ウサギ獣人メイドのスーは、御家が没落してもお嬢様を支えます!
わたしはスー。元メイドのウサギ獣人です。
昨日までクロウ伯爵家に仕えていました。
元メイド、という肩書きになった理由は……伯爵様がものすごい金額の借金をこさえて、残ったお金を持って夜逃げしたからです。
そんなわけで、跡取り娘だったアビゲイル様と一緒に野宿中です。
他の使用人たちは次の職を探しにいきましたが、わたしは無理です。
わたし、人間の言葉で簡潔に言うならただのウサギなんです。
エプロンドレスを着た二足歩行のウサギ。体長は一メルテありません。
せめて人狼のような人型の獣人だったら雇ってもらえたかもしれません。
獣の血が濃いウサギ獣人は、力仕事に向かないので奴隷としても使いづらい。だから人間からはゴミ扱いなんです。
なぜわたしがクロウ家にいられたのかと言えば、幼い頃のお嬢様がわたしを拾ってくださったからです。
十年前に拾われて以来、ずっとお嬢様のおそばにおりました。
ですから、お嬢様がお嬢様ではなく、ただのアビゲイルになったとしても、わたしはおそばで支えたいのです。
アビー様、十八歳になったばかりですのに、お父様を失ってお労しや。
「アビー様、お水をくんできました。飲んでください」
「ありがとう、スー。あなたも休みなさいな」
「わたしは獣人ですから、頑丈なんです。だからわたしを使ってください」
「使う、なんて物みたいな言い方をしてはだめよ、スー。それに、もう敬語を使わなくていいわ。伯爵家は没落。私はもう、ただのアビゲイルなのだから。ただの友として扱ってちょうだい」
気丈に振る舞うアビー様。
身一つで出てきたので、身につけているアンサンブル一着しかありません。
絹のシーツが敷かれたベッドで寝る身分だったのに、今は集めた葉っぱが寝床。
「でも、でも、アビー様はわたしを助けてくださった恩人です。だからどんな身分になったとしても、わたしはアビー様をアビー様と呼びたいです」
「ふふふ。あなたは意外と頑固よね」
アビー様の手がふんわりとわたしの頭をなでてくれます。
「スー。あなたがいてくれてよかった。私、一人きりだったらショックで泣くことも話すこともできなかったわ」
「……アビー様がいなかったら、わたしは十年前、町のはずれで餓死していたでしょう。だからスーの命はアビー様のもの。命ある限りアビー様にお仕えします。なんだって申しつけてください。アビー様が母となり、祖母となり、孫を抱くまでお守りするのがスーの目標ですから」
頼りないかもしれませんが、わたしは、全身全霊でアビー様を支えたいのです。
「ありがとう、スー。そうね。私がんばるわ。スーに私の孫を抱っこさせてあげないといけないんだもの。まずはどこかで住み込みの下働きをしましょう。お金ができたら二人で住める場所を探して……」
お嬢様は月を見ながら今後の計画を立てます。
「私もスーの子と孫を抱っこするまで死ねないわ。ね、スー」
「はい。アビー様」
三ヶ月後。
アビー様はご当主様の逃亡から野宿、下働きをするようになった半生を出版社に持ち込み、ベストセラーとなりました。
元伯爵様はそのことを知り、わたしとお嬢様の住まいに突撃してきました。
「印税が入ったなら半額よこせ。父親を敬えアビー!」と玄関先で叫んでいます。
あらまあ、逃げる前までは上質なダブルスーツを着ていらしたのに、よれて黄ばんだシャツを着ています。
「どこのどなたか存じませんが、おひきとりくださいませ。ご主人様はお忙しいのです」
町の警備兵を呼んでお引き取り願いました。
お嬢様がこの突撃のことも続編の本に記したので、以来二度と訪れることはありませんでした。
五年後、お嬢様は出版社の担当者様とご結婚されてかわいらしいお嬢さんが生まれました。名前はリエル。
リエル様はアビー様に似てとても聡明な子で、お可愛らしいのです。わたしをスーお姉ちゃんと呼んであとをついてきます。
目に入れても痛くないってこういうことを言うんですね。
