マリオネットは契約結婚で愛を知る。

 夕食のあと交代で風呂に入っても、時刻はまだ二十時。
 優一は静を誘って、映画を見ることにした。
夜の関係は持たないと約束したけれど、部屋で一緒に映画を見るくらいなら問題ない……誰に対してかわからない言い訳を心の中で並べる。


 パソコンで映画を見ることができるプランに加入しているから、数十年前の映画だけでなく昨年公開されたばかりのアニメまでいろんな動画を視聴することができる。
 優一の部屋で肩を並べて座り、おすすめリストをめくっていく。
 最初は遠慮していたものの、いろんなタイトルを見ていくうちに身を乗り出した。

「これ、バイト先の人が話していた作品だ。こっちのはかわいい。すごいなあ、全部見放題なんですか?」
「そうだよ。どれから見ても大丈夫だから、興味あるのを開いてみなよ」
「はい」

 静は猫に密着したドキュメンタリーをクリックして、目を輝かせる。かわいい、となんども声に出ていた。温かいココアを飲みながら、映画を楽しむ。

「いいなあ。私、子どもの頃、生まれ変われたらねこになりたいなって、思ってました」
「それは困るな。猫になっちゃったら静ちゃんと話せなくなる」
「ふふっ。そうですね。私も、優一さんと話せなくなったら、さみしいな。お父さんがいなくなってから、こんなふうに、だれかとゆっくりお正月を過ごしたの、初めてで……」


 だんだん静の反応が鈍くなってきて、小さくあくびをして、優一の肩によりかかった。優一は寝息を立てる静に、そっとブランケットをかける。

「……お疲れ様、静ちゃん。おやすみなさい。いい夢を」

 二十一歳にしては細くて小柄。対する母親の松は鏡餅かゆきだるまのような体型をしている。
 あそこまで肥えるくらい菓子をむさぼる金があるなら、静にまともなご飯を食べさせてくれればよかったのに。

 静は細いけれど、女性らしさや魅力が全然ないというわけではない。
 野に咲くタンポポのようなあたたかさ、一緒にいると安心する空気。
 控えめで、声音はやわらかくて、優しくて、小さなことでも喜んで笑う。

 優一はこの子をさいごまで守りたいと思った。
 叔父が最期まで静を心配していたから、という理由だけでない。
 庇護欲とも違う。
 
 母や叔母たちから逃げ切れたそのあとも、ずっと、こうして肩を寄せ合って生きていたい。静の笑顔が曇ることのないように、守りたい。
 自分の手で、笑顔にしてあげたい。
 優一の中にそんなささやかな願いが生まれていた。
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