イエデレ☆ 〜シンデレラに転生したアタシ、いびられるなんて嫌だし王子との結婚も無理なんで家出する〜

 町に出て、最初に目に入ったレストランに飛び込む。
 てんちょーさんは薄汚れてボロボロのアタシを見て驚いてたけど、『親に虐待されて帰るところがないの、ここに置いて!』と土下座したら快く雇ってくれた。てんちょーサンキュー!

 てんちょーの名前はライリー。
 三十才のイケオジ。水色の長い髪がよく似合ってるんだよ。ライリー推すよ。
 住み込みで働かせてくれるしごはん美味しいし。ちょー好き。
 アタシは日本にいたとき喫茶店でバイトしてたから、接客配膳バッチリ。
 2ヶ月経つ頃には、住む込み生活もだいぶ馴染んできた。

「ありがとうございました。またきてね〜!」
「おう。明日もレイラちゃんに会いに来るよ!」

 ランチタイム最後のお客様をお見送り。空いたお皿をさげてテーブルを拭く。カウンターに皿を返したら、てんちょーが言う。
 
「レイラはよく働いてくれて助かるよ。こんなに気が利いて働き者なのに、家ではひどい目に遭っていたんだろ。なんて親だ」
「ありがと、てんちょー! おかげでアタシ生きていられるよー!」

 レイラってのは偽名ね。シンデレラだからレラのとこだけとってレイラ。
 毒親がタダ働きの召使い惜しさに、血眼でアタシを探していても困るし。金を積まれても戻んねーけどな!

 お客様がいなくなったところで、本日のまかないを食べる。
 サンドイッチと紅茶はライリーの手製。

「んー! マジおいしー! サンドイッチしっとりしてて美味しいし紅茶めっちゃいい香りだし、てんちょーのごはん毎日食べたい。一生ここで働いてたら一生出してくれる?」
「そ、そうか一生、か。過大評価な気がするが、ありがとうよ。ほんとうに美味そうに食うよな、レイラ」
「アタシは正直者だから、うまいもんはうまいって言うよ。おかわり!」
「はいはい。今作るよ。……そういや聞いたか。来週城で舞踏会があるんだってよ。国中の、未婚で結婚適齢期の女は全員参加。王子の花嫁探しが目的だって話だ。うちにも、レイラ宛に届いている」

 ライリーがなんか高そうな封筒を出す。フウロウっていうのかな。厚手のシールみたいのが捺されている。

「ムリ」
「即答するな。王室からだから、理由なしに断ると罪になるぞ」
「えーー。でもドレスないしー、ダンスなんてムリだしー」

 なにそれこわい。家出して貴族の娘やめても、舞踏会は強制イベントなわけ? この世界の神さまは、アタシに原作《シナリオ》通り城に行けやって言ってんの?

「ドレスが無いなら貸衣装屋に行けばいい。近所の娘達はみんなそこを利用するようだから。レンタル代なら出してやる」
「いらないよ。アタシが抜けたら誰が接客やるの。アタシ抜きでランチタイムとディナータイムの激混みをさばけるの?」

 ここ2ヶ月、食事時はめちゃくちゃ混む。2時間以上満席状態が続く。ライリー一人で注文を受けて調理配膳洗い物なんてできない。
 ライリーいわく、前までは閑古鳥状態で、めったに混まなかったらしい。
 こんだけ美味いんだから、味を知った人がリピーターになるのは当たり前。

「だ、だが、王城の命に背くのはだな。1日くらい俺一人でなんとかするから、舞踏会に出たらどうだ。レイラは女の子なんだから、こんな片田舎のレストランなんかより、きらびやかなところがいいだろう。王都にあこがれて何人もこの町を離れていくのを見てきた」
「そんなことないよ。アタシ、ライリーの作るごはんと淹れる紅茶好きだもん」
「す、好きなんて簡単に言うな」

 あらま照れちゃって。アタシよりずっと年上なのに、なんて初心なんだろう。

「とにかく、国王主催の舞踏会を拒否なんてできないんだから、行ってこい。レイラも、罪に問われたくはないだろ。運良く見初められたら王妃になれるんだぞ」
「……そこまで言うなら仕方ないなぁ。パッと行ってサッと帰ってくるわ」

 まあ素材が美少女のシンデレラでも中身が庶民のアタシだし。王子様に見初められるなんて展開、ギャグ漫画でもなけりゃないっしょ。

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