六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 さて、魔王がリュウを育てるようになって一年と三ヶ月。
 リュウは日に日に口にできる単語が増えていきました。
 仕事が休みの日、魔王がガラガラを振ってリュウをあやしていると、リュウは魔王を指さして言います。

「まーま」
「おー。儂はここにおるぞ、リュウ」

 次にケルベロスをさして

「べー」
「ワウ!」

 爺やをさして

「じー」
『Gではない、サンダーバードだ! ごっきーみたいに呼ぶな!』

 まだまだリュウのことを魔王の配下だと認められない爺やは、Gと呼ばれてご立腹。鳥かごの中でバッサバサと羽ばたきます。

「そう怒るでない爺。儂が爺と呼んでいるから爺と覚えたのやもしれぬ。儂の言うことを忠実に覚えるとは勤勉な配下ではないか」
『ぬぬぬぬ……』

 魔王にそう言われてしまっては、爺やはなにも文句を言えなくなってしまいます。

「登呂さん、七夕だから町内に笹飾りをするんらよ。短冊を書いておくれ」
「短冊とな」
「星に願い事をするお祭さね」
「ほう! ならばリュウが健康に育つように」

 日本語を書くのもばっちり習得した魔王。筆ペンでさらさらと書き上げます。

『魔王様、できれば爺とケルベロスが本来の姿に戻れるようにというのも書いてください! もしくは日本征服』
「トメ。短冊の願い事というのはいくつもしていいものなのか?」
「お星様が困っちまうから、一人一つにしといた方がいいんじゃないかね」
『そんなああああ! では爺をひとりと換算して書いてくださ……』

 目の前のインコがそんなことを言っているなんて、トメさんにわかるはずもありません。
 短冊は一枚しかないのですから。
 なら魔王の願い事はやはり、リュウが健康で立派な幹部に育つことでした。

『くそう星め。“ユーくんとりんりん、ラブラブフォーエバー☆”なんていうくだらないものを叶えるくらいならこのサンダーバードをもとにもどせえええええええ!!!!』

 散歩に出てその笹飾りを見かけるたび、爺やは恨めしくうなるのでした。



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