六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 魔王がリュウを引き取ってから、はや三年がすぎました。

 話せる単語も増えて、自分の足で歩けるようになりました。

 今日は銭湯が休業日なので、魔王はリュウを連れて散歩に出ました。
 右手はリュウの手を握って、左の肩には保冷ショルダーバッグをかけて。
 ゆっくりリュウの歩調に合わせて農道を歩きます。
 ゴールデンウィーク間近で日差しはポカポカ。

 魔王とリュウはご近所さんから親子ペアルックというものをもらい、おそろいの白い帽子をかぶっています。
 

「おとーさん。わしははらがへったのう」

 
 魔王が育てたから、喋り方はそのまんま魔王のものがうつりました。

「おお、そうか。それじゃあそろそろ弁当を食べようかの。畑の方に行けばトメもいるはずだ」

 左肩の保冷バッグには、お弁当が二人分入っています。
 最初は小さなパックだったけど、リュウのお弁当箱は年々大きくなります。
 食欲旺盛。

 このままドラゴン時の魔王のように頑丈ででかい男になることを願うばかりだ。

 カブ畑に差し掛かると、トメさんとみんなが野菜コンテナを椅子にして昼休憩をはじめるところでした。


「おうい、トロさんや。おれらこれから昼飯にするけ、トロさんもなじらね」

「そうしようかの。リュウ。みんなで食べよう」
「うむ!」

 たくさん食べて笑って、リュウは食べたらすぐ眠ってしまいました。
 寝る子は育つといいますし、いい傾向だと魔王は喜びます。


 魔王がリュウをおんぶして、空になった弁当箱はトメさんが持ってくれました。

 のどか荘の玄関にはケルベロス専用の犬小屋もできていて、ケルベロスが出てきました。

「わうわう!」
「おお、今帰ったぞケルベロス」

 部屋にあがると爺やが鳥かごの中でバタバタわめいています。


「なぜ爺めを置いていくのですか魔王さまぁあーーーーー! 爺めも、オサンポしたいーーー!」
「すまんのう。外に出したらカラスに襲われるであろう」

 わめいても地球の人間に翻訳スキルはないので、通じません。

「今日もジーヤちゃんは元気だねぇ」

 トメさんがからから笑ってリュウ用の布団をしいてくれます。
 そこにリュウを寝かせて、ブランケットをかける。
 成人するまであと何年か。千年単位の命を持つドラゴンには数十年なんて瑣末なこと。
 小さき命の頭をなでてやります。

「よしよし。たくさん寝て食べて、儂より大きく立派になるのだぞ、リュウ」

 りっぱな魔王軍幹部に育てるまでの道のりは、長く長く続いていきます。




 END


45/45ページ
スキ