暗愚な名君フェリクスの軌跡
「ラーラ、芋の皮むき頼んだよ」
「ええ。任せて、おばあちゃん」
宿屋の朝は早い。
宿泊客が朝食を取るより早く起きて、仕込みをしなければならない。
人の目につかないよう、食堂の裏手で皮むきをする。
桶いっぱいの芋だけど、スープはよく追加注文が入るから一日で使い切ってしまう。
この高台からは海を一望でき、行き交う旅行客たちの声も届く。
砂漠の国イズティハルの民だと思われる人もちらほら見受けられる。
今年に入ってから交易が盛んになったため、街の仕立て屋にもイズティハルから輸入した麻布が並んでいる。熱帯地域の服に使われるだから、風通しがよく手触りも独特で人気を博している。
あれを運んだのはオレだ! と食堂に来た船乗りが誇らしげに言っていた。
船から降りてくる渡航客を眺めながら思う。
宿の仕事がなかったら、自分もあの船に乗ってみたい。ここ以外の世界を見たい。
平民の半数以上は、生まれ育った国から出ることなく一生を終える。
外交や、遠征のある兵士といった職にでも就かない限りは。
「そういえば、フィーさんは世界を見る仕事をしているって言っていたっけ。いいなあ」
半年ほど前から来店するようになったフィーは、街を歩く若者と変わらない服装なのに、所作は洗練されていて、ちぐはぐな印象を覚える。
食器の音を立てないように食べるし、スープも静かに飲む。言葉遣いも落ち着いている。フィーからは、育ちの良さがにじみ出ていた。
礼節を重んじる……例えば通訳や外交官のような、要人と接する機会が多い仕事なのかもしれない。
他の人に夢を話したときには鼻で笑われた。
スクールに通えるのは貴族の子だけだから、ほとんどの平民は文字の読み書きができない。
商人も多くは貴族に連なる人間だ。平民が商売をはじめるなら文字を学ぶところから始めなければならず、相当の努力とお金が必要になる。
「学のない平民ごときが、それも女が、叶いもしない夢を口にするな」そう言われるのは仕方のないことなのかもしれない。
過去、言い寄ってきた男がいたが「女なんだから、家庭に入って俺の帰りを待っていてくれるだけでいい」とありえない要求をされ、突っぱねた。
平民の女に生まれてしまったら、夢を抱き口にすることすら許されないのだろうか。
ラーラの勘違いでないなら、フィーは少なからずラーラに好意を持ってくれている。好きだと告白されたわけではないけれど、フィーの言葉から感じるのは、ラーラへの尊敬と好意。
「それだけたくさんの言語を話せるのはすごいことだよ。誇りに思っていい」
「ラーラはいつも元気な笑顔だから、見ていて気持ちがいいね」
「家族を尊敬して支えあえるのって羨ましいな」
ラーラが宿屋の娘として培ってきたものをまるごと肯定してくれる。
優しくて、穏やかで、聡明で、ラーラの夢をバカにせず、素敵な夢だと言ってくれる。
フィーと言葉を交わすと、心があたたかくなる。
いつの間にか、フィーが来てくれるのを待ち望むようになっていた。
「フィーさん、今日は来てくれるかな。どんな話をしてくれるだろう」
皮むきを終えて厨房に戻ると、祖父がラーラを呼んだ。
なんだかいつもよりも背筋を伸ばし、そわそわしている。
「ラーラ。お客様がラーラに話したいことがあると」
「私に?」
「ああ。貴族のご令嬢だ。いつどこで知り合ったんだ?」
「毎日宿にいるんだから、知り合う機会なんてないよ」
不思議に思いながら店に出ると、ロングドレスに羽付き帽子といった装いの女性が席について待っていた。
手入れされて艷やかな金髪、微笑みを浮かべる瞳はワインのような赤みがかった色。
洗練された仕草は、どことなくフィーを思い起こさせる。
そばには護衛の女性を連れている。
どこからどう見ても疑いようもなく貴族のご令嬢だ。
いかにも田舎者な自分の格好が急に恥ずかしくなってしまい、勢いよく頭を下げる。
