イエデレ☆ 〜シンデレラに転生したアタシ、いびられるなんて嫌だし王子との結婚も無理なんで家出する〜

 探偵事務所に向かう道すがら、名前も知らないこの人は身の上話をはじめた。

「実はこのあたりにうちのばあちゃんの恩人がいてね、ばあちゃんはその恩人の娘さんのところに行く予定だったんだ」
「ふんふん」
「けどばあちゃん、2週間前にギックリ腰になっちゃって起き上がれなくてさ。ぼくがかわりに来たんだ」
「えっ! それはツライ」

 異世界でもギックリ腰は大変らしい。
 この人は見た目むちゃくちゃ怪しいけれど、おばあちゃんのためにこの街まで来たのね。 

「でもネー、道に迷っちゃって、今日ようやくその子の家についたんだ。なのに『そんな子はいない』って追い返されちゃってさ。このままじゃ舞踏会に間に合わない。その子にドレスの魔法をかける予定だったのに。だから探偵に頼んで探してもらおうかと思ったんだ」

 …………ん?

 もしかしてこの人、シンデレラにドレスとかぼちゃの馬車を授ける魔法使い(の代理)?

 魔法使いのおばあちゃん、明らかに人選ミスだよ。孫は大遅刻しているよ。

「えーと……さ。舞踏会、とっくに終わってるよ?」
「え?」

 取り返しのつかない事態になっているとわかった魔法使いの孫。ひゅるりら〜と風が吹き抜けてから、我にかえった。

「うっわぁあああ! せめてその子を見つけてドレス着せて馬車を出さなきゃばあちゃんにシメられる!! やめて、ぼくのライフはもうゼロだよ!」
「ギックリ腰してる割に強いね、おばあちゃん」


 どのみち探偵事務所に行かないといけないみたい。
「アタシが本人でーす」って名乗り出ればこの人の仕事はここで終わりなんだけど、お城に行くルートはカンベンしてちょ。

 探偵事務所の扉をくぐると、調査員たちが忙しなく走り回っていた。
 ここのショチョーはレストランの常連だったりする。

「おやレイラちゃん。依頼か?」
「依頼人はアタシでなくこの人。迷子になってたから連れてきた」
「ふむ。詳しく聞こうか。ありがとう、レイラちゃん」
「気にしないでよ〜。そいじゃアタシはこれで、ばいびー」

 正体がばれたらジ・エンド。トンズラしようとしたら、ショチョーに呼び止められた。

「あ、レイラちゃん。これレストランに貼ってもらえないか。城から来た人相書き。王子はこの人を見つけたら婚約を申し込みたいんだとさ。笑っちまうけど」
「それくらいならてんちょーもいいって言うと思う。笑っちゃう人相書きってどんなん?」

 受け取った瞬間、腹筋がよじれそうになった。



 描かれていたのは、とっとこ公のお面をつけたアタシ。
 おもしれー女通り越して奇人変人。
 王子とダンスしてないしガラスの靴も落としてない。
 秒で帰ったのに、どうしてこうなった!


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