」
私が日々ていねいに護身術を教えたから、この子達は騎士団でも活躍できるはずよ。
勇気は人一倍。
「というわけで私は伯爵家に行きません。お引き取りください」
どこの世界に雑巾で掃除する伯爵令嬢がいるってのさ。
お引き取り願ったら翌日、伯爵が来た。
「代わりの者をよこしたのがまずかったのか。そなたの胆力、勇気。伯爵家を継ぐにふさわしい。シスターをやめて跡継ぎに」
「修道女はやめませんのでお引き取りください」
笑顔で手を振ってサヨナラ。
そのあと五回くらい捧げもの持って訪ねてきたけど帰ってもらった。
何度も来るせいで、私が伯爵の隠し子だと町で有名になってしまった。
伯爵、余計なことを。
修道院のシスターたちにも「本当は帰りたいんじゃないの」なんて気を使われる始末。
「何度来ても答えは変わりません。私は伯爵家を継がない! シスターとしてこの町を守るのが生きがいなの! どうしても連れていくというのなら私と勝負して勝ってみなさい!!!!」
来訪七回目。
この数カ月、ひたすら筋肉を鍛えモンスターとも実戦を積んだ。トレーニングしてきた私に、一般人が勝てるわけがない。
本気でキレたら来なくなった。
礼拝堂でお祈りしていたら、シスター・アグネスが私に聞いてくる。
「本当にいいの、シスター・キントレ。伯爵家を継げば大成できるかもしれないのに」
「大成なんてしなくていいです。人には相応の幸せというのがあります」
伯爵家《ちちおや》に引き取られて貴族の男性と結婚するのが幸せ、人によっては幸せかもしれないけれど私はそうじゃない。
本来結婚する相手がいる男たちに愛を語られたって薄ら寒いだけ。
私のトラウマをえぐるのをやめてくれ。
世の中恋愛したい女ばかりじゃないんだよ。
女神像に心から、必死に祈る。
断り続けたら伯爵は来なくなった。
孤児院の男の子を引き取っていったから、きっとあの子が大人になったら立派に領地を運営してくれるよ。
そんなわけで、私は無事十七歳になった。
攻略キャラたちはちゃんと婚約者と結婚した。
私は礼拝堂のケンタウロスというあだ名を授かり、今日も元気に、お祈りと奉仕活動と筋トレに励んでいる。
町の人たちと楽しく暮らせて、幸せである。
おしまい
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