「こ、このような格好で、すみません」
「気になさらないで。約束も取り付けずに急に来たわたくしがいけないのですから。どうしても、貴女と話をしたかったの。おかけになって」
女性は気を悪くした風もなく微笑み、ラーラに座るよう促す。
「ご挨拶が遅れましたね、ラーラさん。わたくしはアンネリーゼ・バルテル。お見知りおきを」
「私はラーラと申します。バルテル領のご息女が訪問してくださるなんて、恐れ多いです」
なぜ面識もない伯爵令嬢が、平民のラーラを訪ねてきたのか。考えてもなにもわからなくて、ラーラは戸惑いを隠せない。
「フィーから貴女のことを聞いて、直接会ってみたくなったのです。海外に興味があって、語学も堪能だと」
「アンネリーゼ様は、フィーさんとお知り合いなんですか」
「あなたが嫌でないなら、ふたりのときはリゼと呼んでいただけると嬉しいわ。わたくし同性で同年代の友人っていなくて」
貴族と知り合い。ということは、フィー本人も貴族と近しい身分か、貴族と関わる仕事だという予想はあながち外れてはいなかったようだ。
伯爵家の者を愛称で呼ぶなんて、失礼にあたらないかと心配になってしまう。
「わたくしはフィーの古い友人。姉みたいなものです。恋愛関係はないから、誤解されないようにあらかじめ言っておくわ。好きな人にそんな誤解されたら、フィーが落ち込んで部屋にひきこもってしまうわ」
「え」
姉みたいなもの、という言葉になんだか安心し、同時に添えられた言葉に耳を疑った。
「好きって、フィーさんが、私を?」
「あら。口が滑ってしまいました。聞かなかったことにしてくださいな。こういうことは、第三者から聞かされるより本人が直接言うべきだものね」
「わ、わかりました。聞かなかったことにします」
「そうしていただけると助かりますわ」
アンネリーゼは口元に人差し指を添えて微笑む。秘密のいたずらを共有した子どものような、無邪気さのある笑みだ。
この数分で、ラーラはアンネリーゼという人のことを好きになった。
貴族だからと驕らず、同じ目線で話をしてくれる。仕事仕事で、同年代の友達を作る機会もほとんどなかったため、アンネリーゼと話すのはなんだか楽しい。
「ここからが本題なのですが。貴女、フィーのことをどう思います?」
「……フィーさんのこと、ですか?」
「そう。フィーは顔や態度に出るから、貴女もおそらくは気づいているでしょう? もしも伴侶にと望まれたら、手を取れますか?」
予想外のことを聞かれて、ラーラはつばを飲んだ。
「……わからないです。優しくて、穏やかで、とても良い人だと思います。でも、まだ数回しか会っていませんし、私はフィーさんのことを何も知りません。どこに住んでいるのか、家族はいるのか、好物はあるのか、夢はあるのか。これが、恋と呼べる気持ちなのかも、わからない」
目を閉じて思い浮かべる。
柔らかそうな薄茶色の髪に、真夏の海のような真っ青な瞳。
フィーが窓際の席に座って、嬉しそうに海を眺める姿。ふとした瞬間に、年相応の少年らしい笑顔を垣間見せる。ラーラのことを知りたいといって、些細なこともたくさん聞いてくれること。
「そうね。数回しか会っていないのに、そんなに簡単に、一生側にいたいなんてなるわけがないですもの。少なくとも、嫌いではないのよね」
「はい」
「なら、もっと会う回数が増えて、お互いのことを知れたら、違う答えが聞けるのかしら。貴女も自分の夢に少し近づけるわ」
「…………あの、リゼ様。私がフィーさんのことをどう思うかと、私の夢の話と、なんの関係があるんですか」
真意を掴みかねてラーラが聞くと、アンネリーゼはその言葉を待っていたと言ってラーラの両手を取る。
「特産品の販路を広げるために、諸外国に営業をしに行きたいのです。けれどわたくし、語学はあまり得意ではなくて。なので、あなたには商取引の際の通訳を頼みたいのです。そしてゆくゆくはフィーの補佐をしてほしいと思います」
