六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 リュウを育てるようになってもうすぐ七ヶ月。

 リュウの下前歯が生え、ついに石谷《いしや》から「そろそろ離乳食をはじめてもいい時期らな」と言われました。

「一日一回からはじめて、生後八ヶ月にさしかかる頃一日二回に増やす。それ以外の時間はこれまでどおりミルクをやるんら」
「わかった。いつもすまんの、石谷先生」

 診察が終わり、魔王はリュウをおんぶして意気揚々と畑に向かいました。
 魔王は当たり前のようにトメさんに報告しに来たのです。
 トメさんはサツマイモの収穫作業中。
 畑の手前に大小さまざまなサイズの芋が積まれています。

「トメ、トメ! 聞いてくれ。離乳食がはじめられるぞー!」
「おやぁ、良かったじゃないか登呂さん。それじゃあさっそくこのお芋で、リュウのためなとっときの離乳食を作らないとね」
「うむ。作り方を教えてくれ」

 トメさんの収穫作業が終わったら、のどか荘に一緒に帰ります。
 最近は涼しい日が増えて、焼け付くようだった日差しは穏やかなものになって、過ごしやすい。

 教えられるまま、のどか荘の台所に立ち、サツマイモの皮をむいて水にさらします。茹でて熱いうちにスプーンですりつぶし、少しずつお湯を加えてのばす。

 リュウにあげるまえに、自分でも味見をしてみます。

「これが秋の実りをいうものか。美味いのう」

 砂糖を加えたわけではないのに甘くて、優しい舌触りです。

「それくらいのかたさでええ。ほれ、登呂さん。この器に入れて、小さいスプーンで食べさせておやり」
「うむ」

 今回食べさせる分以外、十食分ほど製氷皿に入れて冷凍しました。また食べさせるときに解凍します。

 リュウにとって生まれて初めての、ミルク以外の食事。初めての味に目を見開き、ほっぺたがゆるんでいます。

「あぅあう〜」
「そうか、うまいか。また明日作るからの」

 せっかくなのでケルベロスと爺やにも、茹でたサツマイモをおすそ分けしました。

「ワンワンワンワン!」
『ふん。小さき種族の食事など……ガツガツガツ』

 喜んでむさぼるケルベロス。爺やも、ぶつくさ言いながらもがっついています。

「儂らも食べるかの」
「そうしようかね」
 
 魔王の分はさつまいもサラダになりました。ご飯にのせて大満足です。

「自然の恵みのなんとうまいことか。五〇〇年生きて初めてだ」
「ハッハッハ。五十年ならまだしも、人がそんなに生きられるもんかね」

 ユウやマージョが中二病ど真ん中の妙な発言をするものだから村のみんなは慣れてしまい、魔王がちょっとずれたことを言うくらい誰も気に留めません。

 これ以降魔王は料理に目覚め、トメさんに聞きつつカブペーストやおかゆなど離乳食に属するものをたくさん作れるようになりました。

 離乳食専門の料理人になれるのではないかと自画自賛するほどです。


 マージョがライバル意識を燃やし、「わたくしのほうが料理歴が長いのです。登呂さんよりもっと美味しいものを作れますわ!」と言いながら炭を量産しはじめるのでした。


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