アビー様とリエル様、そしてアビー様の旦那様を支えるために、スーはこれからも頑張ります。
昨日までクロウ伯爵家に仕えていました。
元メイド、という肩書きになった理由は……伯爵様がものすごい金額の借金をこさえて、残ったお金を持って夜逃げしたからです。
そんなわけで、跡取り娘だったアビゲイル様と一緒に野宿中です。
他の使用人たちは次の職を探しにいきましたが、わたしは無理です。
わたし、人間の言葉で簡潔に言うならただのウサギなんです。
エプロンドレスを着た二足歩行のウサギ。体長は一メルテありません。
せめて人狼のような人型の獣人だったら雇ってもらえたかもしれません。
獣の血が濃いウサギ獣人は、力仕事に向かないので奴隷としても使いづらい。だから人間からはゴミ扱いなんです。
なぜわたしがクロウ家にいられたのかと言えば、幼い頃のお嬢様がわたしを拾ってくださったからです。
十年前に拾われて以来、ずっとお嬢様のおそばにおりました。
ですから、お嬢様がお嬢様ではなく、ただのアビゲイルになったとしても、わたしはおそばで支えたいのです。
アビー様、十八歳になったばかりですのに、お父様を失ってお労しや。
「アビー様、お水をくんできました。飲んでください」
「ありがとう、スー。あなたも休みなさいな」
「わたしは獣人ですから、頑丈なんです。だからわたしを使ってください」
「使う、なんて物みたいな言い方をしてはだめよ、スー。それに、もう敬語を使わなくていいわ。伯爵家は没落。私はもう、ただのアビゲイルなのだから。ただの友として扱ってちょうだい」
気丈に振る舞うアビー様。
身一つで出てきたので、身につけているアンサンブル一着しかありません。
絹のシーツが敷かれたベッドで寝る身分だったのに、今は集めた葉っぱが寝床。
「でも、でも、アビー様はわたしを助けてくださった恩人です。だからどんな身分になったとしても、わたしはアビー様をアビー様と呼びたいです」
「ふふふ。あなたは意外と頑固よね」
アビー様の手がふんわりとわたしの頭をなでてくれます。
「スー。あなたがいてくれてよかった。私、一人きりだったらショックで泣くことも話すこともできなかったわ」
「……アビー様がいなかったら、わたしは十年前、町のはずれで餓死していたでしょう。だからスーの命はアビー様のもの。命ある限りアビー様にお仕えします。なんだって申しつけてください。アビー様が母となり、祖母となり、孫を抱くまでお守りするのがスーの目標ですから」
頼りないかもしれませんが、わたしは、全身全霊でアビー様を支えたいのです。
「ありがとう、スー。そうね。私がんばるわ。スーに私の孫を抱っこさせてあげないといけないんだもの。まずはどこかで住み込みの下働きをしましょう。お金ができたら二人で住める場所を探して……」
お嬢様は月を見ながら今後の計画を立てます。
「私もスーの子と孫を抱っこするまで死ねないわ。ね、スー」
「はい。アビー様」
三ヶ月後。
アビー様はご当主様の逃亡から野宿、下働きをするようになった半生を出版社に持ち込み、ベストセラーとなりました。
元伯爵様はそのことを知り、わたしとお嬢様の住まいに突撃してきました。
「印税が入ったなら半額よこせ。父親を敬えアビー!」と玄関先で叫んでいます。
あらまあ、逃げる前までは上質なダブルスーツを着ていらしたのに、よれて黄ばんだシャツを着ています。
「どこのどなたか存じませんが、おひきとりくださいませ。ご主人様はお忙しいのです」
町の警備兵を呼んでお引き取り願いました。
お嬢様がこの突撃のことも続編の本に記したので、以来二度と訪れることはありませんでした。
五年後、お嬢様は出版社の担当者様とご結婚されてかわいらしいお嬢さんが生まれました。名前はリエル。
リエル様はアビー様に似てとても聡明な子で、お可愛らしいのです。わたしをスーお姉ちゃんと呼んであとをついてきます。
目に入れても痛くないってこういうことを言うんですね。
アビー様とリエル様、そしてアビー様の旦那様を支えるために、スーはこれからも頑張ります。
1/1ページ