「取引をされるということは、お相手は上流階級の方たちですよね。私のような平民が通訳を担当するのは、いい顔をされないのでは」
「生まれなど関係ありませんわ。現に、ここにいる護衛のエマも、元は領地の村にいた自警団なのです。腕を見込んで引き抜きました。見た目からは身分がわからなかったでしょう? ですから、貴女がやりたいか、やりたくないか、その気持ちがあれば十分。作法も通訳になってから身につければいい話です。バルテルの屋敷に住む部屋を用意しますし、給金もきちんと払います」
アンネリーゼの護衛は、きっと騎士かそれに準ずる身分の人なのだろうと思っていた。
けれど、ラーラと同じ平民だという。
身分ではなく、実力を見ている。
これ以上うまい話はないというくらい、ラーラに都合のいい条件を提示してくれている。
「ご家族とも話し合わないといけないでしょうから、十日後にまた来ます。その時、答えを聞かせてくださるかしら」
アンネリーゼが帰ったあとも、ラーラは勧誘されたことが信じられなくてぼーっとしていた。
夢を叶えるチャンスが目の前にあったら、手を伸ばすかい? とフィーが聞いてきたことを思い出す。
もしかしたら、フィーがアンネリーゼに頼み、この話を持ちかけたのかもしれない。
家族に「通訳にならないかと誘われた」と話したら、それはもう驚かれた。
無理もない。
使いの者をよこすのではなく、伯爵令嬢が直々に雇いたいと申し出てくれたのだ。
そして両親も兄たちも、祖父母も、「家業だからとここに縛ってしまったけれど、ラーラがやりたいことがそこにあるなら、行っていいんだよ」と背中を押してくれた。
ラーラは何日も悩み、考えた末に、アンネリーゼの提案を受けることにした。
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宿屋の朝は早い。
宿泊客が朝食を取るより早く起きて、仕込みをしなければならない。
人の目につかないよう、食堂の裏手で皮むきをする。
桶いっぱいの芋だけど、スープはよく追加注文が入るから一日で使い切ってしまう。
この高台からは海を一望でき、行き交う旅行客たちの声も届く。
砂漠の国イズティハルの民だと思われる人もちらほら見受けられる。
今年に入ってから交易が盛んになったため、街の仕立て屋にもイズティハルから輸入した麻布が並んでいる。熱帯地域の服に使われるだから、風通しがよく手触りも独特で人気を博している。
あれを運んだのはオレだ! と食堂に来た船乗りが誇らしげに言っていた。
船から降りてくる渡航客を眺めながら思う。
宿の仕事がなかったら、自分もあの船に乗ってみたい。ここ以外の世界を見たい。
平民の半数以上は、生まれ育った国から出ることなく一生を終える。
外交や、遠征のある兵士といった職にでも就かない限りは。
「そういえば、フィーさんは世界を見る仕事をしているって言っていたっけ。いいなあ」
半年ほど前から来店するようになったフィーは、街を歩く若者と変わらない服装なのに、所作は洗練されていて、ちぐはぐな印象を覚える。
食器の音を立てないように食べるし、スープも静かに飲む。言葉遣いも落ち着いている。フィーからは、育ちの良さがにじみ出ていた。
礼節を重んじる……例えば通訳や外交官のような、要人と接する機会が多い仕事なのかもしれない。
他の人に夢を話したときには鼻で笑われた。
スクールに通えるのは貴族の子だけだから、ほとんどの平民は文字の読み書きができない。
商人も多くは貴族に連なる人間だ。平民が商売をはじめるなら文字を学ぶところから始めなければならず、相当の努力とお金が必要になる。
「学のない平民ごときが、それも女が、叶いもしない夢を口にするな」そう言われるのは仕方のないことなのかもしれない。
