六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 上り電車が一日五本しか来ないようなド田舎|のどか《・・・》村ですが、クリスマスは田舎にもやってきます。
 あちこちの家の玄関先にクリスマスツリーが飾られ、ゆきだるまが鎮座しています。

 テレビで学んだので、異世界人の勇者もクリスマスというものを知っていました。

 クリスマスとは、サンタクロースという老人が世界中の子どもの家をめぐり、プレゼントを贈る日です。

 十二月二十四日の朝。
 冬休みに突入したので、小田は平日だけど在宅中でした。
 勇者はリビングの中を右に左に行き来して、ときおり窓の外を見てはまたリビングの中をうろつきます。

「ユーシャさん今日はバイトが休みだったよね。なんでそんなにソワソワしているのさ」
「そうよユーシャ。うっとうしいったらありゃしない。足音がうるさくて魔法少女ミラの声が聞こえないじゃない」

 マージョは日本にきてこっち、魔法少女アニメにドハマりしていました。
「日本にはわたくし以外にも魔法を使える者がいるのね!? 会いたいですわ!」と。
 いつかまた魔法が使えるようになったときのため、日夜ステッキを振り回しています。
 ご近所の皆さんには「さすがユウの妹」と言われていました。

 二人に白い目で見られて、勇者はピコハン片手に答えます。

「私はサンタクロースを待っているのだ。たった一晩でこの広い世界を一周する……並大抵の人間にできることではない。もしかしたら、サンタクロースの乗るそりを引くのは魔王の手下、サンダーバードかケルベロスどちらかではないかと踏んでいるんだ。だから迎え討たねば」
「いや、それはない。絶対ない」

 真面目な顔をして放たれた言葉を聞いて、小田はがっくりと肩を落としました。
 小田の反応と違い、マージョは真剣そのものです。

「そうねユーシャ、そうに違いないわ。きっと力を無くしたリュウを魔王に戻すためにやってくるかもしれないわ!」

 両手を強く握りしめて拳を振り上げました。
 そもそもリュウが魔王という推測自体が間違っているのですが、二人の脳内では「リュウ=魔王説」で固定されているのです。

 対サンタクロース防衛作戦を練りはじめる二人を見て、小田はどう説明したものか悩みます。

「あのさ、ええと、サンタクロースっていうのはずっと昔から地球にいる人だから、今年日本に来たっていう魔王軍とは関係ないんじゃないかな」
「騙されてはいけませんわ小田さん。ケルベロスとサンダーバードは、魔王と同じように擬態《ぎたい》しているのかもしれません! サンタクロースのそりを引くトナカイに!」
「えええぇ……」

 妄想力豊かすぎてツッコむ気力もありません。

 そのとき玄関のチャイムが鳴り、リビングにつけられたインターフォンインカメラを覗くと赤服に身を包んだ男が映っていました。

「キマシタワーーーー!!」
「ま、待ってマージョさん、これたぶん町内会ちょ」
「大丈夫です、小田さんには危害が及ばぬよう守りますから!」

 小田の制止は間に合わず、勇者とマージョがそれぞれピコハンとステッキを手に玄関から飛び出して行きました。

 間髪おかず玄関から聞こえてくる町内会長の悲鳴。


 実は町内会長、毎年サンタの格好をして、町内の子どもたちにプレゼントを渡してまわっているのです。

 小田が急いで町内会長を助けに行きましたが、ときすでに遅し。
 玄関先で目を回している町内会長。その横には赤帽子とカツラが落ちています。

 小田の説明を聞いて、マージョと勇者は町内会長に土下座して謝り倒しました。

「中二病もここまで来ると大変ねぇ」と、ご近所さんの話題になったのは言うまでもない。



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