六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 11月になったばかりのある日のことです。
 小田家に宅配便が届きました。
 小田は高校に行っているし、ユーシャもバイト中なので不在。
 唯一家にいたマージョが受け取ることになりました。

 差出人の名前は小田くに子。小田の姉がそんな名前だと言っていたように記憶していました。
 箱には「弟へ指令。届いたらすぐに私の部屋のクローゼットに収納しておくこと」と書いてあります。

「まあ! ミッションですのね。すぐにと書かれておりますし、いつもお世話になっているお礼にわたくしが代わりにしまっておきましょう」

 マージョは指令通りに小田姉の部屋に箱を持っていき、封を開きました。
 すると中から出てきたのは魔女服でした。テレビで見ていた魔女っ子のものです。
 ピンクと白のひらひらしたもの、ステッキまできちんとそろっています。

「まああああ! なんてことかしら。小田さんのお姉様は魔女だったのですね! ご近所のおばさまは「この世界に魔女なんていないのよ」っておっしゃってましたけれど、そうか、そうなのですね。わたくしがこうしてひっそりと生きているように、小田さんのお姉様もきっと打倒魔王のために人目を忍んで生きているのですわ!」

 自分の仲間を見つけたことで、マージョは心底感動しました。きっと弟の小田も言葉にしないだけでひそかに魔王と戦うために頑張っている戦士なのです。魔女っ子アニメでもそうでした。

 小田が帰ってきてからマージョは小田にかけより、力説します。

「さきほどお姉様から魔女の衣装が届きましてよ。ああ、やはりこの世界にも魔女はいたのですね! わたくし、わたくし、感動で涙が止まりません」
「……なんのことです?」

 マージョに言われて小田は首をかしげつつ、姉の部屋に入り、届いた者を見て納得しました。
 小田の姉はいわゆるコスプレイヤーで、一人暮らしのアパートに置ききれなくなるとこうして衣装を送ってくるのです。近年のお気に入りはキュアシリーズ。
 クローゼットは歴代キュアの服でパンパンなのです。

 鼻息を荒くしてはしゃぐマージョに「これはただの仮装。姉さんがあのアニメの服を作っただけです。うちの家系に魔女なんていません」と真実を告げます。

 あからさまに意気消沈して膝をついてしまったマージョ。

「……なんかごめんね?」
「いいえ、いいのです。いつかきっと本当の魔女仲間に出会えるのですわ!」



 後日。ただの衣装と聞きつつも、こっそりステッキを借りて玄関先で振るマージョでした。

「悪い魔物さん、お覚悟ですわ!」



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