過去、言い寄ってきた男がいたが「女なんだから、家庭に入って俺の帰りを待っていてくれるだけでいい」とありえない要求をされ、突っぱねた。
平民の女に生まれてしまったら、夢を抱き口にすることすら許されないのだろうか。
ラーラの勘違いでないなら、フィーは少なからずラーラに好意を持ってくれている。好きだと告白されたわけではないけれど、フィーの言葉から感じるのは、ラーラへの尊敬と好意。
「それだけたくさんの言語を話せるのはすごいことだよ。誇りに思っていい」
「ラーラはいつも元気な笑顔だから、見ていて気持ちがいいね」
「家族を尊敬して支えあえるのって羨ましいな」
ラーラが宿屋の娘として培ってきたものをまるごと肯定してくれる。
優しくて、穏やかで、聡明で、ラーラの夢をバカにせず、素敵な夢だと言ってくれる。
フィーと言葉を交わすと、心があたたかくなる。
いつの間にか、フィーが来てくれるのを待ち望むようになっていた。
「フィーさん、今日は来てくれるかな。どんな話をしてくれるだろう」
皮むきを終えて厨房に戻ると、祖父がラーラを呼んだ。
なんだかいつもよりも背筋を伸ばし、そわそわしている。
「ラーラ。お客様がラーラに話したいことがあると」
「私に?」
「ああ。貴族のご令嬢だ。いつどこで知り合ったんだ?」
「毎日宿にいるんだから、知り合う機会なんてないよ」
不思議に思いながら店に出ると、ロングドレスに羽付き帽子といった装いの女性が席について待っていた。
手入れされて艷やかな金髪、微笑みを浮かべる瞳はワインのような赤みがかった色。
洗練された仕草は、どことなくフィーを思い起こさせる。
そばには護衛の女性を連れている。
どこからどう見ても疑いようもなく貴族のご令嬢だ。
いかにも田舎者な自分の格好が急に恥ずかしくなってしまい、勢いよく頭を下げる。
「こ、このような格好で、すみません」
「気になさらないで。約束も取り付けずに急に来たわたくしがいけないのですから。どうしても、貴女と話をしたかったの。おかけになって」
女性は気を悪くした風もなく微笑み、ラーラに座るよう促す。
「ご挨拶が遅れましたね、ラーラさん。わたくしはアンネリーゼ・バルテル。お見知りおきを」
「私はラーラと申します。バルテル領のご息女が訪問してくださるなんて、恐れ多いです」
なぜ面識もない伯爵令嬢が、平民のラーラを訪ねてきたのか。考えてもなにもわからなくて、ラーラは戸惑いを隠せない。
「フィーから貴女のことを聞いて、直接会ってみたくなったのです。海外に興味があって、語学も堪能だと」
「アンネリーゼ様は、フィーさんとお知り合いなんですか」
「あなたが嫌でないなら、ふたりのときはリゼと呼んでいただけると嬉しいわ。わたくし同性で同年代の友人っていなくて」
貴族と知り合い。ということは、フィー本人も貴族と近しい身分か、貴族と関わる仕事だという予想はあながち外れてはいなかったようだ。
伯爵家の者を愛称で呼ぶなんて、失礼にあたらないかと心配になってしまう。
「わたくしはフィーの古い友人。姉みたいなものです。恋愛関係はないから、誤解されないようにあらかじめ言っておくわ。好きな人にそんな誤解されたら、フィーが落ち込んで部屋にひきこもってしまうわ」
「え」
姉みたいなもの、という言葉になんだか安心し、同時に添えられた言葉に耳を疑った。
「好きって、フィーさんが、私を?」
「あら。口が滑ってしまいました。聞かなかったことにしてくださいな。こういうことは、第三者から聞かされるより本人が直接言うべきだものね」
「わ、わかりました。聞かなかったことにします」
「そうしていただけると助かりますわ」
アンネリーゼは口元に人差し指を添えて微笑む。秘密のいたずらを共有した子どものような、無邪気さのある笑みだ。
