イエデレ☆ 〜シンデレラに転生したアタシ、いびられるなんて嫌だし王子との結婚も無理なんで家出する〜

 舞踏会から数日。
 今日も今日とて、店の二階で目が覚める。
 数年前に亡くなった、ライリーママが使っていた部屋なんだってさ。
 アタシが転がり込んできた日に、使えって言って貸してくれた。

 何年も前から部屋の主がいないのに、ホコリ一つなくて、普段から掃除してたんだろうなってわかった。
 亡くなったお母さんのことを今でも大切にしているなんて、ホントいい人。
 


 給仕服に着替えてお店に降りる。
 ライリーはとっくに起きていて、床をモップで磨いていた。

「ライリーおは〜」
「おはようレイラ」
「掃除ならアタシがやるよ。ライリーは仕込みがあるでしょ」
「そうか? なら任せる」

 モップを受け取って床磨きに勤しむ。それから布巾でテーブルをふく。
 ルンバなんていないこの時代だからね。自分たちの力でやるしかない。

「そういや聞いたか? 王子は舞踏会で出会ったどこかの姫を見初めたらしい」
「へー」
「反応うっす」
「だって偉い人を見たってお腹はふくれないもん」

 少しずつこの体の、シンデレラの記憶を思い出している。
 毎日残飯しかもらえない、自分の部屋はない、しかも無給。
 日本の社畜のほうがまだマシな生活できてんじゃない?

 この子は『いつかはお母様とお姉様に好きになってもらえるかも』なんて慈愛の精神でお仕えしていたけれど、アタシはそんな生活イヤ。

 シンデレラ、アンタいい子なんだからもっと幸せな生活目指しなって。

「ライリーと一緒においしいごはんの生活がいいよね」
「食い意地はってんなー。ほら、今日の朝飯。いいハムをもらったんだ」
「やったー。ライリー大好き!」
「だから、簡単にそういうこと言うんじゃない」

 トーストと焼いたハム、そして紅茶。素朴でおいしい。おかわりしたいところだけど居候の身だからね。わがままは言わないよ。
 自分の紅茶を飲みながら、ライリーはしみじみとアタシを見つめる。

「レイラは来た頃より元気になったな。かなりひょろひょろだったのに」
「ライリーが三食作ってくれるからだよ。ありがとね」
「……一日一食すらまともにもらえてなかったなんてな。ひどい親もいたもんだ」
「ま、今が幸せだから元家族のことなんてどうでもいいけどね」

 帰るつもりはないし、お仕事とごはんと住むところがあるんだから最高だよね。

 朝ごはんを終えたら店の前をホウキではいて、開店準備完了。
 店の前に折りたたみ式の看板を開いて、扉に【OPEN】の札をさげる。

「よーし。今日も一日がんばろー!」

 開店と同時に何人も常連さんが来てくれる。これからお仕事に行く、炭鉱の人たちだ。

「レイラちゃん今日もかわいいねぇ」
「ほんと? うれしいなー!」

 昼になる頃、見慣れらないお客さんがやってきた。
 長いローブでフードを目深にかぶった、ステレオタイプの魔法使い……いや、名前を呼んではいけないあの人みたいな怪しい格好の人。

「人を探しているんだ。どうしてもその人に会いたい」
「ええと、それはおつかれさまです?」

 ここは探偵事務所でもないし迷子センターでもない、ただの小さなレストランなんだけど。来るとこ間違えてないかな?

「レストランならいろんな客が来るだろう。協力してくれ」
「えぇぇ…………」

 アタシはどうすればいいか迷って、ライリーに目を向ける。

「探偵を雇うべきでは?」

 ライリーもごもっともなことを言う。

「その探偵とやらもどこにあるかわからないから、たまたま目に入ったこの店に頼んでいるんだ」

 ライリーがやれやれとため息をつく。

「困っているのに放っておくこともできないか。レイラはこの街の探偵事務所の場所わかるか?」
「まあ一応」
「いったん休憩にしてやるから、案内して差し上げなさい」
「えええぇ………」

 雇い主に言われちゃったら従うしかない。それにライリーの言うように、困っているのを放置するのもね。
 そんなわけで、名前も知らないこの人を探偵事務所まで案内することになった。


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