この数分で、ラーラはアンネリーゼという人のことを好きになった。
貴族だからと驕らず、同じ目線で話をしてくれる。仕事仕事で、同年代の友達を作る機会もほとんどなかったため、アンネリーゼと話すのはなんだか楽しい。
「ここからが本題なのですが。貴女、フィーのことをどう思います?」
「……フィーさんのこと、ですか?」
「そう。フィーは顔や態度に出るから、貴女もおそらくは気づいているでしょう? もしも伴侶にと望まれたら、手を取れますか?」
予想外のことを聞かれて、ラーラはつばを飲んだ。
「……わからないです。優しくて、穏やかで、とても良い人だと思います。でも、まだ数回しか会っていませんし、私はフィーさんのことを何も知りません。どこに住んでいるのか、家族はいるのか、好物はあるのか、夢はあるのか。これが、恋と呼べる気持ちなのかも、わからない」
目を閉じて思い浮かべる。
柔らかそうな薄茶色の髪に、真夏の海のような真っ青な瞳。
フィーが窓際の席に座って、嬉しそうに海を眺める姿。ふとした瞬間に、年相応の少年らしい笑顔を垣間見せる。ラーラのことを知りたいといって、些細なこともたくさん聞いてくれること。
「そうね。数回しか会っていないのに、そんなに簡単に、一生側にいたいなんてなるわけがないですもの。少なくとも、嫌いではないのよね」
「はい」
「なら、もっと会う回数が増えて、お互いのことを知れたら、違う答えが聞けるのかしら。貴女も自分の夢に少し近づけるわ」
「…………あの、リゼ様。私がフィーさんのことをどう思うかと、私の夢の話と、なんの関係があるんですか」
真意を掴みかねてラーラが聞くと、アンネリーゼはその言葉を待っていたと言ってラーラの両手を取る。
「特産品の販路を広げるために、諸外国に営業をしに行きたいのです。けれどわたくし、語学はあまり得意ではなくて。なので、あなたには商取引の際の通訳を頼みたいのです。そしてゆくゆくはフィーの補佐をしてほしいと思います」
「取引をされるということは、お相手は上流階級の方たちですよね。私のような平民が通訳を担当するのは、いい顔をされないのでは」
「生まれなど関係ありませんわ。現に、ここにいる護衛のエマも、元は領地の村にいた自警団なのです。腕を見込んで引き抜きました。見た目からは身分がわからなかったでしょう? ですから、貴女がやりたいか、やりたくないか、その気持ちがあれば十分。作法も通訳になってから身につければいい話です。バルテルの屋敷に住む部屋を用意しますし、給金もきちんと払います」
アンネリーゼの護衛は、きっと騎士かそれに準ずる身分の人なのだろうと思っていた。
けれど、ラーラと同じ平民だという。
身分ではなく、実力を見ている。
これ以上うまい話はないというくらい、ラーラに都合のいい条件を提示してくれている。
「ご家族とも話し合わないといけないでしょうから、十日後にまた来ます。その時、答えを聞かせてくださるかしら」
アンネリーゼが帰ったあとも、ラーラは勧誘されたことが信じられなくてぼーっとしていた。
夢を叶えるチャンスが目の前にあったら、手を伸ばすかい? とフィーが聞いてきたことを思い出す。
もしかしたら、フィーがアンネリーゼに頼み、この話を持ちかけたのかもしれない。
家族に「通訳にならないかと誘われた」と話したら、それはもう驚かれた。
無理もない。
使いの者をよこすのではなく、伯爵令嬢が直々に雇いたいと申し出てくれたのだ。
そして両親も兄たちも、祖父母も、「家業だからとここに縛ってしまったけれど、ラーラがやりたいことがそこにあるなら、行っていいんだよ」と背中を押してくれた。
ラーラは何日も悩み、考えた末に、アンネリーゼの提案を受けることにした。
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